「Amazon EC2」は、Amazon社が提供しているAWS(Amazon Web Services)の一つであり、多くの企業で導入されています。クラウド上に仮想サーバーを構築でき、従来の物理的なサーバーよりも構築業務のコストを大幅に削減できる点が魅力です。近年、日本国内ではEC2を含むAWSサービスを利用している企業の割合が増えており、AWSを活用して業務を行う「AWSエンジニア」の需要も高まっています。この記事では、AWSのEC2の概要と利用するメリット、需要の高さ、AWSエンジニアに必要な知識について解説します。
AWSのEC2とは
はじめに、Amazon EC2の概要と特徴について解説します。
クラウド上に仮想サーバーを構築できるサービス
Amazon EC2(Amazon Elastic Compute Cloud)とは、クラウド上に仮想サーバーを構築できるサービスです。EC2を活用すれば、企業内にサーバーやネットワーク機器などを設置する手間がなくなり、短時間でクラウド上に仮想サーバーを構築できます。従来のオンプレミスのサーバーと比較して、構築作業の時間・手間を大幅に削減できる点が魅力です。
EC2の特徴
EC2では、自社内でOSやスペックなどを自由に変更できるため「自社専用の仮想サーバー」を作れることが特徴です。
例えば、レンタルサーバーの場合、1つの物理的なサーバーを複数の人が利用するため、サーバーのCPUやメモリに限界があります。EC2であれば、他のユーザーの処理に影響されることなく、安全に稼働できます。サーバーの運用時によく起こるスペック・容量不足の問題に対しても、迅速な対処が可能です。
EC2のインスタンスタイプとインスタンスサイズ
Amazon EC2の仮想サーバーのスペックは「インスタンス」という形で400種類以上搭載されています。EC2の利用開始・変更の際には、用途に応じた「インスタンスタイプ」と「インスタンスサイズ」を選択しなければなりません。
インスタンスタイプは、CPUやストレージ、メモリなどを様々なパターンで組み合わせて構成されています。EC2では、豊富なインスタンスタイプのなかから、ユースケースに合わせて自由にインスタンスタイプを選択できるのです。
例えば、AWSに新規登録した際に無料枠として提供される「t2.micro」の場合、「t」がインスタンスファミリーで、「2」が世代を表しています。そして、ドットの後に続く「micro」がインスタンスサイズとなっています。他にも「medium」「large」といったインスタンスサイズがあり、サイズが大きくなるほど性能もアップする仕組みです。
また、アプリケーションの開発では「T2」「T3」が、本番での利用には「M4」「M5」といったインスタンスタイプが多く利用されます。インスタンスタイプとインスタンスサイズは、一定の条件を満たせば運用後の変更も可能です。
EC2の料金プラン
EC2には、4つの料金プランがあります。各プランのおもな特徴を解説します。
オンデマンドインスタンス
サーバーを立ち上げている時間によって料金が発生するプランです。オンデマンドインスタンスは、短時間のサーバー利用に適しています。EC2を低コストで利用したいと考えている企業や、まずは開発やテストとしてEC2を試したい企業に最適です。
スポットインスタンス
AWS上にすでに存在し、放置されているインスタンスを格安料金で使えるプランです。スポットインスタンスでは、インスタンスタイプごとに時間単位のスポット料金が設定されています。変動するインスタンスタイプに対して入札価格を設定しておけば、スポット料金でEC2を利用できるようになる仕組みです。
オンデマンド価格から最大90%割引でEC2を利用できる可能性もあるため、コストを重視している企業に適しています。
Savings Plans
あらかじめ1~3年ほどの稼働期間を決めておき、先に契約するプランです。Savings Plansは、常時インスタンスを立ち上げておきたい、長期間サーバーを稼働させ続けたい企業に適しています。
Dedicated Hosts
Dedicated Hostsは、専用の物理サーバーに対してEC2インスタンスを起動できるプランです。インスタンスが稼働する物理サーバーを専有・限定することにより、自社のWindows ServerやSQL Serverなどのライセンス条項に制限のあるソフトウェアを利用できます。
EC2は、上記4つの料金プランを自社の環境や状況に合わせて、自由に選定できる点が魅力です。
EC2を利用するメリット
EC2を導入することで、企業はどのようなメリットを得られるのでしょうか。この章では、EC2を利用するメリットについて解説します。
サーバー構築の時間を大幅に削減できる
EC2では、クラウド上に仮想サーバーを簡単かつ短時間で構築できます。物理的なサーバーを構築する場合、サーバーを自社で導入し、ネットワーク機器の設置や細かい設定作業を行わなければなりません。また、導入するサーバーの数が多いほど、設置作業に時間がかかり、人件費も上がるでしょう。
EC2であれば、数分でサーバー構築が可能です。さらに、用途ごとに複数のサーバーを簡単に作れるため、サーバー構築にかかっていた時間を大幅に削減できます。
繁忙期に応じてサーバーのスペックを柔軟に変更できる
サーバーのCPUやメモリ、容量などのスペックを簡単に変更できることもEC2を利用するメリットです。例えば、繁忙期や日中の忙しい時間帯だけサーバーのスペックを上げたり、データ容量が増えた時に一時的にメモリを増やしたりなど、自社の状況に合わせて柔軟に利用できます。さらに、事前に数値を決めておき、その数値を超えたら自動的にリソースを追加するといった自動変更も可能です。
サーバーの運用コストを抑えられる
EC2は従量課金制です。使った分だけの料金しか発生しないため、サーバーの運用コストを抑えられるメリットがあります。加えて、サーバー機器の購入やネットワーク回線の敷設など、膨大な初期費用が一切掛からない点も魅力です。
運用・監視にかかる人件費を削減できる
EC2の利用は、運用・監視にかかる人件費の削減にもつながります。社内に物理的なサーバーを設置した場合、24時間365日体制でサーバーが正常稼働しているかを監視しなければなりません。さらに、機器故障が発生した際の対応なども必要です。物理的なサーバーを設置し、長期にわたって運用するには、継続的に人件費がかかってしまいます。
EC2を利用すれば、機器の監視や故障への対応が不要になるため、人件費を抑えながら運用が可能です。
サーバーの冗長化も短時間で簡単に行える
サーバーの冗長化が短時間で簡単に行える点も、EC2を利用するメリットです。物理的なサーバーを冗長化する場合、サーバー本体に加えて周辺のネットワークも冗長化する必要があります。また、ネットワーク機器も冗長化を見込んで複数台導入しなければなりません。
EC2では、冗長化に必要なネットワーク環境もクラウド上で構築できます。簡単かつ短時間でサーバーの冗長化を実現可能です。さらに、冗長化を目的に調達したネットワーク機器の購入費用も削減できます。
AWSの需要・将来性について
EC2を含むAWSのサービスは需要が高く、世界中の企業が利用しています。この章では、日本国内のクラウドサービスの利用状況とAWSの需要の高さについて解説します。
クラウドサービスを活用する企業は増加している
総務省の「企業におけるクラウドサービスの利用動向」によると、日本国内のクラウドサービスを利用している企業の割合は70.4%と約7割となっており、いまやクラウドサービスは業務を行ううえで欠かせないものといえるでしょう。
日本国内のAWSの市場シェアは年々拡大している
株式会社MM総研が2022年8月に発表した「国内クラウドサービス需要動向調査」によると、PaaS市場およびIaaS市場における大手クラウド3社であるAWS(Amazon Web Services)とAzure(Microsoft Azure)、GCP(Google Cloud Platform)の利用率の高さが明らかになりました。
PaaS利用企業のうち、AWSを利用している企業は60.0%と半数以上を占めており、次いでAzure(48.2%)、GCP(28.8%)という結果です。大手クラウド3社のなかでもAWSの需要は特に高く、AWSに精通した「AWSエンジニア」の需要が今後高まると予想されています。
AWSエンジニアに必要な知識
需要が高いAWSエンジニアを目指すためには、まずAWSの基礎知識など、業務で必要な知識を身に付けなければいけません。この章では、AWSエンジニアに必要な知識について解説していきます。
AWSに関する基礎知識
AWSのサービスは非常に多く、新しいサービスが随時追加されていきます。全知識を網羅することは非常に難しいため、企業での利用率が高い下記のサービスから学ぶのがおすすめです。
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・EC2(仮想サーバー)・VPC(仮想ネットワーク)
・Elastic Load Balancing(負荷分散装置)
・RDS(リレーショナル型データベース)
・S3(オンラインストレージサービス)
利用率が高い上記サービスの知識を身に付けておけば、AWSを使ってどのような業務を行っているのかをイメージできるようになります。さらに、自身がAWSの現場に参画した際にも、身に付けた知識を活用して業務を行えるでしょう。
サーバーやネットワークなどインフラに関する知識
AWSエンジニアは、サーバーやストレージの構築業務が多い傾向があります。そのため、サーバーの設計・構築の知識に加えて、通信やネットワークに関する知識も非常に重要です。例えば、オンプレミス環境でサーバーやネットワークの設計・構築などの経験があれば、AWSエンジニアの業務でも活かせる可能性が高くなります。
ミドルウェアに関する知識
アプリケーションの開発や基幹システムに携わる案件では、ミドルウェアに関する知識も求められます。LinuxなどのOSに関する知識やWeb・アプリケーションサーバーに関する知識、設計・構築に携わった経験があれば、AWSの業務にも活かせるでしょう。
オンプレミスからクラウドへサーバーを移行する際の設計・構築スキル
近年では、オンプレミスからクラウドへの移行を検討する企業が増加しています。どのような手順でオンプレミスからクラウドへ移行するのか・設計するのかを理解していれば、仮想サーバーの設計・構築などの高い技術が求められる案件にも参画できるようになるでしょう。
AWSによる仮想サーバーの設計・構築の知識を深めるためには、AWSを構築・設計・運用するための考え方や手本が示されている「AWS Well-Architected Framework」の活用がおすすめです。
関連記事:インフラエンジニアに求められるAWSスキルとは
AWSエンジニアに必要な知識を身に付けるための学習方法
AWSエンジニアを目指すためには、インフラに関する知識やミドルウェアなどの知識が求められますが、日々進化するAWSに関する知識を重点的に学習する必要があります。
この章では、AWSエンジニアに必要な知識を身に付けるための学習方法を紹介します。
AWSに関する資格取得を目指す
AWSに関する資格の取得がおすすめです。資格勉強を通して、AWSエンジニアの実務で活かせる知識を体系的に身に付けられます。AWSに関する資格は多くありますが、まずは基礎レベルである「クラウドプラクティショナー」の取得を目指しましょう。
クラウドプラクティショナーを取得すれば、AWSの主要サービスやクラウド、セキュリティなどに関する基本的な知識を証明できます。ほかにも、AWSに関する試験には「ソリューションアーキテクトアソシエイト」や「ソリューションアーキテクトプロフェッショナル」などがあります。しかし、AWSの認定試験を初めて受験する場合、入門的な位置づけであるクラウドプラクティショナーから挑戦するとよいでしょう。
クラウドプラクティショナーの資格は、AWSエンジニアになるために必須ではありません。しかし取得すれば、AWSに関して一定の知識を持っていることや、学習意欲の高さをアピールできます。
関連記事:AWS認定資格で年収アップは可能?転職における市場価値とは
AWS公式のハンズオンを受講する
AWSの知識を身に付けるための教材は多く存在します。その一つであるAWS公式のハンズオンは、AWSが提供しているサービスの利用方法などを実践的にまとめた講座です。オンデマンドの形式で配信されている動画を見て学習を進める形になっているため、場所・時間にとらわれずに学習を進められます。
AWS 初心者におすすめの講座は下記の2つです。
はじめてのAWS 〜クラウドの有効活用を考える〜
クラウドコンピューティングの基本思想やAWSの基礎サービス、AWSのサービスによって得られるメリット、最新事例を紹介するオンデマンドセミナーです。これから会社でAWSを導入しようと検討している方や、AWSの概要を知りたい方を対象としています。AWSの活用方法をわかりやすく解説しているため、AWSを学習したばかりで活用イメージが湧かない方にもおすすめです。
AWS ご利用開始時に最低限おさえておきたい10のこと
AWSの利用開始時に必ずチェックしておきたいセキュリティの設定や、有効化しておきたいアカウント設定などについて解説しています。AWS初心者の方向けの内容となっており、これからAWSを使う予定の方やAWSを使い始めたばかりの方、AWSについて再学習したい方などにおすすめの講座です。
ハンズオンの講義はほかにもたくさんあり、AWSのサービス内容や活用方法についての理解を深められます。自分が興味のある内容から視聴し、学習を進めていきましょう。
AWSサービス別資料で学習する
AWSの各サービスの違いや特徴を理解するためには「AWSサービス別資料」がおすすめです。AWSサービス別資料は、AWSで開催しているウェブセミナーのアーカイブとなっており、各AWSサービスの要点がまとめられています。
難しい専門用語もわかりやすく記載されているため、初心者の方でも読み進めやすい点が魅力です。AWSの学習を進めるうえで理解しにくいサービスの仕組み・技術があった場合、AWSサービス別資料を参照することをおすすめします。
関連記事:AWSの勉強手順を公開|クラウド初心者なら知っておきたい!
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