- SIerとは?
- SIerが「オワコン」と言われる理由
- SIerに属するエンジニアの課題
- SIerで身につくスキル
- SIer出身エンジニアが身につけるべきスキル
- SIer出身エンジニアが評価されやすいポジション
- SIer出身エンジニアが転職を検討する際のポイント
- SIerに関するQ&A
SIerとは?
SIer(システムインテグレーター、エスアイヤー)は、顧客の要望に沿ってシステムを独自開発する業態を指します。金融機関や製造業・官公庁といった顧客を対象に、中〜大規模なITシステムの開発案件を一括受注するのが特徴です。金融システムやERP(統合基幹業務システム)など、機能や可用性に対する要求が高く、全社的に影響があるシステムを手掛けるケースが多く見られます。
SIerのシステム開発工程には、要件定義・設計・開発・テストといった作業が含まれます。そして、パートナー企業に個別の作業を委託しながら、SIerは全体を統括する役割を担います。SIerで働くエンジニアはITスキルにとどまらず、プロジェクト管理のスキルも必要です。また、顧客企業と直接やりとりするため、コミュニケーション能力や交渉力が求められる場面もあります。
SIerが「オワコン」と言われる理由
SIerの将来性が疑問視され「オワコン」と呼ばれるケースが増えてきました。これには、個別の会社での企業努力というよりも、業界全体に関わる問題が背景にあります。以下では、業界構造の観点からSIerが抱える一般的な課題について解説します。
受託開発の弊害
一般的にSIerは、エンジニアが案件に費やした労働時間に応じて売り上げを計上する、いわゆる「人月商売」と呼ばれるビジネスモデルを採用しています。そのため、同じ作業内容でも、より長い時間を要したほうが売り上げが高くなり、業務効率化や生産性向上の動機が生まれにくいという問題が指摘されています。
変化への対応
ビジネス環境の変化が早い現代では、計画段階で必要だった機能が、納品時には既に陳腐化している恐れがあります。多くのSIerでは「ウォーターフォール型」の開発手法を採用していますが、手戻りを防ぐよう計画から納品まで順に進めていくウォーターフォール型開発では、柔軟な計画変更が難しいというデメリットがあるのです。開発途中での度重なる仕様変更や、それに起因するスケジュール遅延などにより、エンジニアの労働時間が想定より増加するケースもあります。
システムの改善余地
本来情報システムは、顧客企業の業務を効率化・高度化するためのものです。しかし、SIerの受託開発ではシステムを納品することが重視され、その後の価値提供が軽視されやすいという批判があります。要件定義の段階では、発注元の意向が強く反映されるため、エンジニアからシステムの改善を提案する余地が少ない傾向にあります。
コスト競争
古くから使われているIT技術を継続して利用しているSIerは、他社との差別化が難しいという課題もあります。その技術を多くの企業が実装できる状況であれば、顧客企業はより少ない予算で開発できる企業を採用するでしょう。価格競争に陥ったSIerは、利益を確保するのが難しく、業績が低下する恐れもあります。
代替技術の登場
近年、クラウドサービスやSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)の登場により、SIerが独自に開発した機能よりも、標準化された既存機能を利用する場面が増えています。また、プログラミングをしなくても基本的なシステムが構築できるノーコードツールなども台頭し、SIerに依頼しなくても、ユーザー部門自身がIT化を推進できる環境も整ってきました。
SIerに属するエンジニアの課題
SIerの事業が「オワコン」と呼ばれるなか、SIerでのキャリアに不安を覚えるエンジニアも多いのではないでしょうか。以下では、SIerで働くエンジニアに焦点を当て、キャリアに関わる課題について解説します。
技術力が身につきにくい場合がある
SIerが手掛ける中〜大規模の案件では、プログラミング作業はパートナー企業へ委託し、SIerに属するエンジニアは設計までしか行わないケースがあります。プログラミング作業そのものよりも、Excel上に仕様書をつくる時間が長くなり、技術の習得に不安を覚えるエンジニアも見受けられます。プログラミングの技術が低い状態では、要件定義や設計の品質も下がり、開発工程で問題が発生する恐れがあります。
下請け構造によって待遇が悪化する
大規模の案件では、まず顧客企業から大手SIerへ委託し、その後大手SIerが中小のSIerへ個別の作業を委託する多重下請け構造が採用されています。中小規模のSIerでは委託される予算や確保される人件費が安くなるため、エンジニアの待遇も悪化する傾向にあります。
新技術に対応できない
SIerは顧客の要望に対応するのが第一の役割です。そのため、たとえエンジニアが望んでも、最新技術を採用する案件がなければ、それを扱うことは難しいでしょう。特に、既存システムを保守する案件では、古い技術を継続して使い続ける必要があります。
働き方に柔軟性がない場合がある
コロナ禍を背景にリモートワークの採用が増えてきましたが、SIerによっては客先常駐が主な業務形態となり、在宅勤務が認められない場合もあります。また、プロジェクト管理の仕組みが洗練されていないために、計画の変更への対応がうまくできず、その結果エンジニアの残業が増えたり休暇がとりにくくなったりする恐れもあります。
裁量を発揮する余地が少ない
SIerは顧客企業が決めたIT戦略に従って開発作業を進めるため、システムの改善提案が難しいと言われています。また、一定期間だけ特定の案件に割り振られていくため、継続して自社内の開発環境を改善し、生産性向上を追求するのが困難だという課題もあります。
SIerで身につくスキル
前述の通り、SIerでのキャリアアップにはさまざまな課題があります。しかし一方で、SIerだからこそ身につくスキルも多いです。特に他社でも応用できるスキルは、転職を検討する際にも評価されやすいでしょう。
上流工程のスキル
SIerでは要件定義のような上流工程に携わる機会が増えるため、顧客企業の要望を聞いて要件に反映させるコミュニケーション能力が身につきます。決定した仕様を顧客に説明する際など、プレゼンテーション能力を発揮する場面も多いでしょう。
プロジェクト管理
SIerは、顧客企業と直接契約してプロジェクトを統括する役割を担います。プロジェクト管理に従事するエンジニアは、進捗管理や課題管理を通して、案件が円滑に遂行できるようサポートします。プロジェクト管理のスキルを向上させれば、マネジメント系の役職へキャリアアップできる可能性も高くなります。
問題解決力
SIerの顧客となる大企業や官公庁では、システムに対する要求が高く、納期や予算にも厳しい傾向があります。プロジェクト管理においても、正確な報告や問題に対する適切な対処が求められるでしょう。このような高い要求へ応えることで、困難な課題をやりぬく力が身につきます。
異なる職種と協業するスキル
中〜大規模のシステム開発では、それに携わる人も多く、さまざまな利害関係者と協業する機会が得られます。営業などのビジネス職種はもちろん、インフラエンジニアやプロジェクトマネージャーのように、有するスキルや役割が異なる担当者と案件を推進します。システム開発の進め方を理解し、異なる立場の人と意見を合わせるスキルを身につけるチャンスとなるでしょう。
SIer出身エンジニアが身につけるべきスキル
前章で紹介したスキルとは逆に、SIerで働いていても身につきにくいスキルも存在します。以下では、エンジニアとしてのキャリアアップを考える上で、今後のトレンドを踏まえつつ、身につけるべきスキルを解説します。
DXを含む新技術
デジタル化、及びDX(デジタルトランスフォーメーション)は止まることのない大きなトレンドであり、多くの企業が取り組んでいます。そして、これらの成長する分野では、多くの技術者が必要とされています。AI(人工知能)・ビッグデータ・IoT(Internet of Things)といった新技術に携わる機会があれば、それを逃さないようにするべきです。
UI/UXに関するスキル
DXに関連し、業務のデジタル化を促進するよう、ユーザーに対するシステムの価値が重要視されるようになりました。せっかく多額の予算を費やしてシステムを構築しても、それが使われなければ意味がありません。UI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザー体験)は、これまでのSIerでは軽視されてきた傾向があったため、エンジニアはこれらのスキルを意識的に習得していく必要があります。
システム開発の効率化
テスト自動化・サーバー仮想化・DevOps(デブオプス)など、開発業務を効率化するツールが増えています。「人月商売」のSIerでは業務効率化の動機が生まれにくい傾向にありますが、働き方改善のためにも、全社的に開発環境の高度化が求められています。
ビジネス視点
顧客の要望に従ってシステムを開発するSIerでは、費やした予算に対して開発したシステムがどのような効果を生むのか、といった視点で考える機会が少ないのが現実です。エンジニアからのキャリアアップを狙う上では、技術面だけではなく、ビジネス面にも興味を向けることが推奨されます。
SIer出身エンジニアが評価されやすいポジション
SIerでスキルを磨いたエンジニアは、他の業界でも高い評価を得られる可能性があります。以下では、SIer以外のIT業界で、エンジニアが評価されやすいポジションについて解説します。
ユーザー企業
製造業や金融業など、非IT業界の会社における社内SE(システムエンジニア)やPM(プロジェクトマネージャー)などのポジションが考えられます。SIerに属してシステム開発の工程に精通したエンジニアは、システムの発注元に回っても力を発揮できるからです。特に、ビジネス環境の素早い変化に対応し、DXを推進するよう、社内の人材でシステム開発・運用を行う内製化への圧力が強まっています。
Web系企業
Webサービスを自社開発する企業のWeb系エンジニアとして、高い評価を受ける可能性があります。SIerに属するエンジニアにとっても、新技術に触れやすく柔軟な働き方ができるWeb系企業は魅力的に映るでしょう。要件定義・設計・開発・テストといった基本的な開発工程に習熟したエンジニアは、Web系企業でも求められています。
ITコンサルタント
業務分析や要件定義を中心とした上流工程に携わるITコンサルタントの役職へ移る人も多く見られます。たとえば、製造業のシステム開発に長らく携わってきたエンジニアが、製造業向けのコンサルタントへ転身するといったキャリアパスが考えられます。
セールスエンジニア
顧客企業に対する提案活動を中心に営業へ携わる役職です。エンジニアとして経験を積み、技術力を持ったセールスエンジニアは、技術的に難しい概念も顧客へうまく伝えられるため、営業部門内でも重宝されるでしょう。
SIer出身エンジニアが転職を検討する際のポイント
SIerに属するエンジニアが他の業界へ転職する際に準備するべき事項について解説します。
キャリア設計
ユーザー企業やWeb系企業など、業界によって求められるスキルは異なります。自分が持っているスキルや、これから従事してみたい事柄を洗い出し、今後のキャリアプランを検討します。
スキルの棚卸し
上記のキャリア設計に基づき、転職活動においてアピールしやすい経験を振り返ります。たとえば、Web系企業に応募する場合には、開発経験が評価されやすいでしょう。SIerの強みを活かし、マネジメント経験や上流工程のスキルを強調する方法も効果的です。
スキルの習得
希望の職種へ転職するために必要なスキルが不足していると感じた場合は、現在の仕事でそのスキルを身につける機会がないか検討してみましょう。実際の業務を通して得た経験は、高い評価につながるはずです。また、資格取得を通じてスキルを習得し、それを証明する方法もあります。
企業研究
SIerから異なる業界へ転職するには、その業界の働き方について十分に調べておく必要があります。SIerの事業構造や働き方に課題があったように、どの業界にも良い点と悪い点が存在するものです。転職エージェントを活用して、特定の業界や個別の会社について情報収集してもよいでしょう。
SIerに関するQ&A
SIer出身エンジニアが転職を検討する際のポイントを確認したところで、最後にSIerに関するQ&Aを確認していきましょう。
Q1.SIerの将来性は?
SIerの将来性を疑問視されることが増えてきましたが、SIerは今後も無くなることはないでしょう。理由は以下の3つを挙げられます。
・SIerの関わる大規模なシステムはクラウド化が難しい
・IT人材の供給が追いついておらず、今後より需要とのギャップが広がると予想されている
・システム開発の需要は今後も増していく
Q2.メーカー系SIerの将来性は?
メーカー系SIerは、大手企業である親会社の下請けとして案件に対応するため、今後も会社が無くなる可能性は低いです。そのため将来性のある職種と言えます。一方で、スキルセットが偏る傾向にあるため、自身でスキルを高めていき、将来の選択肢を増やすことが非常に重要です。
Q3.SIerと自社開発との違いは?
SIerと自社開発の違いは「誰のシステムを開発するか」です。SIerは他社のシステム開発を代行し、自社開発は自社で必要なシステムを開発・運営することを指します。
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