一部の大手を除き、ブラックなイメージを持たれがちなSIer。きつい、帰れない、給料が安い、の3Kがその代表的な転職理由として挙げられ、転職市場ではSIerから他業界への転職を希望するSEは多い傾向にあります。しかし、全ての方が希望通りの転職を実現できているわけではありません。そこには、多くの転職希望者が抱える共通の問題点が存在します。
この記事では、SIerからの転職を希望するSEに向け、レバテックキャリアのキャリアコンサルタント・西澤貫と、リクルーティングアドバイザー・髙橋哲也が、SIerからの転職を希望するSEの傾向と彼らが抱える問題点を紐解きます。
満足度の高い転職を実現するための具体的な方法も説明しますので、転職を考えているSIerのSEの方はぜひ参考にしてください。
- SEがSIerから転職を希望する理由
- SIer=ブラックではない理由をエンジニア転職のプロが解説
- SIerで働くことで得られるメリット
- SIerからの転職がうまくいかない主な理由
- 転職を成功させるために、SIerのSEがやるべきこと
- SIerについてのQ&A
- まとめ
SEがSIerから転職を希望する理由
そもそも、なぜ多くのSEはSIerからの転職を希望し、SIerで働くことが辛いと感じるのでしょうか? レバテックキャリアへ転職相談に訪れるSEの方がよく挙げる理由を紹介します。
関連記事:
「SIer・SESからWeb系」転職成功者が語る7つの秘訣
外資系SIerに転職するには?年収相場やメリットやデメリットも解説
客先常駐というワークスタイルに起因した悩み
西澤:一口にSIerといっても、所属しているSIerの商流の深さによって業務内容は異なり、抱える悩みや辛さの種類も変わってきます。そのことを正しく理解せず、SIerで働くこと自体を辞めたいと考えて相談にいらっしゃる方は意外と多いんですよ。
一般的に“きつい”と言われるSIerの仕事は、商流の深い部分、中小規模の独立系SIerや小規模のソフトハウスのSEが担当しています。そして彼らが抱えているのは、客先常駐というワークスタイルに起因した悩みがほとんどです。
中小の独立系SIerやソフトハウスに所属しているSEが転職を希望する理由としては、主に以下のような内容が挙げられます。
-
・下流工程の業務が多い
・求められるスキルセットが変わりやすい
・作業スケジュールがタイトになりやすい
・給料が上がりにくい
・希望のキャリアパス通りのアサインにならない
・新しい技術に触れにくい
中小規模の独立系SIerや小規模ソフトハウスには開発やテスト、保守といった下流工程の業務が集中しがちで、求められるスキルセットも変わりやすいです。作業スケジュールがタイトになりやすいのもこの層ですね。
また、実装やテストといったスポット案件を多く受注するSIerだと、毎月常駐先が変わって必要なスキルが変わることはありますし、スケジュールのしわ寄せはシステム開発における下流工程、開発やテストを担当するエンジニアにいきやすい傾向にあります。
給料についても、下流工程の案件ほど単価が低くなりがちなため、個人の頑張りだけで昇給しにくい部分はあるかもしれません。
髙橋:どんな案件に参画するかは発注内容次第なので、希望どおりのアサインにならないこともあります。それと同様に、古い技術を使用している企業の長期運用案件などの担当になれば、必然的に新しい技術に触れられる機会は得られにくいですね。
関連記事: SIerの将来性を解説!今後SIerはなくなるという声は本当?
大手SIerの場合は上流工程や顧客折衝の業務内容
西澤:大手SIerやプライムベンダーに勤務しているSEは前述したような状況には陥りにくく、ワークライフバランスも比較的とりやすいですし、給与水準も高いです。その一方で、以下のような理由で転職を希望する傾向にあります。
-
・上流工程にしか携われず、自分の手を動かすことができない
・クライアント折衝やプロジェクトマネジメントに疲弊している
・事業戦略など、より上流の仕事に携わりたい
彼らの場合は上流やマネジメントを経験した結果、もっと自分でコードが書ける環境に身を置きたいと考えて転職するパターンが多いですね。クライアント折衝などの調整業務も人によっては大きなストレスになり得るため、志向性が合わない場合は転職を希望されます。
関連記事: SI事業での仕事内容|SIerの種類、開発工程ごとの業務を徹底解説
SIer=ブラックではない理由をエンジニア転職のプロが解説
SIerで働くのが辛い理由には様々なものがあるとわかりましたが、だからといってSIerの労働環境が悪いと言えるのでしょうか。数多くのエンジニアの転職支援を行ってきたレバテックキャリアの経験と実績から、その実態について解説します。
西澤:結論から言うと、一般的にきついとされる中小規模の独立系SIerや小規模のソフトハウスに限ったとしても、SIer=ブラックという考え方は誤りです。上記で挙げた理由から転職を希望される方がいることは事実ですし、タイトなスケジュールで過重労働を強いるSIerがないとはいいません。
しかし、前述したようなネガティブな事象はどの業界においても起こりうることであり、会社の規模や扱う案件が似ている同レイヤーのSIerであっても、企業により置かれる状況は全く違います。
転職を支援する立場からすると、働く業界を変えた方がよいSEの方ももちろんいらっしゃいますが、今いるSIerとの相性が悪いだけで、別のSIerに行けばやりがいを持って働ける方も多いと感じています。
髙橋:SIerが人月で費用計算をしていることも、SI業界に対するネガティブなイメージを助長しているのかもしれません。人月計算とは、単純に雇う人を増やせば売上が伸びるという構造です。そのため、かつては個々人のスキルを考慮せず、とりあえず人を増やして売上を伸ばそうとするSIerもありました。
しかし、それではSI業界もそこで働くSEも成長していくのが難しいことは明らかです。多くのSIerにおいて、採用基準や社員のキャリアパスについての考え方は変化してきています。
SIerで働くことで得られるメリット
西澤:SI業界で働いていると、SIerだからこそ得られる環境やスキルに目が行かなくなりがちです。SIerで働くことで得られるメリットとして、具体的には以下のような点が挙げられると思います。
-
・世の中にインパクトを与えるような大規模案件に携われる
・幅広い企業・業界のプロジェクトに携われる
・顧客リードの力が身につく
・特定の業界や業務に関する知識が習得できる
・技術志向で仕事ができる
日本中の人々が使っている銀行やクレジットカードのシステムをはじめ、今私たちが使っているシステムの大部分はSIerによって開発されています。そういった社会的に影響力のある巨大プロジェクトに携われるのはSIerの醍醐味です。
また、先ほどネガティブな理由のひとつとして挙げられていた常駐先ごとに求められるスキルセットが変わるという点も、様々な企業や業界のプロジェクトに携わることで経験の幅が広がるという意味では、ポジティブな側面もあります。
髙橋:顧客リードの観点では、SIerは企業の規模に関わらず、クライアントや外部の協力会社と関わりながら仕事を進める機会が多いため、折衝能力や管理能力といったスキルを伸ばすことができます。ゆくゆくはプロジェクトマネージャーや社内SEといったポジションに就きたいと考える人には、必ず求められるスキルなので磨いておいて損はないと思います。
西澤:さらに、SIerはIT技術でお客様の課題解決を図るのが仕事ですから、お客様企業に最適なシステムを提供するために、業界知識を身につけ現場の仕事を深く知る必要があります。
これは非常に重要なスキルで、業界・業務知識が浅い人が作った要件定義書はミスが起きやすく、最悪のケースではクライアント企業からの訴訟に繋がるリスクすらあります。
逆を言えば、業界・業務に対する深い理解があり、クライアント企業の顕在・潜在的な課題を解決するシステムを設計できる人は市場価値が高まります。年収も上がりやすいですし、転職市場でも引く手あまたの人材になれるはずです。
髙橋:技術志向という意味では、サービスではなく技術に主軸を置いて働くことができるのがSIerなので、技術起点でのアーキテクチャの作成や既存システムの最適化などのスキルを伸ばすことができます。
以前は経験年次が上がるとマネージメントに役割が寄りがちな傾向もありましたが、最近では技術志向性の高いSEに向けたスペシャリストコースなど、専門特化したキャリアパスを用意するSIerも増えてきています。
SIer=手を動かせない、といったイメージを持っている方もいるかもしれませんが、徐々にSIerを取り巻く環境も変わってきていますね。
SIerからの転職がうまくいかない主な理由
レバテックキャリアには、SIerからの転職を希望するSEの方が多く相談に訪れます。しかし、全ての方が希望通りに転職を成功させているかというと、残念ながらそうではありません。転職活動がうまくいかない人にはどのような特徴があるのでしょうか。
転職の目的や叶えたいことが明確でない
西澤:SIerからの転職に限ったことではないですが、転職の目的や叶えたいことが明確でないと内定を獲得するのは難しいですし、たとえ転職できたとしても入社後に後悔する可能性が高くなります。
例えば「Web開発がしたいのでSIerを辞めて自社サービス企業に転職したいです」という方がいますが、Web開発そのものはSIerの案件でも携わることができます。面接では「SIerでもできるのに、なぜ業界を変えたいのか」といった質問もされますから、しっかりと回答を用意していないと言葉に詰まってしまいます。
もちろん、今いる環境が苦しくてとにかく早く転職したい、という人もいると思います。でも、そういった状況であればなおさら「なぜ転職したいのか」「転職先で何を叶えたいのか」をしっかり考え抜いて、転職活動におけるゴールを設定する必要があります。
希望する転職先の業務内容と、やりたいことがマッチしていない
西澤:SIerで働くSEの方が転職希望先としてよく挙げるのは、以下の企業や職種です。
-
・自社プロダクト系企業(会計ソフトやERPなどの自社パッケージを開発する企業)
・ネット系サービス企業(ECをはじめとしたWebサービスを開発する企業)
・社内SE(大手企業の情報システム部)
・大手SIer(現職が中小規模のSIerの場合)
これらの企業や職種の求人はSIerの求人と比較すると母数が少ないので、結果的に競争率は高くなります。さらに、各業界ごとに業務内容や求められる志向性に特徴がありますから、自分自身が何をやりたいのか正しく理解していないとキャリアの選択を誤ってしまい、結果的に内定に至らないことがあります。
髙橋:よくあるのが、自社プロダクト系企業やネット系サービス企業といった自社サービス企業への転職を希望しながら、ご本人は特定の技術を極めることを目的化しているパターンです。
自社サービス企業が最も大切にしているものは、技術ではなくサービスです。ユーザーにより良いサービスを届けて売上げを伸ばすことが目的であり、技術は手段でしかありません。
そのため、自社サービス企業のSEには、
-
・応募先企業が属している業界に関心・知識があること
・ユーザー志向が強いこと
・課題解決力があること
といったスキルやマインドが求められますが、これらに当てはまらないSEの場合は転職しても苦しくなってしまうでしょう。
エンジニアとして技術を主軸にビジネスを行っていきたいと考えるのであれば、最初から希望の業界を狭めてしまうのではなく、自分の志向性に合わせて転職活動をした方がよい結果を得られると思いますね。
希望の企業・業界に転職する上で、自身のスキルが不足している
西澤:スキル不足の問題は、SIerから自社サービス企業への転職希望者に起きやすいですね。
例えば、各業界における開発スタイルの違いから、SIerのエンジニアと自社サービス企業のエンジニアではプログラミングスキルに差が出やすい傾向にあります。なぜなら自社サービス開発の現場では、ハイスピードでPDCAを回しながらアジャイル形式で開発を行うことがよくあるからです。
自社サービス企業では仕様検討などの議論に時間をかけるより、ローンチしてユーザーの反応をみながら改修を繰り返すなど、試行錯誤しながら進めるケースが少なくありません。
そうなると必然的に手がけるコーディング量が変わってきますから、自社サービス企業のエンジニアの方がプログラミングスキルは高くなる傾向があります。
このことに気づかないまま転職活動に臨んでしまい、思うように選考が進まず自信をなくしてしまう求職者の方もいらっしゃいます。
SEとしての自分の現在地がわかっていない
西澤:数ヶ月単位で常駐先が変わるようなSIの現場で働いていると、自分の手がけたシステムがユーザーにどのように役立っているのか、考えたり振り返ったりする余裕がなくなってしまいがちです。
しかし、自分がプロジェクトの中でどのような立ち位置にいて、どのように貢献しているのかを説明できるようになっておくことは、転職活動の明暗を分ける重要なポイントです。
そのためにも自分たちが働いているSI業界の構造や特徴を理解し、自分自身はその中のどこに所属しているのかを俯瞰して見られるようになっておいた方がいいですね。
自分の立ち位置を俯瞰して見られるようになることは、自分に求められている役割を理解し、より質の高い仕事をするための課題を発見する上でも役立ちます。さらに課題の発見は、現在の自分に足りないスキルを知るきっかけにもなります。
自分に足りないものがわかるようになれば、今後伸ばしていくべき職能を明確にすることができます。その結果、例えば足りないスキルが実装力であれば、プログラミングスキルを向上させるためにプライベートでも開発する、自社サービス企業で多用されるOSSやGitHubを扱えるようにするなど、自発的な行動を起こすことにも繋がっていきます。
髙橋:自社サービス企業の中途採用では特に、こういった課題解決能力があるかどうかで今後成長するポテンシャルがあるかをジャッジしています。課題の発見と解決のためにも、自分の現在地を把握することはとても重要なんですよ。
転職を成功させるために、SIerのSEがやるべきこと
ここまで、SIerで働くことが辛い理由やSI業界の実態、SIerのSEが転職活動で陥りがちな問題について説明してきました。それでは、満足度の高い転職を成功させるために必要なこととは何なのでしょうか。最後に、これだけは押さえておきたいポイントをお伝えします。
転職の目的と希望を整理する
西澤:転職で自分が何を求めているのかを把握し、転職の目的と現状の課題を整理すること、まずはここから始めましょう。
髙橋:転職で叶えたいことに優先順位をつけながら、「なぜその希望は現職では叶えられないのか?」「その希望はSIerでは本当に叶えられないのか?」を突き詰めていくと、その後求人に応募したり、面接を受けたりする場面でも迷いがなくなると思います。
西澤:「転職はしたいけど、自分が何を叶えたいのかわからない」「やりたいことはあるけど、それを実現するための方法がわからない」といった場合は、私たちを頼ってもらってかまいません。キャリアの棚卸しを行いながら、今後のキャリアパスについて一緒に考えていきましょう。
スキル不足などの理由から、すぐに希望する企業や業界の求人を提案できない場合は、課題を出したりレバテックキャリアのエンジニアからフィードバックを行ったり、長期スパンで転職活動をサポートすることも可能です。まずは一度カウンセリングにお越し下さい。
関連記事: SIerの志望動機の書き方と例文 - 「業態×職種」を意識しよう
SIerについてのQ&A
SIerについてよくある質問とその回答をご紹介します。
Q1. 中小規模の独立系SIerやソフトハウスのSEの悩みは?
開発やテスト、保守といった下流工程の業務が集中しがちで、求められるスキルセットも変わりやすいことや、作業スケジュールがタイトになりやすいこと、給与が上がりにくいことなどが挙げられます。
Q2. 大手SIerやプライムベンダーのSEの悩みは?
上流工程にしか携われず、自分の手を動かすことができないことや、クライアント折衝やプロジェクトマネジメントに疲弊していることで悩みを抱えている場合が多いです。
Q3. 転職活動がうまくいかない理由は?
転職の目的や叶えたいことが明確でないと内定を獲得するのは難しいです。さらに、たとえ転職できたとしても入社後に後悔する可能性が高くなります。
Q4. SIerのSEが転職を成功させるために必要なことは?
転職で叶えたいことに優先順位をつけながら、「なぜその希望は現職では叶えられないのか?」「その希望はSIerでは本当に叶えられないのか?」を突き詰め、転職の目的と現状の課題を整理することが重要です。
まとめ
SIerから転職を希望する人は多いです。業界内でもWeb業界、社内SEに転職した方が安泰と考えられているためです。
またSIerから他の業界に転職する場合、転職先で何がしたいのか、どのように活躍できるのかなどを明確にする必要があります。SIerから離脱することだけでなく、その後どこでどのようにキャリアアップしていくのかを明確にすることが重要で、キャリアプランが明確になっていればSIerでも自分の市場価値を高めることは可能です。
ITエンジニアの転職ならレバテックキャリア
レバテックキャリアはIT・Web業界のエンジニア職を専門とする転職エージェントです。最新の技術情報や業界動向に精通しており、現状は転職のご意思がない場合でも、ご相談いただければ客観的な市場価値や市場動向をお伝えし、あなたの「選択肢」を広げるお手伝いをいたします。
「将来に向けた漠然とした不安がある」「特定のエンジニア職に興味がある」など、ご自身のキャリアに何らかの悩みを抱えている方は、ぜひ無料のオンライン個別相談会にお申し込みください。業界知識が豊富なキャリアアドバイザーが、一対一でさまざまなご質問に対応させていただきます。
「個別相談会」に申し込む
転職支援サービスに申し込む
※転職活動を強制することはございません。
レバテックキャリアのサービスについて