xRとは
xRとは、「クロスリアリティ」または「エクステンディッドリアリティ」と呼ばれる仮想空間技術や空間拡張技術を包括した総称です。xRに含まれる代表的な技術として「VR(仮想現実)」「AR(拡張現実)」「MR(複合現実)」の3つが挙げられます。
以下では、これらの技術の概要や特徴について詳しく紹介していきます。
VR(Virtual Reality:仮想現実)とは
VRとは、一定の現実味を持った仮想空間を構築する考え方、技術の総称です。また、現実と完全に切り離された世界の体験を目的としたコンテンツを指すこともあります。VR技術は、主にゲームやエンターテインメント業界で実用化されています。
VRの特徴は「非現実がベースである」という点です。専用ゴーグルやヘッドセットなどを用いて、仮想空間にいるような感覚を「視覚」「聴覚」に訴えつつ没入感を増す手法は、VRの典型例といえます。
ただし、VRはあくまでも「仮想・人工の世界」を作り出す技術であり、現実世界への干渉は行われません。
AR(Augmented Reality:拡張現実)とは
ARは、仮想的なオブジェクトで現実世界を拡張する技術の総称です。現実世界の「モノ」や「地形」「景色」などに仮想的なデータを重ね、本来なら実現していないモノ・建物・景色などを再現するといった使い方が主流です。現実世界に仮想空間を重ね合わせることで「未来の姿」「理想像」「詳細な情報」などを表現しています。
ARの特徴は、「現実世界がベースである」という点です。現実世界に仮想的なオブジェクトを追加・反映させることで、使用者に新たな体験を提供します。
たとえば、世界的にヒットした位置情報ゲームアプリ『ポケモンGO』では、スマホなどの媒体を通じてポケモンがあたかも現実の世界に出現しているかのように見えるでしょう。VRが「非現実を現実のように見せる」ことを目的とするのに対して、ARは「現実の中に非現実を追加する」ことを目的としています。
MR(Mixed Reality:複合現実)とは
MRは、現実世界と仮想世界をミックスさせる考え方、技術の総称です。現実世界と仮想世界が相互に干渉、影響しあうことをベースとしており、VRやARの進化版といわれることもあります。MR技術の活用例としては、建築物や自動車、人体標本モデルなどの3D化に利用される事例が代表的です。
MRは、現実世界のデータを取得し、そこに仮想世界のデジタル映像を重ね合わせ、現実世界と仮想世界をシンクロさせることができます。たとえば「オフィスの中央に置かれたデスクの上にMRで建築予定の3Dモデルを表示し、その周囲を歩き回りながら確認する」といったことができるようになります。
また、外見上は内部構造が確認できないものについても、MR技術を使えば中身を詳細に可視化できるようになるでしょう。
SR(Substitutional Reality:代替現実)とは
xR系の新しい概念としてSRがあります。日本語では「代替現実」と翻訳され、過去の映像を現在のように見せる「錯覚」をベースとした考え方です。過去の資料映像をリアルに再現したり、「今」と「過去」を交互に往復しながら新しい現実を表現したりする使い方が研究されているようです。
SRがコンテンツとして実用化される場合は、ゲーム・アート・スポーツなどエンターテイメント分野での可能性が高いといわれています。実際にSRは舞台やダンスパフォーマンスの公演で応用されており、より「錯覚」を楽しむための活用が進んでいます。
VR・AR・MRの主な違いを比較
VR・AR・MRの違いを簡潔に述べると、VRが現実世界に干渉しないのに対し、AR・MRは現実世界を基礎にしているという点が挙げられます。また、ほかにも用途や開発環境、かかるコストなどさまざまな違いがあります。各技術の主な違いについてまとめた表は、以下の通りです。
VR | AR | MR | |
---|---|---|---|
世界観 | 仮想空間 | 現実世界 | 現実と仮想空間の融合 |
概要 | 仮想空間に没入体験が できる技術 |
現実世界にないものを デジタルで実在させる技術 |
現実世界に仮想空間を 反映させる技術 |
メリット | ・遠く離れた人とも 同じ空間で体験がシェアできる ・映像やアニメーション、 音声や音楽なども 同時に楽しめる |
・コンテンツをシェアしやすい ・スマートフォンなど 端末を使えば誰でも気軽に 体験できる |
・デジタルコンテンツ によりリアリティを 持たせられる ・複数の人間が リアルタイムで 同時に体験できる |
主なデバイス | ・VRゴーグル ・VRグラス ・VR用HMD ・パソコン など |
・スマートフォン ・タブレット ・ARグラス など |
・HMD型ヘッドセット ・サングラスMRグラス |
コスト | スマートフォン用は比較的安価 HMD対応のVRは高価になりがち |
比較的安価 | 高価になりがち |
利用例 | ・エンターテイメント (ゲーム、映画など) ・スポーツ観戦 ・教育、研修、訓練 ・旅行、不動産 |
・企業PR ・エンターテイメント (ゲーム、SNSなど) ・教育 ・業務効率化 ・ナビゲーション /インフォメーション |
・シミュレーション ・コミュニケーション ・業務効率化 ・医療 |
ここでは、VR・AR・MRの主な違いについて項目に分けて解説していきます。
技術の基本原理の違い
VR・AR・MR技術は、それぞれ技術の基本原理に違いがあります。基軸とされている領域は以下の通りです。
-
VR…仮想現実
AR…現実世界
MR…仮想現実と現実世界の融合
MRは比較的新しい技術であり、VRとARをさらに発展させた形といわれています。
用途や応用分野の違い
VRは100%バーチャルの世界を構築するため、現実にはありえない仮想世界を体験でき、ゲーム分野や映画・映像分野で活用されています。そのほかにも、たとえば仮想スタジアムでスポーツを体験したり、教育や研修を受けたりすることもできます。
一方で、ARは現実世界が基盤です。現実にまるであるかのように商品を見せるデジタルコンテンツを使って販促を行ったり、道案内アプリに活用されたりしています。
またMRは、現実世界でできないことを仮想空間でシミュレーションしたり、デジタルコンテンツを360度見まわしたりできるため、建築物や自動車、人体など医療分野での活用が期待されています。
開発・デバイス環境の違い
VRは三次元情報を組み込む必要があり、VRゴーグルやVR用HMD(ヘッドマウントディスプレイ)などを用いることが多いです。一方で、ARは現実世界に投影するため、スマートフォンやタブレットで利用可能です。
MRは市販品のHMDが代表的なデバイスですが、スマートフォンでもMR的な機能が実現されつつあり、今後より手軽にMRを活用できることが期待されています。物理的なコントローラーではなく、手の動きを感知してジェスチャー操作が可能なデバイスも見られます。
VR・AR・MRの活用事例
xR技術がどのように使われているか、実際の活用事例を見ることでイメージしやすいでしょう。
VRは主にシミュレーションの分野で幅広く活用されています。ARはゲームやエンターテインメント分野だけでなく、電子商取引(EC)の世界でも大いに活躍しています。一方、MRは主に建築業界での活用が顕著です。以下では、VR・AR・MRそれぞれの活用事例を紹介していきます。
VRの活用事例
VRは、没入体験できるため、エンターテインメントの業界で主に活用されています。
たとえば、VRゴーグルを着用したスポーツ観戦は、まるでスタジアムにいるような臨場感を味わえるでしょう。ほかにも観光プロモーション映像をVRで制作し、疑似的な旅行体験ができるコンテンツなどもあります。
また、医療の分野では救急医療の実態を体験できるVRコンテンツなども提供され始めています。救急医療は実際の訓練が難しいため、教育用のコンテンツとして導入すれば、緊張感のある訓練が実施可能です。
ARの活用事例
ARはゲーム・エンターテインメントだけではなく、ECの世界でも活用されています。たとえば、「現実世界の商品をスマートフォンで読み取ると、カタログ情報(商品説明や仕様など)が表示される」といった仕組みは、ARの典型例といえるでしょう。
また、建築物の改築・増築を事前に確認したり、筋肉や骨の動きを詳細に再現したりと、現実世界の補完・補強を目的とした使い方をされることが多いです。
MRの活用事例
MRは、主に建築業の世界で実用化が進んでおり、次のような事例があります。
-
・進行中の建築現場(現実)と製品サンプルの3Dデータ(仮想)を重ねて表示し、それをもとに作業工程を決定する
・現地で作成した図面(現実)と、図面から作成した3Dモデルデータ(仮想)を重ね合わせ、設計を確認する
このように「現実と仮想をミックスさせる」ことで「設計が適切か」「目的を達成するためには何が必要か」を逆算できることがMRの強みといえるでしょう。
VR・AR・MRの今後の需要と有望な業界
VR・AR・MRなどの先端技術はこれからも需要が高まっていくと考えられています。xR系の技術はゲーム・エンターテイメント業界で実用化が進み、「VR・ARといえばゲーム」とイメージする方が多いでしょう。しかし、VR・AR・MRはいずれもゲーム以外の産業で活用され始めています。
「人間の動きや認識を補完、補強する目的」で使われることが多く、製造・医療・建築・物流などは特に有望な業界といえるでしょう。また、5Gの普及がデータ通信量の制限を緩和し、高精度の仮想現実と現実世界の融合がより容易になることも考えられます。
以上のことから、VR・AR・MR市場は今後も右肩上がりで成長していくと予想されます。
関連記事:VRの将来性は?ARやMRとの違い、活用事例も解説
VR・AR・MRの開発環境やツール
VR・AR・MRの開発に挑戦してみたい方は、開発環境や使用するツールについても知っておくと良いでしょう。開発する領域や規模に合わせて環境やツールを揃える必要があります。
以下ではVR・AR・MRそれぞれの開発で一般的に用意する開発環境とツールを詳しく紹介していきます。ぜひ参考にしてみてください。
VR開発の主なツール
VR開発は、特殊な映像制作となるため、高スペックのパソコンが好ましいでしょう。パソコンには「VR対応」「VR READY」と推奨されたものも販売されてるため、環境を整えるためには専用のものを購入すると安心です。
VR開発に使用するツールとしては、「Unity」と「Unreal Engine」の2つのソフトが代表的です。プログラミングスキルがあれば複雑な世界を構築できます。
関連記事:Unityとは?特徴や将来性、活用事例、使い方について解説
AR開発の主なツール
AR開発には専用ツールが必要です。しかし、種類が多いため、ツール選びに迷ってしまうこともあるでしょう。主要なツールとしては以下の6つが挙げられます。
-
・Amazon Sumerian
・ARKit
・Google ARCore
・Spark AR Studio
・Snapchat Lens Studio
・ARToolKit
ARアプリの開発環境としてはUnity、Xcode、Android Studioがよく使用されています。3Dゲーム開発エンジンであり、VR開発環境でも挙げたUnityは立体的コンテンツとの相性が良く、AR開発にも適しています。
関連記事:Unityでできることとは?ゲーム分野以外の活用例も紹介
MR開発の主なツール
MR開発も主にUnityで行われます。Unityで使えるMR開発ツールは以下の通りです。
-
・MRTK(Mixed Reality Toolkit)
・OpenxR
・Babylon.js
関連記事:Unityエンジニアの需要は高い?活用事例や求人も解説
VR・AR・MRに関するよくある質問
VR・AR・MRなどのxR技術は、一般的には混同されやすく、分かりにくい面もあるでしょう。xRに関するよくある質問としては、VR・AR・MRの定義、SRとMRの違い、MR技術のメリットなどについてが多いです。
以下では、これらのよくある質問に対しての回答をまとめています。類似の疑問を持つ方は参考にしてみてください。
Q1. VR・AR・MRとは何ですか?
VRは「仮想現実」と訳され、非現実空間を体験できる技術です。一方でARは「拡張現実」と訳され、端末を通すことで現実世界にデジタルコンテンツを追加する技術です。
MRは「複合現実」といわれ、現実世界と仮想世界をCGなどで融合させる技術を指します。これらを総称してxR(クロスリアリティ)とも呼ばれます。
Q2. SRとMRの違いは何ですか?
MRは、現実世界をベースとして仮想世界を持ち込む複合現実です。ただし、MRは現実世界とは切り離したものであり、体験者も現実と仮想空間の区別がついています。一方で、SRはより仮想現実に近い現実世界を表現するもので、「本物かバーチャルか分からない錯覚」を体験する技術となっています。
Q3. MR技術のメリットは何ですか?
MR技術のメリットとしては以下が挙げられます。現実にはないものをバーチャル空間で作り出すことにより、詳細な情報をシェアすることも簡単です。
-
・デジタルコンテンツによりリアリティを持たせられる
・複数の人間がリアルタイムで同時に体験できる
Q4. ARのデメリットを教えてください。
ARは、スマートフォンやタブレットなどのデバイスがないと体験できません。環境によっては高速回線が必要で、回線状態に依存する点もデメリットの1つです。そのほかのデメリットとして、専用アプリのダウンロードが必要な点などもあります。
Q5. VR・AR・MRの具体例を教えてください。
VRは、製造業で大型の機械を設置する前のシミュレーションに使用されています。また、医療や教育で手術トレーニングや学習のサポートにもVRが利用されています。ARはECでの商品情報の表示やエンターテインメント領域で活用されることが多いです。MRは建築分野で設計の効率化や現場作業向上に貢献しています。
まとめ
先端IT分野の中でも、特に今後成長が見込まれるのがxR領域です。xRは仮想現実の活用や現実世界の補完・拡張を行う技術の総称であり、VR・AR・MRなどが代表的です。こうしたxR系の分野は、エンターテイメント業界のみならず、医療・建築などさまざまな分野で実用化が進んでいます。もし先端IT人材として活躍したいのであれば、今後成長が見込まれるxR系の分野も検討しておくことをおすすめします。
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