IT業界におけるキャリア・年収向上は、スキル・経験など「実力評価」によるケースが一般的です。そのため、「資格さえ取得すれば必ず年収があがる」とは言い難い状況にありますが、実力評価の一環として重視される資格は存在します。特に転職時は実務経験と資格を併せてアピールすることで、採用担当者の中に採用の根拠を形成する効果が見込めます。また、資格取得にはそれまで蓄積してきた知識・経験を体系的に整理・定着させる効果もあるため、継続的な成長の土台になり得ます。ここでは、現役ITエンジニアが取得を検討すべき資格を分野別に紹介します。
1. IT業界の転職は実力主義!しかし資格の効果はあなどれない
現役のエンジニアの中には、資格取得に否定的な人間も少なくありません。しかし、「実務を経験しているからこそ、資格を取得すべき」と考える人もいます。そこで、まずは資格取得の効果を整理していきましょう。
ITエンジニア経験者が資格を取得するメリット
ITエンジニアとして数年の経験を積むと、実務で必要な知識が徐々に蓄積されていきます。しかし、忙しい現役エンジニアほど、こうした知識をその場限りの知見として放置してしまいがちです。現役ITエンジニアが資格を取得するメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。
散らばった知識、ノウハウの体系化
資格取得は、散逸しがちな知識・ノウハウを整理して体系化し、自分の中に根付かせる役割を持っています。また、それらが体系化されることで技術に対する理解が深まり、応用力が強化されていきます。応用力は現場での対応力につながるため、自身の付加価値を向上させる絶好の機会です。
対外的なスキルの証明
さらに、所属企業以外の人間に対し、スキル・知識を証明する効果も見込めます。日本企業は企業によって業務の進め方異なる場合が多いため、「自分の能力が、何を生み出し、どう役立つか」を説明することが難しいのです。資格は特定の分野における基礎的なスキル・知識を証明するため、転職活動時のアピール材料として有用です。
新分野のプロジェクトへ参加する際の足掛かり
IT業界では、プロジェクトの分野によって新人の参加に「資格」が求められる場合があります。また、大手SIerの中では、特定のベンダー資格保有者数を顧客へのアピールに使用することもあります。したがって、新しい分野への参加において、資格が一定の効力を持つケースがあります。
2. 現役ITエンジニアが転職前に取得すべき資格一覧
では、実際にITエンジニアが転職前に取得すべき資格を、網羅的に紹介していきます。ここで紹介する資格は主に「IPAが主催する国家資格」や「大手ベンダー・コミュニティが主催する資格」です。資格の概要、取得までのコスト、実際の評価なども併記しますので、資格取得時の参考にしてみてください。
開発関連の基礎的な資格
開発関連の資格は、すべてのITエンジニアの基礎力を高める効果があります。具体的には次のような資格がおすすめです。
基本情報技術者
IPAが主催する資格試験で、SEやプログラマーといった「開発者」の基礎知識を養成する資格です。ITシステムを作る側としての基礎であるため、合格のためには論理的思考力や情報処理の専門知識を必要とします。難易度はIPA資格の中では比較的優しいレベル(ITSSレベル2)です。ただし、実際の合格率は3割未満となっており、決して油断できる資格ではありません。
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・想定勉強時間…開発経験3年程度で50時間以上程度
・費用…書籍代+受験費用(税込5700円)
・現場での評価…前述のとおり「基礎力の養成」を目的とした資格試験であるため、転職市場では評価されにくい傾向にあります。新人レベルであれば、適性や基礎力の証明にはなるでしょう。
応用情報技術者
基本情報技術者の上位資格で、経験3~7年程度のITエンジニアが対象になります。ソフトウェア開発・ネットワーク構築・DB構築など、情報システムの開発全般に関する知識や、運用面の知識も試されるため、難易度は高めです(ITSSレベル3)。特に午後試験は、記述問題が出題されるため、スクールや教材を活用した勉強がおすすめです。
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・想定勉強時間…開発経験3~5年で100時間以上程度
・費用…スクール費用+書籍代+受験費用(税込5700円)
・現場での評価…中~大規模システムの開発や運用を請け負うSIerなどでは、評価の対象になりやすいようです。ただし、こちらも特定の分野に特化したスキルとは見なされにくいため、基礎力の証明という意味合いが強いかもしれません。より上位の資格(ITSSレベル4)に挑戦するための足かがりとしては非常に有用です。
運用・保守業務従事者に適した資格
運用・保守業務向けの資格は、実用性の高いものが多い傾向にあります。特にITILは運用・保守業務のスタンダードとして広く認知されているため、積極的に取得を試みるべきでしょう。
ITIL Intermediate(ITIL Specialist)資格
ITサービス運用、保守業務従事者向けの中級資格で、取得難易度はITSSレベル2~3に相当します。資格としては3種類設けられており、それぞれ認定試験の突破が必要です。
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・想定勉強時間…30~50時間程度/1モジュールあたり
・費用…認定試験センターによって異なる
・現場での評価…ITILファウンデーション(V3)の上位資格として運用、保守業務責任者に取得を義務付ける企業が出始めており、今後も普及していくでしょう。実務能力の証明よりも、責任者に着任させる要件を満たすためという意味合いが強いものの、転職では一定の評価を得るための材料となりそうです。
ITIL Intermediate(ITIL Strategist)資格
ITサービス運用、保守業務従事者向けの中級資格、スペシャリストよりも戦略策定寄りの業務を焦点にしています。取得難易度はITSSレベル2~3相当です。
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・想定勉強時間…30~50時間程度
・費用…認定試験センターによって異なる
・現場での評価…ファウンデーションの上位資格として運用、保守業務責任者に取得を義務付ける企業があります。スペシャリストと同様に転職活動時には評価の対象となる可能性が高いでしょう。
ネットワークエンジニア向けの資格
ネットワークエンジニア向けの資格は、IPA主催の国家資格と大手ITベンダーであるCisco社のベンダー資格が双璧です。いずれかを取得することが知識・スキルの証明になり得るでしょう。
CCNA(旧CCNA Routing and Switching)
世界最大手のネットワーク・スイッチ機器ベンダー「Cisco」社が主催する、インフラ・ネットワークエンジニア向けの資格です。入門者向けの資格であり、シスコ製品のみならず、ネットワークの基礎知識も求められます。ITベンダーが主催する入門資格の中では難易度が高めで、(ITSSレベル2)取得までには一定の勉強時間を確保する必要があるでしょう。また、近年は、自動化やIoT関連の知識も問われるようになり、難化傾向にあります。
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・想定勉強時間…30~100時間程度
・費用…講習費用+書籍代+受験費用(税抜33600円)
・現場での評価…基礎力や意欲の証明としては十分だが、現役エンジニアの転職市場で評価されるかはケースバイケースです。認定資格取得者数を対外的に公表している場合は、採用の材料になり得ます。
CCNP Enterprise(旧CCNP Routing and Switching)
CCNAの上位資格です。難易度はやや高めで、CCNA同様に難化傾向が続いています。(ITSSレベル3)ただし、受験資格が緩和されたことから、取得までの総費用は以前よりも小さくなっています。
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・想定勉強時間…100~200時間程度
・費用…講習費用+書籍代+受験費用(税抜33600円)
・現場での評価…中~大規模ネットワークの設計・構築における知識の証明になるため、転職市場において評価される傾向にあります。現役ITエンジニアでも、CCNPクラスの取得は実力の一環と見なされるため、ネットワークエンジニアならば目指す価値は十分にあるでしょう。
ネットワークスペシャリスト試験
IPAが主催するネットワークエンジニア向けの国家資格です。難易度は高く、ITSSレベル4に該当します。午前、午後それぞれ2部構成の計4部構成であり、記述式の問題が出題されます。特に午後2試験の長文読解対策は、専用の対策が必要になるでしょう。
・想定勉強時間…100~300時間程度
・費用…スクール費用+書籍代+受験費用(税込5700円)
・現場での評価…中~大規模ネットワークの専門家として高評価の対象になり得ます。ステップアップ転職の際には、ぜひ取得を検討したい資格です。
データベースエンジニア向けの資格
データベースエンジニア向けの資格も、ネットワーク系と同様に「IPA主催の国家資格」「オラクル社の資格」が勢力を二分しています。
ORACLE MASTER Gold Oracle Database 12c
オラクル社製DBを用いた構築・運用・チューニングについての知識が問われる資格です。DB系資格の代表格であり、取得までには下位資格(ブロンズ、シルバー)の取得と認定コースの受講が必要です。難易度はITSSレベル3程度といったところでしょう。
・想定勉強時間…100~200時間程度
・費用…総額23~50万円程度(講習費用+受験費用89040円)
・現場での評価…オラクル社製DBを扱う企業では評価の対象となります。また、ブロンズ、シルバーに比べて希少価値がかなり高く、DBエンジニアとしての高評価を得るきっかけになるでしょう。
データベーススペシャリスト試験
IPAが主催するDBエンジニア向けの高難易度試験です。難易度はITSSレベル4に該当します。午前、午後で計4部構成、かつ記述式の問題があることから、試験対策は必須です。特に「午後2試験」は10ページ超の問題が出題されます。長文読解と論述力が求められるため、午後試験対策の講座を提供するスクールや通信教育などを活用していきましょう。
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・想定勉強時間…100~300時間程度
・費用…スクール費用+書籍代+受験費用(税込5700円)
・現場での評価…ビッグデータ活用の一般化でDBエンジニアの需要が増していることや、試験自体の難易度の高さから、実際の現場でも評価の対象になり得ます。転職に際してもプラスに働くことが多いでしょう。
ORACLE MASTER Platinum Oracle Database 12c
オラクル社製DBを用いた構築、運用、チューニングに加え、Data GuardやRAC環境などに関する問題も出題されるオラクル関連資格の最高峰です。エンタープライズエディション限定の機能や、オプション機能についても知識を問われるため、研修コースの受講が欠かせません。研修+実技試験をベースとし、試験日程は2日間です。難易度は、ITSSレベルは4もしくはそれ以上に相当します。
・想定勉強時間…100時間+研修
・費用…2回(全9日前後)の研修で合計70万円+実技試験に24万円程度
・現場での評価…オラクル社製DBを扱う企業では高評価の対象となります。オラクル関連はシルバーまでは取得している人材が大半で、ゴールドは少数、プラチナはさらに希少価値が高くなり、グローバルな評価の対象となる資格です。一朝一夕に取得できる資格ではないため、一定以上の実務経験と合わせてアピールすれば、転職時の評価につながる可能性は極めて高いでしょう。
PM、コンサル志向のエンジニア向けの資格
PM、コンサル志向の資格はIPA主催のものと、PMI主催のものが広く認知されています。
ITストラテジスト試験
IPA主催の資格の中でも、「最高難易度」と噂される資格です。(ITSSレベル4)論文試験の難易度が高いため、論理的な長文を書きなれていない場合は、スクール・通信教育の活用が必須になると考えられます。
・想定勉強時間…100~300時間程度
・費用…スクール費用+書籍代+受験費用(税込5700円)
・現場での評価…IT系の資格以外の国家資格を含めても、高難易度に位置づけられるため、能力の証明になり得ます。転職市場でも高評価の対象になる可能性は高いでしょう。
プロジェクトマネージャ試験
プロジェクトマネージャ向けの高難易度資格で、ITSSレベル4に該当します。こちらも論文試験の難易度が高いため、独学以外の勉強方法を確保すべきでしょう。
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・想定勉強時間…100~300時間程度
・費用…スクール費用+書籍代+受験費用(税込5700円)
・現場での評価…ITストラテジストと同様に現場、転職市場では高評価の対象になり得ます。マネジメント層へ昇進するための条件とする企業もあるため、PMクラスを目指すのであれば、ぜひ挑戦してみてください。
PMP
プロジェクトマネジメントに関する国際資格です。論文試験が無いため、試験自体の難易度はITSSレベル3相当になるでしょう。ただし、受験には実務経験が必要なことから、総合的な難易度はITSSレベル4のプロジェクトマネージャと大差がありません。学歴(高卒者、大卒者)で受験に必要な実務経験が異なる点にも注意してください。
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・想定勉強時間…100~200時間程度
・費用…総額10万円程度(トレーニング費用約3万円+PMI年会費約2万円+受験費用405ドル)
・現場での評価…実務経験が必須であることや、体系的なプロジェクトマネジメントの知識(PMBOK)が証明されること、さらには資格自体の知名度の高さなどから、一目置かれる存在になる可能性が高いでしょう。転職市場でも評価の対象になり得ます。
セキュリティ関連への転職を目指すエンジニア向けの資格
セキュリティ関連の資格は、IPA主催の国家資格が強い傾向にあります。ただし、CISSPのように国際的な資格も注目されており、どちらを取得すべきであるかはケースバイケースです。
システム監査技術者試験
IPAが主催するセキュリティ担当者・システム管理者向けの高難易度資格です。IoTの普及に伴い、組み込み関連システムの監査で需要が高まっています。他のITSSレベル4資格と同様に論文試験の難易度が高いため、外部のリソースを積極的に活用していきましょう。
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・想定勉強時間…100~300時間程度
・費用…スクール費用+書籍代+受験費用(税込5700円)
・現場での評価…経営層とITをセキュリティの観点からつなぐ人材として、転職市場では評価の対象になり得ます。
情報処理安全確保支援士試験(旧情報セキュリティスペシャリスト試験)
IPAが主催するセキュリティ担当者向けの高難易度資格です。国内のサイバーセキュリティ人材向け試験としては最高峰に位置します。また、合格者は一般公開される名簿に氏名を登録することができます。日本国内のIT系資格では初の「士業」です。論文試験が課されないため、同レベル帯のIPA資格よりも合格を目指しやすいといわれるものの、難易度自体は決して低くありません。
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・想定勉強時間…100~300時間程度
・費用…スクール費用+書籍代+受験費用(税込5700円)
・現場での評価…今後はサイバーセキュリティの重要性が高まるため、将来性は高いです。また、「名称独占資格」であることから、企業側が同資格保持者の数を顧客へのアピールに使用する可能性があります。したがって、転職市場でも一定の評価を得られるでしょう。特にセキュリティ関連サービスを提供する企業ならば高評価の対象になり得ます。
CISSP
国際的なNPOが主催するセキュリティ担当者向けの資格です。「国際情報システムセキュリティ認証コンソーシアム」が主催し、「国際的に最も権威があるセキュリティプロフェッショナル認証制度」と言われています。ITSSレベルとの比較は難しいものの、レベル3もしくは4程度に該当と推測されます。資格取得のためには、5日間にわたる公式トレーニングの受講が必須です。
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・想定勉強時間…100時間~程度
・費用…トレーニング費用は50万円程度、試験費用は85000円(税別)
・現場での評価…特定のベンダーに依存しない、汎用的なセキュリティ関連知識の証明として効果が見込めます。問われる知識分野が非常に広範であることから、セキュリティ業界では一定の評価を得られる可能性が高いでしょう。
クラウド分野への転職で役立つ資格
クラウド関連では、AWSの認定資格が非常に強い勢力を誇っています。今後はクラウド上での開発が当たり前になるため、取得を検討してみてください。
AWS認定資格
Amazonが提供するAWSを用いた開発、運用保守担当者向けの資格です。ベーシック、アソシエイト、プロフェッショナルの3レベルから構成されています。
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・想定勉強時間…30時間~100時間程度
・費用…試験費用は各15000円(税別)
・現場での評価…実務現場でクラウドが普及していることもあり、一定の評価を得られる可能性が高いです。また、今後はオンプレミスからクラウドへの移行プロジェクトが増えていくことから、有望視されている資格のひとつでもあります。
3. まとめ
実力主義のIT業界では、「資格さえ取得すれば年収があがる」とは言い難いです。ただし、実力評価や適性評価の一環として重視される資格は確実に存在します。特に転職時は実務経験+資格を併せてアピールすることで、採用担当者の中に採用の根拠を形成する効果が見込めるため、職種にあわせた資格を可能な限り取得しておくべきでしょう。
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