スクラムマスターとは?
最初にスクラムマスターとはどのような職種なのか、一般的な定義について解説します。
スクラムマスターとは、スクラム開発をサポートするチーム内のポジションです。具体的には、メンバーへのスクラム開発の方法の指導や、スクラム開発がスムーズに進むように障害の除去を行います。
スクラムマスターはリーダーではないため、一般的にはシステムの仕様やプロジェクトの計画に対する決定権はありません。あくまでサポート役という位置づけです。ただし、明確に定義づけられているわけではなく、スクラムマスターの仕事内容・役割は企業によって少しずつ異なります。
以降では、スクラム開発、アジャイル開発、プロダクトオーナーなどの基本用語についても解説します。これらの基本要素を知らなければ、スクラムマスターが自分に適性のある職種か判断できません。まずは概要を理解し、その後に必要スキルなどを把握していくと良いでしょう。
スクラム開発とは?
スクラム開発とは、アジャイル開発手法の1つで、中でもメンバーの連携を重視した開発手法のことです。メンバー全員で開発計画を立て、設計・開発・テストを行います。また、メンバー全員で頻繁に進捗情報を共有するミーティングを行います。そして、メンバー間のミーティングや開発計画の立案を先導するのがスクラムマスターの役割です。
英語ではscrumと記述し、ラグビーのスクラムが語源です。
アジャイル開発とは?
アジャイル開発はシステム開発の手法の1つで、リリースまでの期間を1週間〜1ヶ月程度で短く区切り、短スパンで計画〜リリースを繰り返すことが特徴です。アジャイル開発では開発の単位を「イテレーション」と呼びます。
リリース後はレビューを行いユーザーや顧客の反応を見て改善点を洗い出し、改善要求と開発タスクの優先順位をつけたうえで次のイテレーションに進みます。これを繰り返すことでプロダクトの質を高めていきます。
アジャイル開発はプロジェクト管理の難易度は高いものの、仕様変更やMVP開発(必要最小限の製品)などに対応しやすいのがメリットです。たとえば、WebサービスやSNS、オンラインゲームなど、ユーザーの反応や競合の動向を見ながら仕様を変更したいプロダクトに適しています。
関連記事:アジャイル開発とは?ウォーターフォールとの違いも分かりやすく解説
プロダクトオーナーとの違い
プロダクトオーナーは、スクラム開発を行うチームにおいて、責任者となるポジションです。プロダクトオーナーの使命はスクラム開発によりプロダクトの価値を最大化することにあります。スクラム開発チームの、開発の方向性(ビジョン)などの方針を決め、プロダクトバックログおよびメンバーのタスク管理を主導的に行います。
スクラムマスターの仕事と役割
スクラムマスターの主な仕事は、スクラム開発チームのメンバーにスクラムの手法を伝え、スクラムの原則と実践をさせることです。スクラムではメンバー全員が自発的に行動することが求められますが、スクラムマスターはスクラムの有識者としてチームメンバーに価値観を浸透させ、コーチングやファシリテーションによりチームをサポートします。また、チームの障害を除去して、スピードやスムーズさを実現することも大切な仕事です。
スクラムマスターが果たす役割は、チームを主導する従来のプロジェクトマネージャーとは異なり、チームがスクラムの原則に沿ってスムーズに運営されるよう支援します。
以下では、スクラムマスターがスクラム開発チームにおいて行う具体的な業務について紹介します。
また、以下の参考資料ではスクラムの流れやロール(役割)の解説の詳細が記載されているので、こちらも参考にすると良いでしょう。
参考:~情報システム・モデル取引・契約書<アジャイル開発版>~アジャイル開発進め方の指針|IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
プロダクトバックログ管理のサポート
プロダクトバックログとは、プロダクトオーナーが必要な機能をリスト化して優先順位をつけたものです。たとえばSNS開発の場合、フォロー機能、いいね機能、拡散機能などそれぞれの機能をリスト化し、リストごとに、目的・工数・優先順位などを整理します。
プロダクトオーナーは必要に応じて、リファイメントという会議を開催します。スクラムマスターもチームメンバーおよびプロダクトオーナーと一緒に、プロダクトバックログの改善を行います。
プロダクトバックログはスクラムにおいて中心ともなるべきリストです。したがって、スクラムマスターもスクラムの手法に則って効率的にプロダクトバックログが管理されるようサポートします。
関連記事:プロダクトオーナーとは?役割や類似職種との違い、年収などを解説
スプリント会議の実施
スクラム開発では、スプリントという単位で期間を区切って作業を進めます。1つのスプリントで計画〜リリースまでを通して行います。
各スプリントの開始時にメンバー内でスプリント会議を行い、スプリントをどのように進めていくか計画を立てなければなりません。スプリント会議では最終的にスプリントバックログを完成させ、タスクをリスト化します。このリストごとに担当者や見積もりを整理していきます。スプリントバックログの作成は各メンバーが行い、スクラムマスターは作成をサポートします。
デイリースクラムの実施
スプリント会議で作成したスプリントバックログに従って、各メンバーは作業を進めます。スクラム開発では1日に1回、デイリースクラムという短時間のミーティングを開催し、進捗の共有や問題点の相談などを行います。
スクラムマスターはデイリースクラムを開催、進行し、メンバーの進捗を管理します。必要に応じてタスクの調整やメンバーにアドバイスを行うこともスクラムマスターの仕事です。
プロジェクト内の問題解決
スクラムマスターはスクラム開発チームがスムーズに、スピーディーに開発を進められるようサポートを行う立場です。スクラム開発の妨げとなるものがある場合には、これを取り除き、他のメンバーが仕事をしやすくすることも仕事に含まれます。
もちろんスクラムマスターがすべての問題解決に対応するという意味ではなく、チーム内外の有識者の協力を得られるよう行動することが求められます。メンバーのスクラムに関する理解が不足するような場合には、スクラムマスターが直接的にコーチングなどで対処します。
スプリントレビューの実施
スプリントが終了したら、スプリントレビューを行います。プロダクトオーナーの前でシステムを実際に動かし、要求仕様通りかなどをプロダクトオーナーに確認します。
その後、次のスプリントの計画を立てます。スプリントレビューでは、スプリントで成功したこと、改善すべき点などを振り返り、以降のスプリントに役立てます。
スクラムマスターはスプリントレビューのサポートを行います。
レトロスペクティブ(ふりかえり)の実施
スプリントの終了ごとにレトロスペクティブ(ふりかえり)を行います。レトロスペクティブを行うことで、自己組織化やチームの成長を促します。
スクラムマスターもプロジェクトオーナーとともに参加し、レトロスペクティブをファシリテートします。
スクラムマスターの必要性
スクラムマスターはリーダーではなく、チーム内の1つの役割にすぎません。あくまでメンバーと同列でサポートのような役割ですが、スクラムマスターがいることのメリットは多くあります。
スクラムでの開発において、参加するメンバーは全員がスクラムについての知見を持っているとは限りません。しかし、だからといって「スクラムを開発手法として採用したから作業効率が下がった」という結果となってしまうことは避けたいところです。
また、参加するメンバーのスクラムについての理解にずれがある場合も、何が正解なのかを当事者間で突き詰めることは簡単ではありません。
これらの問題などを解決し、スクラムによるスムーズな開発を実現するために、スクラムマスターは必要とされる存在です。スクラムに関する有識者として、コーチングやファシリテーション、障害の除去などチーム運営の支援に専任する人材として、プロダクトオーナーや開発メンバーとは別に用意されるポジションとなります。
以下では、スクラムマスターがいることのメリットについて詳しく解説していきます。
スクラム開発を組織に浸透させられる
スクラムマスターがいることで、スクラム開発を組織に浸透させやすくなります。組織がスクラム開発を理解していない場合や慣れていない場合など、スクラム開発が機能せず形式だけが残っていることも多いです。
スクラム開発を熟知したスクラムマスターが組織にいれば、メンバーがスクラム開発の進め方・考え方を理解でき、プロダクトの質を上げられる可能性も高くなります。
プロジェクトをスムーズに進行できる
スクラムマスターがいれば、プロジェクトがスムーズに進行できます。スクラムマスターはチームがスプリントゴールに集中し、優先順位の高いタスクに焦点を合わせるよう支援します。これにより、重要な機能やプロダクトのリリースがスムーズに進行します。
コミュニケーションを活性化させる
スクラム開発はチーム内でのコミュニケーションが要です。日頃の朝会などで進捗の共有や問題点の相談を行えないと、後々問題が大きくなり、開発が大幅に遅れてしまうこともあります。スクラム開発の経験が豊富なスクラムマスターがファシリテーションを行えば、積極的な意見交換がしやすくなり、形だけの会議になることを避けられます。
また、スクラムマスターは開発知識のないプロダクトオーナーと開発メンバーの橋渡し役にもなります。プロダクトオーナーの意向を汲み、開発メンバーに分かりやすく伝えることで、双方の認識に齟齬が生じることを避けられます。
スクラムマスターに転職する方法
スクラムマスターは責任もあり高度なスキルを必要とする仕事です。そのため、未経験でスクラムマスターのポジションに転職することは難しいでしょう。まずはスクラム開発を行っている企業に転職し、そこで経験を積む必要があります。
具体的にどのような手順でスクラムマスターを目指すのか、解説します。
スクラム開発を行っている企業に転職する
まず、スクラムを開発手法として採用している企業や組織に転職する必要があるでしょう。転職を成功させるためにも、転職エージェントを活用することをおすすめします。エージェントには求人サイトには公開されていない優良求人が多数存在しており、職務経歴書の添削や面接練習などもサポートしてくれます。
IT業界に特化したレバテックキャリアには、スクラム開発の求人も多くあります。実績やキャリアパスを分析しスクラムマスターに適性があるのか判断することも可能なため、スクラムマスターを目指すか迷っている方にもおすすめです。
スクラム開発の経験を積む
スクラムマスターとして働くには、スクラム開発の経験が必要不可欠です。転職に成功したら、実務を通じてタスク管理の方法や会議の進め方、プロダクトオーナーとのやり取り方法などを学んでいきます。いきなり全ての仕事を担当できなくても、一部の役割のみを任せてもらえる場合もあるので、地道に仕事をこなしていくことが大切です。
スクラムマスター関連の資格を取得する
実務経験を積むことと並行して、スクラムマスター関連の資格取得を目指すことをおすすめします。たとえば、認定スクラムマスターではスクラムマスターの考え方や、コーチングやメンタリングなどのコアスキルを身につけられます。
そのほかのおすすめ資格や資格取得に向けての勉強方法については以下の記事で解説しています。
関連記事:
スクラムマスターの資格を紹介!難易度や費用、勉強方法も解説
アジャイル開発関連のおすすめ資格10選と需要を徹底解説
スクラムマスターに必要な知識・スキル
スクラムマスターに必要な知識とスキルについても確認しましょう。
必要な知識を持たず、スキルを満たしていなければ就職・転職は難しく、もしスクラムマスターになれたとしても活躍するのは難しいです。スクラム開発のプロダクトチーム全体を乱してしまうリスクがあるでしょう。
現在は知識がなく、必要なスキルを満たしていなくても、これから身につけていけるので、諦めないことが大切です。
ファシリテーションスキル
スクラムマスターには、チームミーティングなどを効果的にリードし、チームメンバーから意見を引き出して議論を進める役割が求められます。スプリント会議・デイリースクラム・スプリントレビュー・レトロスペクティブなどのスクラムイベントでは、ファシリテーションスキルを発揮する必要があります。
ゴール設定と計画スキル
スクラムマスターには、チームがリアルな目標を設定し、達成できるよう支援する能力も必要です。スプリントとプロジェクトの進捗管理はスクラムマスターの役割です。スクラム開発はウォーターフォール開発と違い、スケジュール管理が難しいため、スクラム開発の経験が豊富なスクラムマスターが開発に必要な工数を正確に見積もる必要があります。
コーチングとメンタリングスキル
個々のチームメンバーやチーム全体の能力開発を支援し、自己組織化を促すコーチングスキルも求められます。スクラムのさまざまなプラクティス(スクラム開発を実現するための手段)やアジャイルのマインドセット(考え方・ものの見方)の教育と指導を行う必要があります。
たとえば、スプリントバックログの作成方法や、どこまで細かく共有すべきかなど進捗を共有する際のルール、スプリントレビューの具体的段取りなどを教育します。コーチングでは、事務的に情報を伝えるだけでなく、聞き手のモチベーションを高められる伝え方を心がける必要があります。そのためには、聞き手との信頼関係を短時間で構築するスキルも重要です。
また、相手に答えを直接教えるのではなく、自ら答えに気がつくように促すことも大切です。問題点を洗い出す際の考え方の段取りを教えたり、相手に「それはなぜ?」と質問を繰り返すことによって問題の本質を気づかせたりする必要があります。
問題解決能力
スクラムマスターはプロジェクトを進める際に障害となるものを取り除き、メンバーがスムーズにシステム開発を行えるようにすることに責任を持ちます。責任を果たすためには、問題解決能力が必要です。さらに、問題を見つけたら自分で解決するのではなく、メンバーの中に解決できる者がいないか探し、その人が問題を解決できるようにサポートする必要があります。
アジャイルとスクラムの理解
スクラムマスターには、アジャイルとスクラムフレームワークの深い理解も必要です。単に手法を知っているだけでなく、それらを実践に落とし込む方法を理解し、プロジェクトやチームに適したフレームワークの適用などを柔軟に行う必要があります。
スクラムマスターに関するよくある質問
スクラム開発において活躍するスクラムマスターですが、興味があり名前は聞いたことがあっても詳細までは知らないという方も多いでしょう。
ここではスクラムマスターについてよくある質問と回答をまとめています。本記事内の記述と合わせて、スクラムマスターの概要、役割、必要となるスキルなどを知り、キャリア検討の参考にしてください。
Q1. スクラムマスターとは何ですか?
スクラムマスターは、ITプロダクトの開発手法であるスクラムの開発チームにおけるポジションの一つです。開発チームにスクラムの手法やアジャイル原則などについて教え、サポートすることが役割となります。プロダクトオーナーと開発チームメンバーに対し、スクラムの有識者としてスムーズな進行を支えます。
Q2. スクラムマスターの年収はいくらですか?
2024年10月22日時点でレバテックキャリアに公開中の求人・転職情報より、フリーワード「スクラムマスター」に該当する情報を30件抽出し想定年収を算出しました。この算出方法では、スクラムマスターの平均年収は約787万円と想定できます。希少性が高く、経験なども必要な業務内容のため、比較的高年収です。
Q3. スクラムマスターにはどのような人が向いていますか?
スクラムマスターはスクラムについての有識者として、開発メンバーやプロダクトオーナーに向けて、スクラムの手法やアジャイルの原則などを教える立場です。また、サポートに専念することから、言いにくいことでもいえる人、冷静にチームを観察できる人、チームメンバーのアシストや成長を好む人などが向いています。
まとめ
アジャイルの一種であるスクラムは、Webサービスなどのプロダクト提供で採用されることが増えており、注目を集める手法です。
スクラムマスターとは、スクラムの開発チームのポジションの一つで、アジャイルやスクラムの手法やルールについてのコーチング、会議体のファシリテーションなどのサポートを行います。スクラムに関する知見などのスキルが必要で、希少性が高いことから高年収も望める職種といえます。
スクラムマスターには、スクラムに関する知識、スクラムでの開発経験が必要です。それに加えて、目標設定と計画スキルやファシリテーションスキル、コーチング/メンタリングスキル、問題解決能力などが求められます。
スクラムマスターを目指す場合には、スクラム開発の経験を積み、関連資格の取得などによって知識とスキルを獲得するとよいでしょう。
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