日本国内では、現在も大手SIerが企業のITシステム開発の多くを担っています。近年、このSIerの将来性について悲観的な声が挙がっています。SIerの将来性は果たして本当に低いのでしょうか。ここでは、SIerへの転職・就職を検討しているが将来性が不安と思われている方や、このままSI業界に居続けていいのか不安に感じている現役エンジニアに向け、SIerの将来性をさまざまな角度から整理・分析していきます。
- 1. SIer(システムインテグレーター)とは?わかりやすく解説
- 2. SIerの将来性が「ない」と言われる理由
- 3. 今後もSIerはなくならないと言われる理由
- 4. SI業界の将来を踏まえエンジニアがとるべき対策
- 5. SIerからの転職の選択肢
- 6. まとめ
1. SIer(システムインテグレーター)とは?わかりやすく解説
複数のハードウェア・ソフトウェアなどを用いて、部門横断型の汎用的なITシステムを生み出す業務のことを「SI(システムインテグレーション)」と呼びます。そして、そのSI業務を提供する事業者のことを指す言葉が「SIer(システムインテグレーター)」です。SIerは特定の技術に依存せず、顧客要望にマッチするシステムを創出するために、さまざまな技術を用います。
30年以上の歴史
SIerは90年代に政府の主導により生まれた業界です。90年代に大規模なシステムの需要が高まったので、SIerが誕生したという経緯があります。現在も当時から稼働している、官公庁や金融機関のプロジェクトが複数あります。
2000年代に入るとITバブルが崩壊し、多くの企業がSIerに情報システム部門を売却しました。これにより他業界から派生したSIerも増えていきました。
SESやSEとの違い
SESはシステムエンジニアリングサービス、SEはシステムエンジニアの略です。SESはエンジニアを雇用している企業が顧客と契約し、エンジニアの労働時間を提供するサービス形態です。SEは職種なので、SIerとは明確に異なります。
SESとSIerは近いですが、SIerの方がより広義です。システム開発を請け負っている企業全般がSIerに該当します。SIerの中でシステムエンジニアリングサービスに特化している企業がSESに当たります。
SIerの種類
SIerは大きく分けて3種類、もしくは4種類に分けられます。まず3種類で区分する場合、以下になります。
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・メーカー系
・ユーザー系
・独立系
4種類に分類する場合、上記3種類に外資系が加わります。それぞれの分類について詳しく知りたい方は、以下の記事をご参照ください。
SIの仕事内容|SIerの種類、開発工程ごとの業務を徹底解説
SIerの仕事内容
SIerの仕事はシステム開発全般です。工程を細かく分けると、要件定義、設計、開発、運用です。SIerの中でも大手企業は上流工程を担当することが多く、下請けの中小企業は下流工程を担当することが多いです。
2. SIerの将来性が「ない」と言われる理由
SIerの将来性について解説します。ここ数年の間に、SIerの将来性を疑問視する声が増えてきました。その理由としては、次のようなものが挙げられます。
クラウドの普及
クラウドサービスの成熟は、SaaS、IaaS、PaaSといったプラットフォーム・インフラ構築をサービス化しました。また、実際のサービス開発もクラウドで賄えるようになり、ゼロベースでのスクラッチ開発を選択する理由が無い時代に突入しています。日本のSIerが最も得意としていた「独自仕様のスクラッチ開発」の需要自体が低下しているわけです。
慢性的な高コスト体質
Slerは大手になればなるほど発注コストが高くなり、一定以上の規模感を持つプロジェクトでなければ採算が合わないのが実情です。しかし、多大なコストを投じて作り上げたシステムが、それに見合った効果を発揮してくれるとは限りません。
むしろ現代は、小さく作って頻繁に試行し、状況に応じて組み替える「スモールスタート」「マイクロサービス」がトレンドです。こうしたトレンドとSIerのビジネスモデルがマッチしていないことも、将来性を危惧される要因のひとつでしょう。
「創発型」の高付加価値な提案がしにくい
これまでの国内SIerが最も得意としていたのは「顧客要望を忠実に実現する」ことです。要望を忠実に再現するだけの正確さ、技術力、動員力を持っていました。その一方で、顧客のビジネスモデル転換のきっかけになるような「高付加価値型」「創発型」の提案はあまり行われていませんでした。これはSIerの問題というよりも、日本社会全体の慣習というべきかもしれません。
エンジニア不足による「動員力」の低下
SIerの強みのひとつに「動員力」があります。これまではITエンジニアをスピーディーかつ大量に調達できていたため、大規模な案件をいくつも抱えることができました。しかし、現代はITエンジニア不足が深刻化しています。
みずほ情報総研の調査によれば、2030年時点で、最もIT需要の伸びが小さい場合でも16万人のエンジニア不足が発生すると予測されています。さらにIT需要が2~5%伸びる中位シナリオでは45万人、3~9%伸びる高位シナリオでは79万人が不足するとの試算もあるほどです。こうした調査結果の影響からか、SIerはこれまでのように「動員力」を発揮できなくなり徐々に優位性を失っていく、という見方が強まっています。
参考:みずほ情報総研株式会社「 IT人材需給に関する調査」
リカーリングビジネスの減少
リカーリングビジネスとは、「継続的な収益をもたらすビジネス」を指します。IT業界は華やかな開発フェーズのみに目を奪われがちですが、本当の旨味は開発終了後の「運用保守フェーズ」にあると言えます。
SIerは自らが手掛けたシステムの運用保守を担い、継続的な収益の柱としていました。つまり、リカーリングビジネスがSIerの収益基盤を支えていたのです。しかし、クラウドサービスやパッケージソリューションが普及すれば、運用保守は内製化されていき、リカーリングビジネスのパイは減少していくでしょう。これはSIerの収益基盤の弱体化につながりかねません。
3. 今後もSIerはなくならないと言われる理由
SIerの将来性については、確かに不安材料が多いです。しかし、現時点でSIerの業績は好調であり、5年程度のスパンで見れば明るい材料があることも事実です。
大型案件はSIerの独壇場
政府系機関や公共性の強い事業者、金融機関などの大型プロジェクトはSIerでなければ受注できないのが実情です。また、こうした大型案件はほぼ毎年と言ってもよいほど発生するため、常に一定の需要が見込まれます。
「2025年の崖」に代表される旧システムの移行問題
経済産業省が公表した「2025年の崖」にもあるように、レガシーシステムの老朽化は経済損失をもたらすリスクを孕んでいます。こうしたリスクを避けるように、今後数年で基幹システムや業務システムが新システムへと移行していくでしょう。システムのマイグレーション作業は大規模プロジェクトになることが多く、各種調整を行いながら豊富な人員を投入できるSlerの力が不可欠です。
DX需要の増加
多くの企業が高効率・高付加価値経営を目指すため「DX(デジタルトランスフォーメーション)対応」を実行に移しています。DX対応では、CRM・MA・SFA・ERPなど、比較的規模の大きな企業向けパッケージソリューションが導入されることから、SIerの持つ力が発揮されやすい状態です。
また、こうしたパッケージソリューションは、スクラッチ開発の独自システムに置き換わっていくでしょう。つまり、既存の独自システムを導入したSIerが、当時のノウハウを活かして再度パッケージソリューションの導入も担う、というケースが想定されます。
プラットフォーマーへの転換
国内事業とは別に、海外で新たなビジネスを立ち上げるケースもあるようです。例えば、海外で決済システムのプラットフォームを構築し、プラットフォーマーを目指しているSIerもあります。これまでの「受託者」とは全く別のポジションを狙い、収益を確保しようという試みです。
中小SIerは生き残り戦略を見直す時期
中小SIerはもともと身軽というメリットがあります。そのため、大手SIerの下請けとしてプロジェクトに参画するだけでなく、並行して自社開発などを行っているケースも多いです。ひとまずは下請けSIerで収益を出し、並行して自社サービスを開発することで収益を伸ばしていくというスタンスです。
今後は中小SIerの活動の幅はより広がっていくでしょう。大手SIerの下請けだけを行うか、自社でのシステム開発、アプリ開発、その他プロジェクトのマネジメント業務、などに乗り出していくかどうかで中小SIer企業の明暗は変わってくると考えられます。
求人はまだまだ安定して多い
SIerの求人数はまだまだ安定して多いです。たとえばレバテックキャリアでは、2022年6月時点で2241件の求人があります。SIerの業態が不安視されることはありますが、SIerの市場自体は拡大しています。
特に金融業界、公共機関では安定してSIerの需要があります。SIerに投入される資金が縮小して待遇が悪くなるような可能性はありますが、需要は安定しているので仕事はあるということです。そのためエンジニアにとっては、スキルがない時期にSIerで修業を積む、スキルを身につけたら別業界に転職する、といった選択肢もあります。
またSIerの中でも下請けだけでなく自社開発などを行っている企業も多々あるので、そういった企業に在籍すればSIerであることは問題になりません。
4. SI業界の将来を踏まえエンジニアがとるべき対策
SI業界で働くエンジニアがとるべき対策を紹介します。IT業界は人材不足が叫ばれる一方で、「2030年には従来型IT人材が10万人余る」という試算もあります。人材不足が叫ばれているのはあくまでも「先端IT人材」であり、受託開発・保守運用などに携わる従来型IT人材は、そこまで不足していないという実情があるようです。
つまり、今後はスキル習得によって「先端IT人材への転換」を目指していくことが、年収・キャリア向上の鍵を握っていると言
えます。
今後のITエンジニアが身に着けるべきスキル
自動化、仮想化対応スキル
これまで手動で行っていたネットワーク・セキュリティ設定、ネットワーク機器のコンフィグなどの作業を、コーディングによって自動化するスキルです。
IoT関連
組込みエンジニアであれば「センシング対応」や「無線通信機能の実装」などを身に着けることで、IoTエンジニアへの転身が可能です。
UI・UX対応スキル
UIはユーザーの使い勝手、UXは体験・経験に寄与する部分です。特にUXに関連するスキルは既存のITエンジニアにはさほど求められませんでした。どちらかといえばデザイナーの領分だったからです。しかしWebサービスの競争が激化する中で、「使いやすく快適なサービスは何か」という視点の獲得は必須です。
AI、機械学習関連スキル
ここ3年ほどで、業界業種を問わずAI・機械学習ソリューションの導入が進んでいます。「省人化・省力化・高品質」を同時に達成するには、AI・機械学習ソリューションの持つ力が不可欠だからです。AI・機械学習に関するスキルとしては、次のようなものが挙げられます。
・Python、R、Juliaなどによるコーディングスキル
・AIを動作させるための環境構築スキル
・AIに投入するデータのクレンジングスキル(データプレパレーションスキル)
・統計学の基礎知識
5. SIerからの転職の選択肢
SIerで身につけたスキルをベースに、他の職種に転職することが可能です。
Web系企業
Web系企業はSIerよりもトレンド寄りの技術を用いており、また自社開発している企業も多いです。自社開発なので、客先常駐ではなく自社で働けるという点も魅力でしょう。Web系のスキルを身につけることで、将来的に独立しやすいというメリットもあります。
SIerよりもWeb系企業の方が入社難易度が高いため、SIerでスキルを身につけ、その後Web系企業に転職するというキャリアプランも有効です。
関連記事:「SIerからWeb系」転職成功者が語る7つの秘訣
社内SE
社内SEは、IT業界以外の企業のIT部門のSEです。SIerで身につけたITスキルは他業界でも重宝されるので、社内SEとして転職することが可能です。企業にもよりますが、社内SEは間接部門なのでIT企業に在籍するSEと比べるとワークライフバランスを維持しやすいという特徴があります。
そのため、仕事とプライベートを両立するなどの目的で社内SEに転職する人が多いです。
ITコンサルタント
ITコンサルタントはITの観点から企業に提案を行う職種です。つまりプロジェクトの工程で言うと最上流工程ということになります。SIerの役職だとプロジェクトマネージャーよりもさらに上の工程になるので、IT知識、広い視野、コミュニケーション能力などが求められます。
ITコンサルタントは平均的に収入が高い傾向があるので、SIerからのキャリアアップとして選ばれる職業です。
関連記事:SIerから転職を希望する理由と問題点-理想のキャリアを叶える転職の仕方-
6. まとめ
今後もSIerでなければ受けられない仕事もあるため、全く仕事がなくなるといったことは考えにくいですが、今後はスキル習得によって「先端IT人材への転換」を目指していくことが、年収・キャリア向上につながるといえるでしょう。
またSIerの企業も多様な動きをしていて、自社開発と並行している企業も多いです。SIerでスキルを身につけて転職することも可能なので、ひとことにSIerに転職すると言っても、選択肢やその後のキャリアプランは豊富です。
SIerという括りだけで考えるよりは、企業の活動を見て、自身のキャリアプランを考え、最適な選択をしてください。
関連記事:外資系SIerに転職するには?世界的な技術に触れるチャンス
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