ITエンジニア転職の市場動向予測【2018年度版】

最終更新日:2021年5月24日

経済産業省の「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」(※)によると、2015年時点でIT人材の総数は約92万人となっており、すでに約17万人の人材が不足していると発表しています。その数は今後も拡大していくことが予想され、2030年には約59万人のIT人材が足りなくなるという推定結果も出ています。

このような状況の中、今後のITエンジニアの転職市場はどのように変化し、どんな人材の需要が高まっていくのでしょうか。

この記事では、レバテックキャリアが保有する求人データを用いながら、レバテックキャリアの法人営業担当・見谷俊とレバレジーズ株式会社メディアシステム部部長・久松剛が今後のITエンジニア業界の市場動向について考察します。

※参考:IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果~報告書概要版~(平成28年6月10日)

※この記事は、2018年12月時点の情報をもとに作成しています

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レバテックキャリア・法人営業チームリーダー、見谷俊の写真


見谷 俊(みたに しゅん)
SIerからWeb系スタートアップまで、幅広い企業への採用支援実績を持つレバテックキャリアの法人営業チームリーダー。求職者が転職後、企業に対してイメージとのギャップを感じることがないよう、企業の雰囲気や社員の声などリアルな情報を収集・提供することを心がけている。
見谷俊の紹介ページはこちら

1. ITエンジニアの現在の転職市場状況

まずは、レバテックキャリアを利用している求人企業や求職者の方の傾向から、現在の転職市場状況について解説します。

IT業界は極端な売り手市場。中小企業やベンチャー企業が採用に苦戦

見谷:「エンジニア人材が不足して転職は売り手市場が続いている」というのはここ数年ずっと言われていることで、転職市場が活況であることは間違いないですね。

レバテックキャリアでも、企業からの人材紹介に関する問い合わせ数は2016年度と2017年度を比較すると約60%増加しています。また、開発案件の増加や業務範囲の拡大を理由に大幅な人員補充をする企業も出てきていますね。

久松:エンジニアを採用したい企業が増えている事実がある一方で、中途採用でいい人材になかなか巡り会えない、といった問題を抱えている企業も多いですね。というのも、企業に必要とされるだけのスキルがあって、やりたい分野が明確な人はフリーランスになる傾向が加速しているからです。ハイスキルであればあるほど、業務委託として働いた方が高い収入を得ることができます。

『IT人材白書2016』でも、IT技術者のフリーランスの割合が増加していることや、30代以下・年収1000万以上の割合は正社員人材と比べてフリーランス人材の方が多いことを伝えています。

フリーランスのIT人材数の増減(2014年度と比較した人数の変化)【従業員規模別】。IT企業全体(N=545)・増えている18.5%、変化なし65.0%、減っている10.3%、わからない6.2%。IT企業300名以下(N=480)・増えている20.0%、変化なし66.7%、減っている9.8%、わからない3.5%。IT企業301名以上1,000名以下(N=45)・増えている6.7%、変化なし64.4%、減っている13.3%、わからない15.6%。IT企業1,001名以上(N=20)・増えている10.0%、変化なし25.0%、減っている15.0%、わからない50.0%。IT企業全体DI値(増加・減少)+8.2。ユーザー企業全体(N=114)・増えている18.4%、変化なし66.7%、減っている6.1%、わからない8.8%。ユーザー企業300名以下(N=27)・増えている22.2%、変化なし77.8%。ユーザー企業301名以上1,000名以下(N=46)・増えている15.2%、変化なし67.4%、減っている8.7%、わからない8.7%。ユーザー企業1,001名以上(N=41)・増えている19.5%、変化なし58.5%、減っている7.3%、わからない14.6%。ユーザー企業全体DI値(増加・減少)+12.3。ネット企業および部門全体(N=82)・増えている26.8%、変化なし59.8%、減っている8.5%、わからない4.9%。ネット企業および部門300名以下(N=65)・増えている30.8%、変化なし56.9%、減っている9.2%、わからない3.1%。ネット企業および部門301名以上1,000名以下(N=11)・増えている18.2%、変化なし54.5%、減っている9.1%、わからない18.2%。ネット企業および部門1,001名以上(N=6)・変化なし100.0%。ネット企業および部門全体DI値(増加・減少)+18.3

※出典:フリーランスのIT人材数の増減(2014年度と比較した人数の変化)【従業員規模別】(『IT人材白書2016』(独立行政法人 情報処理推進機構)より)

フリーランスの年収(上)とIT企業IT技術者の年収(下)【年代別】。フリーランス30代以下(N=68)・300万円未満35.3%、300万円以上~500万円未満27.9%、500万円以上~700万円未満19.1%、700万円以上~1,000万円未満8.8%、1,000万円以上8.8%。フリーランス40代(N=129)・300万円未満32.6%、300万円以上~500万円未満31.8%、500万円以上~700万円未満15.5%、700万円以上~1,000万円未満14.0%、1,000万円以上6.2%。フリーランス50代(N=218)・300万円未満31.2%、300万円以上~500万円未満29.8%、500万円以上~700万円未満19.7%、700万円以上~1,000万円未満17.0%、1,000万円以上2.3%。IT企業IT技術者30代以下(N=347)・300万円未満21.9%、300万円以上~500万円未満50.1%、500万円以上~700万円未満21.3%、700万円以上~1,000万円未満5.5%、1,000万円以上1.2%。IT企業IT技術者40代(N=361)・300万円未満5.0%、300万円以上~500万円未満29.6%、500万円以上~700万円未満35.7%、700万円以上~1,000万円未満24.7%、1,000万円以上5.0%。IT企業IT技術者50代(N=244)・300万円未満4.1%、300万円以上~500万円未満19.3%、500万円以上~700万円未満32.4%、700万円以上~1,000万円未満32.4%、1,000万円以上11.9%

※出典:フリーランスの年収(上)とIT企業IT技術者の年収(下)【年代別】(『IT人材白書2016』(独立行政法人 情報処理推進機構)より)

また、2~3年前はベンチャー企業の上場が活発に行われた時期でもあり、システム監査ができる人材を求めて監査法人が多くのエンジニアを採用していました。今はデジタルトランスフォーメーションを実施しようとしているメーカーがエンジニア採用を強めていますね。大手自動車メーカーや化粧品会社など、待遇がよくて安定的に働ける場に移るSI出身のエンジニアは多く、大手以外の中小企業やベンチャー企業はそもそも応募数を担保するのすら難しくなっている現状があります。

今はIT転職バブル。2020年・2025年以降どうなるか

久松:年収面の話をすると、今は転職のタイミングで150~200万の年収アップを希望する人が多いんです。その金額に見合うだけのスキルを持っているのであれば問題ないのですが、そうじゃない人、本来ならそこまでの年収アップは望めない人でも、今は人材が採れないからという理由で高い年収が提示される場合もあります。多くの会社の場合、給与保証期間後の評価でその会社内の適正年収に着地させます。ストレッチしてしまった年収に対し、いかに見合った活躍をして認められるかという勝負になる方も少なからずおられます。

この転職バブルの状態は2020年の東京五輪、2025年の大阪万博に下支えされている要素が強いです。こうしたイベントに向けての投資やインバウンドを狙ったソフトウェア開発がさかんに行われていますが、これらが閉幕して企業が目標を失ったとき、開発への投資も採用活動も縮小することが予想されます。実際のスキルより高い年収を得ていた人は年収が下がるでしょうし、それを不満に思って転職を始める人も出てくるはずです。

転職を検討しているエンジニアの方は、今がバブルであるという実情を理解した上で、2020年・2025年以降も活躍していくための選択を考えた方がいいと思いますね。あわせて米中関係に起因する景気動向にも注意が必要です。

2. レバテックキャリアにおける、プログラミング言語・職種別の求人状況

続いて、レバテックキャリアが2016年度と2017年度に保有していた求人データ(※)をもとに、求人状況の変化を考察します。

言語はCやC++など、IoT開発に用いられる言語の需要増

レバテックキャリア求人割合(プログラミング言語別)。詳細は以下

見谷:まずは言語別求人数の変化を見てみましょう。C言語やC++が増えているのはIoT開発案件が増えているのと、C++に関してはゲーム開発案件の増加にも影響を受けています。また、Rubyはスタートアップ企業での人気が根強いですね。Ruby on Railsはスピーディーな開発が実現でき、少しでも早くサービスをローンチさせたいスタートアップにはぴったりの言語だからです。

Objective-Cの微増は、スマホアプリ開発を行っている企業がSwiftの代わりにObjective-Cを扱える人を採用していることに起因しています。

久松:SwiftはApple社が推奨しており、それまでメインストリームだったObjective-Cから書き換えたい企業は多いはずですが、Swiftを実務として経験しているエンジニアが少ないんですよね。

また、過去のObjective-Cの遺産もあります。求人の数は言語を扱えるエンジニアの数に比例するので、Swiftエンジニアの求人も微増にとどまっています。Objective-C経験者を募集し、社内でSwiftエンジニアとして育てる企業も多いですね。加えて経験者を求めるという観点からフリーランスとの契約にシフトしている傾向もあり、フリーランス案件を提案する姉妹サービス・レバテックフリーランスでもObjective-CよりSwiftの方が募集案件数が多いという状況にあります。

さらに、JavaScriptは割合としてはあまり伸びていませんが、実数ベースで求人数は約2倍に増えています。Web系スタートアップ企業ではここ2~3年、サーバーサイドからフロントエンドまでJavaScriptだけで書くのを良しとする文化が生まれつつあって、求人数は増えていきている印象です。今後より一層伸びていくかもしれませんね。

見谷:そうですね、増えていくと思います。ただ、JavaScriptの難しいところはトレンドの移り変わりが激しいところですね。

今だとVue.jsやReact.jsが使えるかどうかが重要ですし、この先もトレンドのフレームワークは変化していくので、新しい技術をキャッチアップし続ける力が求められます。

システム開発案件数の増加により、PM・PLが不足している

レバテックキャリア求人割合(職種別)。詳細は以下

見谷:職種別の比較データを見てみると、最も伸び率が高いのはプロジェクトマネージャー(PM)で、プロジェクトリーダー(PL)もやや伸びています。PM・PL人材を求める企業は確実に増えてきており、特にSIerではその傾向が強いです。受注したい案件はあるのにPMがいないから受けられない、といった声を求人企業サイドからよく聞きます。

久松:なぜPM・PLが足りていないかというと、企業内で人材を育てられなかったというのがひとつの要因としてあります。そもそもエンジニアとPM・PLでは適性が全く違うので、社内のエンジニア人材から育てようとしてもうまくいかない場合が多いのだと思います。

PM・PLはエンジニアのキャリアパスの王道として扱われていますが、彼らの仕事はステークホルダーとの折衝やプロジェクト管理などが主ですから、やるべきことが全く変わってきます。エンジニアから引き上げていくのは至難の業なので、経験者を中途採用したいと企業が考えるのはある意味自然なことです。

見谷:また、伸び率としては大きくはありませんが、データサイエンティストは求人数も求職者数も増えています。IT業界でデータサイエンティストという職業が注目されるようになって久しいですが、ようやく転職市場においてもトレンド職種となってきています。

久松:ただ、トレンドゆえ志望理由があいまいな人も多い印象がありますね。流行っているからなんとなく興味があるという人や、大学で数学を専攻していたから実務経験はないけれどやってみたいという人。さらに、求人企業側もデータサイエンティストに何をやってもらいたいか明確でない場合が多いです。

そのため、今データサイエンティストを目指すのであれば、入社後に分析するデータが何も用意されていなかったとしても、必要なデータを貯めるところから始めて自分で業務を作っていこうというくらいの気概が必要かもしれません。

3. これからのIT業界の動向と転職市場予測

ここまで、転職市場状況や求人状況の変化について考察してきました。それでは今後のIT業界では、どのような分野の開発需要が高まり、どんな人材が求められるようになっていくのでしょうか。

引き続きIoTやビッグデータ、AIビジネスの注目度は高い

久松:現在トレンドとなっているIoT開発やビッグデータ、AIの分野は今後も伸びていくと思います。理由としては少子高齢化や、働き方改革による業務効率化が重要な課題であることが挙げられます。

ただ、技術としてもビジネスとしてもトレンドだからという理由で、今の学生は学校で機械学習を学んでいる方がとても多いんです。その影響でものづくりであるWebプログラミングを学んでいる人が少なくなってきています。今は機械学習エンジニアは希少価値が高いですが、使える人が増えたり、ツールが高級化して敷居が下がればその価値は徐々に下がっていくことが考えられます。

IoT開発も今非常に伸びており、C言語の学習者も増えています。だからといってC言語のみに注力するのもリスクの高い選択です。もしIoT開発からその他の現場に転職したいと考えた場合、C言語エンジニアがオブジェクト指向を学び直すのはハードルが高いですからね。また、IoT開発のためにC言語を学習する際も、Arduinoを含めたC++への取り組みもおすすめしておきたいところです。

トレンド技術をキャッチアップしていこうとする姿勢は必要ですが、いつの時代も変わらず求められるのは柔軟性です。流行が移り変わっても活躍し続けられるように、時流を読みながら幅広く勉強していくのがいいと思います。

見谷:柔軟性という点でいうと、サービスの拡大や事業への貢献意識を持って業務に取り組める人が強いですね。もともとはインフラエンジニアだけど、自分でもコードが書けた方が業務が効率的に進むと考えて開発スキルを身につけたり、セキュリティの知識を学んだりしているうちに、結果的にSREになりましたという人もいます。自分の守備範囲を決めつけるのではなく、その時々で会社にとって必要なスキルを身につけて貢献していける人の価値は高いですね。

オペレータなどの定型業務はAIに取って代わられる

久松:一方で、AIで代替可能なオペレータ業務などは、今後ますます減っていくと思います。一部の大手企業では監視業務を外部に委託する際、必ず人を常駐させることを条件とする場合があるので完全になくなることはないかもしれませんが、大部分のオペレータ人材はスキルを広げていかないと仕事を獲得し続けることが難しくなるはずです。

また、フロントエンドの簡単なHTML/CSS/JavaScriptといったコーディング業務なども今後は自動化されていくでしょう。最近では手書きのスケッチから自動でHTMLコードを生成してくれる「Sketch2Code」というサービスをマイクロソフトが開発しており、こういったサービスの精度が上がって実用化が進めばコーダーに求められるスキルは変わっていくはずです。

言われたことを言われた通りにコーディングするようなコーダーの需要は減っていく一方、顧客の需要を先読みして提案できる視座の高いコーダーが求められていきます。先ほどエンジニアとして活躍し続けるには柔軟性が大事と言いましたが、パラダイムシフトが激しいIT関連分野では個人の柔軟性を含めて、最終的には人間力が問われる時代なんです。言われたことだけをやるんじゃなくて、相手がうまく言語化できていない要望まで汲みとりながら仕事ができる人材になっていくことが重要です。

4. 未経験からのITエンジニアへの転職難易度

最後に、エンジニア未経験からの転職難易度について解説します。エンジニアの需要が高まっている現在、未経験からエンジニアへの転職を希望する方も多くいます。どのようなステップを踏めばエンジニアへのキャリアチェンジは可能になるのでしょうか。

成果物を作ることがエンジニアへの1番の近道

久松:今はプログラミングスクールだけでなく、オンライン学習サービスも充実してきているため、未経験であっても技術の習得はしやすい環境が整っています。また、未経験からの転職難易度という面でも、とにかく人が足りないから採用したいという企業もあることを加味すると、転職は不可能ではないといえます。

見谷:ただ、本当に何も勉強していない完全未経験の状態でも採用される求人の場合、入社後はテスターやオペレータとして配属されることが多いです。テストや監視業務はプログラミング業務とは異なりますから、その業務を経てプログラマーへキャリアアップするのは遠い道のりです。

そのため未経験からエンジニアになりたいという方には、まずはスクールや独学でプログラミングを学んでもらった上で、プログラマーとして迎えてくれる企業を転職先としてご提案したいと思っています。

久松:プログラミングスクールは受講費用が数十万円単位でかかりますから、そこに通った実績があるだけで「熱意がある」と判断されて採用においてプラスに働く場合はあります。

でも、1番は学んだことを活かして成果物を作ってみる、これが最も有効的なアピール方法です。成果物があれば求人企業側もエンジニアとしてのポテンシャルの有無を判断できるので、プログラマーとしての転職も現実的になります。

見谷:未経験からの転職であれば年齢は20代までが好ましいですが、成果物のクオリティによっては30代であってもチャンスはあります。

久松:学び方はスクール、オンラインサービス、書籍などさまざまなものがありますが、自分に合ったものを選ぶことが大切です。正解はありません。

個人的には、身近にいる現役エンジニアに師匠になってもらう方法が1番効率的だと思っています。たとえば今勤めている企業にエンジニアがいるのであれば、その人に質問すれば意外と教えてもらえます。エンジニアには勉強会を開催したり情報交換をしたりする文化が根付いているので、教えることを嫌がる人は少ないはずです。

プログラマーにも適性はあるので、転職してからやっぱり向いていなかったとならないように、実際に手を動かしてみて自分自身で向き不向きを判断することも大切です。

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この記事の監修

レバテックキャリア編集部

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