近年、クラウドの普及が急速に進んでいます。数あるクラウドコンピューティングサービスのなかで最も高いシェアを誇るのが、Amazon社が提供しているAWS(Amazon Web Service)です。AWSは、大手企業や官公庁など多くの顧客を抱えており、成長を続けています。それに伴って、AWSエンジニアの需要も増加しているため、キャリア形成を検討している方は要チェックです。今回は、AWSの概要とAWSエンジニアの仕事内容について解説します。
クラウドコンピューティングサービスAWSとは?
AWSやAWSエンジニアの詳細を理解する前に、クラウドについておさらいしておきましょう。AWSの概要を簡単に説明したうえで、オンプレミスと比較しながら、クラウドの特徴を解説します。
AWSとは
AWSとは「Amazon Web Service」の略称で、EC事業において世界的に有名な、Amazon社が運営するクラウドコンピューティングサービスです。AWSの歴史は比較的浅く、サービスが始まったのは2006年です。現在では、世界中の企業や官公庁を含め、数十万人の人々に利用されています。(※1)クラウドコンピューティングサービスは、GoogleやMicrosoftからも提供されていますが、ガートナー社の調査(※2)では、AWSはクラウドコンピューティング領域のリーダーとして位置づけられています。
※1参考:日経XTECH「第1回 AWSの歴史、745機能をリリースし40回以上値下げ」
※2参考:Gartoner「クラウド・インフラストラクチャ/プラットフォーム・サービスのマジック・クアドラント」
オンプレミスとクラウドの比較
ここからは、クラウドが注目を集める理由について、従来型のオンプレミスと比較しながら解説していきます。
オンプレミスは、ITリソースを使用するために、自社でソフトウェア・ハードウェアを保有・管理する運用です。自社の要望に合わせて自由にソフトウェアとハードウェアを選べるメリットがあります。しかし、ソフトウェア・ハードウェアの導入に膨大な時間とコストが必要であり、運用や保守にも負荷がかかることがデメリットです。
一方、クラウドは、インターネットを経由して、必要なときに必要な分だけITリソースを使用できるサービスです。導入時にかかる時間やコストを抑えられるうえ、運用・保守の負担も軽減できます。そのため、近年ではオンプレミスからクラウドへの移行に積極的な組織が増加中です。
AWSの特徴
AWSは、数あるクラウドコンピューティングサービスのなかでシェア率が最も高いです。マーケットから高く評価されている理由に迫るため、AWSの強みとなる6つの特徴について解説していきます。
オンプレミスのような高額の初期投資が不要
オンプレミスと比較すると、データセンターやサーバーをゼロから立ち上げる必要がないため、初期費用を抑えられます。サービスを使った分だけ支払う従量課金型のため、不要なコストが発生しません。また、従来固定費として管理していたコストが変動費になるため、減価償却管理などの経理上の管理も不要になります。立ち上げ時に多額の投資を必要とせず、スモールスタートできることがAWSの強みです。
スケールメリットを活かすことによるコスト低減
AWSは価格が安いことも特徴の1つです。各社がバラバラにサーバーを保有するよりも、AWSのようなクラウドに特化した大企業で一括して管理するほうが、スケールメリットを活かせるため、コストを抑えられます。例えるなら、自家用車を各家庭で保有するよりも、バスを利用したほうが、社会全体の観点では効率的な移動手段になることを想像すると分かりやすいかもしれません。このようにAWSには、スケールメリットを活かし、ITリソースを低価格で利用できる特徴があります。
オンプレミスと比べて運用保守がしやすい
自社でデータセンターを持つよりも、運用保守にかかるコストを抑えられます。自社でサーバーを保有する際には、サーバーに対する電源供給や、サーバーラックへの収納などを自社で行わなければなりません。AWSを利用すれば、そうした運用保守の業務をすべて任せられます。その結果、社内のリソースを自社本来のビジネスに集中させることが可能です。
オンプレミスよりもサイジングが容易
AWSは、サーバー数をすぐに増減できるため、ビジネス規模拡大や縮小に柔軟かつスピーディーに対応できます。オンプレミスの場合、サーバーの準備に費用と時間がかかるため、需要変動への迅速な対応が困難でした。しかし、AWSであれば、突発的な需要の増減があっても、設定を変更するだけで簡単に対応できます。その結果、機会損失の回避や余計なコストの削減につながるでしょう。このように、ビジネスの変化に対応できる柔軟性もAWSの大きな特徴です。
高いセキュリティ
情報セキュリティは、AWSの最重要事項です。AWSは、責任共有モデルの考え方を採用しており、インフラストラクチャの領域については、AWSがセキュリティの責任を負う構成になっています。第三者機関からの認証や、世界各国の法律・規制などに対応できている状態です。官公庁や銀行もAWSを利用していることからも、セキュリティへの社会的な信頼度の高さが伺えます。
グローバルインフラストラクチャ
世界中にデータセンターがあるため、簡単に海外のサーバーを使用できることもAWSの特徴です。異なる地域のデータセンターを使用することで、自然災害や戦争などの地理的要因による障害へのリスクに備える、ディザスタリカバリに対応できます。また、コンテンツの配信にスピードが求められるグローバルサービスの展開時には、サービス提供国の近くのサーバーを利用して配信速度を上げることも可能です。
AWSで利用できるサービス
AWSでは、200種類を超える多種多様なサービスを利用可能です。ここでは、代表的なサービスをピックアップして解説します。
EC2(Elastic Compute Cloud)
サービス内容
EC2は、仮想サーバーを作成・利用できるサービスです。ハードウェアを購入する必要がないため、ニーズに合わせてスケールアップ・スケールダウンを瞬時に行えます。
特徴
ワークロードに合わせて、CPU・メモリ・ストレージ・ネットワーキングキャパシティの異なる、最適なインスタンスタイプを選択できる柔軟性の高さが特徴です。また、使用した分だけ支払うオンデマンドインスタンスを選択すれば、不要なコストがかかりません。ほかにも、事前に使用キャパシティを予約するリザーブドインスタンスや、未使用リソースがあるときに安い価格で使用できるスポットインスタンスなど、複数の料金プランがあります。使用状況に合わせた料金プランを選ぶことで、コスト最適化につながるでしょう。
S3(Simple Storage Service)
サービス内容
S3は、容量無制限でデータを保存できる、オブジェクトストレージサービスです。データレイクの構築、データのバックアップ、クラウドネイティブアプリケーションの利用など、さまざまな用途で用いられます。
特徴
イレブンナインと呼ばれる、99.999999999%の高いデータ耐久性を持っています。また、データへのアクセスの頻度や、復元力の異なる複数のストレージクラスがあることもS3の特徴です。用途に合わせて複数のストレージクラスから最適なオプションを選べるため、コスト最適化が図れます。
DynamoDB
サービス内容
DynamoDBは、サーバーレスなNoSQLのデータベースサービスです。ビデオオンデマンドサービスやECサイトなどが、顧客の活動履歴を分析するときに活用されています。
特徴
安定したパフォーマンスを1桁ミリ秒単位で高速に発揮できる点が特徴です。また、暗号化や自動バックアップなどを組み合わせることで、高い信頼性でデータを保護できます。さらに、DynamoDBはフルマネージドサービスであり、サーバー運営をAWSに任せられるため、保守・運用の負荷を軽減できます。
Lamda
サービス内容
Lamdaは、サーバーレスコンピューティングサービスです。インフラストラクチャの管理を行わずに、さまざまなコードを実行できます。また、ほかのAWSサービスや、SaaSと連携させることも可能です。
特徴
サーバーの準備などに手間をかける必要がないため、アプリケーション開発に集中でき、開発のスピードアップと運用コストの削減が見込めます。また、コードが実行される時間以外は支払いが発生しないため、無駄なコストがかかりません。ベンチャー企業や大手企業を問わず、アプリケーションの迅速な開発が求められる場面での使用実績が多くあります。
RDS(Relational Database Service)
サービス内容
RDSは、リレーショナルデータベースをクラウド上で簡単に運用できるサービスです。Amazon Aurora・MySQL・MariaDB・PostgreSQL・Oracle・Microsoft SQL Serverといった一般的なデータベースエンジンから、好みのものを選択して使用できます。
特徴
マネージド型サービスであるため、構築・運用・スケールアップが簡単で使いやすいことが魅力です。また、従量制料金をはじめとするさまざまなパターンの料金体系があり、コスト最適化につながります。AWSのRDSを利用することで、データベースのコスト削減やパフォーマンス向上を実現した大手企業も多数存在しています。
VPC(Virtual Private Cloud)
サービス内容
VPCは、AWSリソースを起動するために、ユーザー専用の仮想ネットワークをクラウド上で設定できるサービスです。インターネットにアクセスできるパブリックサブネット、アクセスできないプライベートサブネットの作成など、VPC内のネットワーク設定をカスタマイズできます。
特徴
各インタンスへのアクセスのモニタリングやアクセス制御などによって、セキュリティ管理が可能となります。また、通信経路の制御により、可用性の向上や負荷の分散につながります。
Cloud Front
サービス内容
Cloud Frontは、世界中のエッジサーバーを利用して、さまざまなWEBコンテンツを素早く安定させて配信するサービスです。動画配信サービスやゲームを扱う会社で利用されています。
特徴
AWSのグローバルインフラストラクチャを活かして、低レイテンシーなコンテンツ配信を可能にします。ユーザーと地理的に近いエッジロケーションを利用することで、オリジンサーバーに負荷をかけずに、高速でのコンテンツ配信が可能です。
AWSエンジニアとは?キャリアプランや将来性について
ここまで、AWSのさまざまな特徴について解説してきました。AWSの普及に伴い、AWSエンジニアの需要が高まっています。ここからは、AWSを専門的に取り扱う職種であるAWSエンジニアについて、転職情報も含めて詳しく紹介していきます。
AWSエンジニアとは
AWSエンジニアとは、AWSを活用した開発環境の設計、環境構築、保守運用を行う技術者です。AWSエンジニアには、AWSの深い知識に加えて、インフラ構築・ネットワーク・データベースなどITに関わる幅広い領域の理解が求められます。
関連記事:AWSの勉強手順を公開|クラウド初心者なら知っておきたい!
AWSエンジニアのキャリアプラン
AWSエンジニアは、IT業務の経験がない状態で就くことは困難といえます。類似性のあるインフラエンジニアやプログラマから、AWSエンジニアに転職するケースが一般的です。実務経験を重ねることで、AWSエンジニアとして成長できるでしょう。
AWSエンジニアになった後は、さまざまなキャリアにつなげられます。
例えば、下記のキャリアプランが考えられます。
-
・上流工程のITコンサルタント
・チームをまとめるプロジェクトリーダー
・フリーランスに転向
このようなキャリアを目指すことで、収入アップが期待できるでしょう。
関連記事:インフラエンジニアに求められるAWSスキルとは
AWSエンジニアの将来性
総務省のデータ(※1)によると、クラウドサービス市場は右肩上がりの高い成長が見込まれています。継続した需要が見込まれるため、AWSエンジニアは今後も高年収が期待できるでしょう。実際に2022年12月時点で、AWSに関する求人のなかには、月収100万円を超えるものも存在します。(※2)
またアメリカでは、高年収のIT人材の多くがAWSの資格を持っているという統計データがあり、クラウド技術者を日本で増やす試みも始まっています。(※3)
このように、AWSエンジニアの需要は年々高まっており、収入アップを目指したい方にはおすすめの職種です。
※1参考:総務省「クラウドサービス市場の動向」
※2参考:レバテックキャリア「AWS 絞り込み検索の求人・案件一覧」
※3参考:EnterpriseZine「「IT人材は2030年に60万人不足」AWSが育成プログラム発表」
AWSエンジニアにおすすめの資格
最後に、AWSエンジニアを目指す方におすすめの資格を解説します。もちろん、資格があるからといって、必ず転職できるわけではありません。しかし、学習意欲のアピールや、保有スキルの客観的な指標という観点では、転職活動に役立つ可能性はあります。興味のある方は、ぜひ資格取得にチャレンジしてみましょう。
AWSの認定資格
AWSには認定資格があり、この認定資格は、ファンダメンタル、アソシエイト、プロフェッショナル、スペシャリティの4つの区分があります。
効率的に学習するには、Amazonが提供しているデジタルトレーニングやクラスルームトレーニングの活用がおすすめです。また、試験はオンラインで受けられるため試験会場に行く手間がかかりません。試験に合格すると、資格の証明としてデジタル認定バッジが付与されます。
ファンダメンタル
ファンダメンタルは、AWSに関する基礎的な知識の習得を目指したレベルです。これまでにIT業務の経験がない方や、AWSに初めて触れる方を対象とした内容になっています。
アソシエイト
アソシエイトは、AWSクラウドについての一般的な知識とスキルを証明するレベルです。ある程度のIT業務経験を持つ、中級レベルの方向けの試験区分になっています。
プロフェッショナル
プロフェッショナルは、AWSを最適に運用するための高度なスキルを持つことを証明するレベルです。ファンダメンタルやアソシエイトよりも難易度が高く、2年以上のAWS経験がある上級者向けの試験区分になっています。フ
スペシャリスト
スペシャリストは、各領域について深い知識を持っており、アドバイザーとして活躍できることを証明するレベルです。ネットワーク、データベース、マシンラーニングなど、専門領域に分かれた様々な試験があります。領域の専門家として活躍したい方におすすめの試験区分です。
関連記事:AWS認定資格で年収アップは可能?転職における市場価値とは
AWSの認定資格以外におすすめの資格
AWSの認定資格は、AWSに特化した内容となっており、AWSエンジニアを目指す方におすすめです。しかし、AWSに限定した知識ではなく、ITに関する全般的な知識を身につけたい方もいるでしょう。そこで、ここからはより汎用的なIT知識を身につけたい方向けの資格を紹介します。
応用情報技術者試験
応用情報技術者試験は、高度IT人材として必要な知識・技能を証明する資格です。基本的なテクノロジーに関する知識に加え、マネジメントやIT戦略立案についても問われます。そのため、エンジニアからさらなるキャリアアップを目指したい方におすすめです。合格率は20%程度と、難易度の高い資格であるため、しっかりと準備する必要があります。
ネットワークスペシャリスト試験
ネットワークスペシャリスト試験では、ネットワークに関するサービス・技術、ネットワークシステムの構築・運用に必要な知識・実務能力を習得できます。ネットワークエンジニアとして、活躍の場をより広げたい方におすすめの資格です。情報処理技術者試験の区分では最上位の4に分類され、合格率が15%程度と非常に難易度が高いため、十分な対策が求められます。
データベーススペシャリスト試験
データベーススペシャリスト試験では、データベースの構築・管理に必要な知識・実務能力を身につけることができます。データベース領域で専門性を発揮したい方や、インフラエンジニアの方を対象とした資格です。こちらも情報処理技術者試験の区分では最上位の4に分類されており、合格率が15%程度と低いため、入念な試験対策が欠かせません。
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