- 川村 猛(かわむら たける)氏の経歴
- 1999~2003年 大学時代
- バンド活動に明け暮れる日々を過ごす
- 2003~2006年 バンド活動時代
- 着メロの制作会社でプログラミングの仕事
- 2006~2010年 フリーランス時代
- モバイル公式サイトを始め、様々な案件の受託開発を行う
- 2010~2013年 サイバーエージェントグループ時代
- 数々のゲーム制作に携わる
- 2013年 グリフォン立ち上げ
- エンジニア1名の状態からスタート、創業2年でヒットメーカーに
- 2014年
- グリフォン取締役CTO就任
- 現在
- エンジニアのマネジメントと採用に集中。技術力や生産性、開発環境を向上させる施策の立案、実施を行う
前回に続き「CTOの職務経歴書」には、『不良遊戯 シャッフル・ザ・カード』などのヒット作を手がける株式会社グリフォンのCTO、川村猛氏が登場。後編では、グリフォン社立ち上げのエピソード、現在の仕事観や人材育成の取り組みなどについて語ってもらった。
株式会社グリフォンとは
スマートフォン向けブラウザゲームの企画・開発を手がけるゲーム会社。2013年2月にサイバーエージェントとグリーとのジョイントベンチャーとして設立されて以来、『不良遊戯 シャッフル・ザ・カード』(以下、不良遊戯)などのブラウザやPC向けタイトルを手がける。
http://www.griphone.co.jp/
- 1. 社会人になれたと実感したサイバーエージェントのゲーム系子会社時代
- 2. 『不良遊戯』は当初GvGじゃなかった。創業2年でヒットメーカーに
- 3. 実装タスクを持たずマネジメントに集中。でもインプットは止めない
- 4. CTOに必要なのは、会社の成長に必要なものを考える判断力と行動力
1. 社会人になれたと実感したサイバーエージェントのゲーム系子会社時代
─サイバーエージェントグループに入社してからグリフォン立ち上げまでの3年間を振り返ってみて、いかがですか?
川村氏:まずは、「ようやく一端の社会人になれたかな」という感じでしたね(笑)。視野が広がりましたし、自分の仕事の取り組み方、成果物についても、それ以前と比べて自信が持てるようになりました。自分の強み、欠点が分かったことも大きかったですね。
入社して、エンジニアはもちろん、職種に関係なく優秀な方達と出会い、すごく良い刺激を受け、チームで働く面白さや難しさも学びました。
─印象的なエピソードはありますか?
サーバサイドのエンジニアとして、様々なゲーム開発に携わっていました。最初に担当したモバゲー向けのアプリは、リリース初月から予想以上にたくさんのユーザー様に遊んでいただき、とても驚きました。
それまで手がけてきたサービスと比較するとまさに桁違いで、すごく衝撃を受けたんです。自分の手でより大きなサービスを作りたいという思いがもともと強いので、目にする数字が刺激的でした。
─グリフォンを立ち上げられたのは、いつ頃ですか?
設立は2013年の2月ですが、立ち上げに向けて2012年の秋頃から準備していました。グリフォンの立ち上げが決まり、最初に現・取締役の大社(おおこそ)の参画が決まりました。大社は当時、新卒入社2年目でしたが、1年目に私と同じプロジェクトで働いており、お互いに信頼関係が築けていました。
また、当時から私が起業や経営に興味を持っているという話もしていましたので、立ち上げに誘ってくれたんです。私も喜んで話を受けました。
─では創業時からCTOを務められていたんですね。その頃、エンジニアは何人いましたか?
川村氏:最初は自分1人です。だから人を採用するところからのスタートでした。エンジニアだけでなくデバッガーやフラッシャーの採用も、1人で行っていました。開発タスクを進めながら職務経歴書を読んだり、面接を行ったりしていましたね。
新卒2年目の大社氏から誘われてCTOに就任した川村氏。念願だった子会社の立ち上げに携わった
2. 『不良遊戯』は当初GvGじゃなかった。創業2年でヒットメーカーに
─いかがでしたか?実際に立ち上げに携わられてみて。
川村氏:入社前から起業は仕事をするうえでの目標の一つでしたので、単純に嬉しかったですね。また、サイバーエージェントとGREEの子会社ということで、両社の多くの方々にかなり助けていただきました。
迷惑もたくさんおかけしてしまいましたが、一方で、子会社としての強みを活かすことができたと思います。かなり恵まれた環境で立ち上げることができ、関わっていただいた皆さんには非常に感謝しています。
社名も、立ち上げメンバー全員で話し合って決めました。なかなか決まらなくて、休日にも会議を開き、みんなで案を出し合ったりして。当然、ゼロから作り上げていくのは大変なんですけど、楽しいんですよね。
─他にもそう思われる時はありますか?
川村氏:やはりユーザーの方々にグリフォンのゲームを楽しんでいただくことが、何より嬉しいですね。マネジメント面では、社員が成長していく様子を見ると幸せな気分になりますし、彼らががんばっている姿は、私に刺激を与えてくれます。「自分も成長しなければ」と、思わせてくれるんですよね。
─創業から2年が経ちました。御社の強みと言えばやはり、ブラウザゲームでしょうか?
川村氏:そうですね。創業からブラウザゲームを作っていて、現在は『不良遊戯』、『ミリオンアーサー エクスタシス』、『アイドルうぉーず~100人のディーバと夢見がちな僕~』と3つのブラウザゲームを運用しています。また、それらのタイトルすべてがGvG※をメインスキームにしたゲームなので、ブラウザだけでなくGvGのノウハウも溜まってきています。それも強みだと言えますね。
※…Guild vs Guildの略。オンラインゲームでプレイヤーの集団同士が戦闘をすること、またはそのシステムのこと
─これまでの開発について、印象的なエピソードがあれば教えていただけますか?
実は『不良遊戯』は当初、別のゲームスキームで作られていたんです。社内でレビューを行ったところ、「これでは面白くならない」「長く遊べるものにならない」という結論に至り、いったんゼロに戻してGvGの形式で作り直すことにしました。そして、レビューから約2ヶ月でGvGを完成させたという経緯があります。
─凄いですね。たった2ヶ月ですか。
川村氏:はい、担当のエンジニアがかなり頑張ってくれました。結果、その判断は正解でした。『不良遊戯』は『GREE Platform Award - The first half of 2013』で最優秀賞に輝くなど、ヒット作になりました。大変でしたが、大きく舵を切って本当に良かったと思います。
また、『ミリオンアーサー エクスタシス』ではテストコードをしっかり書き、コードレビューもチームのエンジニア全員で行うという開発スタイルを、開発初期からずっと継続しています。コードの品質担保が、社内で一番上手くいっているプロジェクトですね。
『ミリオンアーサー エクスタシス』では、川村氏が若手をリーダーに抜擢。大きく成長したという
3. 実装タスクを持たずマネジメントに集中。でもインプットは止めない
─川村さんは現在、CTOとしてどんな業務を担当されているんですか?
川村氏:特定のプロジェクトには属していませんが、社内の全プロジェクトに関わっています。また、エンジニアの技術力や生産性、開発環境の向上、エンジニアのマネジメント全般なども行っています。
そのほかには、サイバーエージェントのゲーム系子会社が所属するSGE※という組織があるのですが、そこで全体で連携して進めている取り組みも担当しています。同組織では、グループ横軸でのノウハウ共有や人材育成の取り組みを行っているほか、各社CTOが集まって技術戦略を練ったりしています。
創業からしばらくは、プロジェクトで実装タスクを抱えながら、エンジニアのリーダー、採用やマネジメントを担当していました。それに比べて今は、業務がマネジメント中心の内容へと変化しました。
※…サイバーエージェントのゲーム事業に携わる子会社9社を指す、「Smartphone Games & Entertainment By CyberAgent」の略称
─技術力向上のため、具体的にどんな取り組みをされていますか?
川村氏:例えば毎日30分間、希望者を対象に輪読会を開いています。課題図書を決め、みんなで同じ本を読みます。特に準備はせず、一ヶ所に集まって課題図書を読み、最後の10分間で内容について議論します。本は、プログラミングやマネジメントなどについて書かれたものが多いですね。つい先日は、見積りに関する本を読んでいました。
また、毎週土曜日にUnityの勉強会も開催しています。これも希望者を対象に、Unityで各々が作りたいゲームを作るという内容です。作ったゲームは、最終的にリリースまで持っていくことを目標にしています。
─なるほど。生産性や開発環境についてはいかがですか?
川村氏:例えばツールを新しくして、生産性の向上を試みています。全員共通のエディターを使っているほか、コードフォーマッターも統一することでコーディングスピードと可読性を上げ、コードレビューにかかる時間を短縮しています。また、PCのスペックが低いせいで作業スピードが落ちる、ということが無いように気を付けています。
技術戦略については、社内のエンジニアと話し合いながら決めています。若い社員からも、「こんな技術を使いたい!」と活発に意見が飛び出しています。
─川村さんは今でもコードを書かれるんですか?
川村氏:書きますが、創業時と比べると量が大幅に減りました。書く時間は業務外で取ることが多いです。イレギュラーのタスクも多く、特定プロジェクトの実装タスクを持つと、自分がボトルネックになり得るからです。それで迷惑をかける事態を避けたいんですよね。
知識のインプットは、以前よりも増えています。私は、技術力を一番の強みとしてCTOを任せられているわけではないと思っています。だからこそ、なおさらインプットを止めてはいけないと考えています。若手もベテランも、私より優秀なエンジニアがたくさんいますし、それが嬉しいです。
─インプットはどのようにされていますか?
川村氏:日々、情報収集をしています。社内にエンジニア同士で情報共有する場があるので、そこで話題になったことを勉強してみたり、知らないことがあれば深掘って調べたり教えてもらったりしています。外部の勉強会に参加することもあります。また、会社で定期購読している『WEB+DB PRESS』や『Software Design』などの専門誌にも目を通すようにしています。
社内で行っている輪読会や勉強会も私の発案です。勉強したいけど私一人では続けられないだろうから、他の人も巻き込んで始めてみました(笑)
若手のがんばる姿に「負けてはいられない」と笑顔で語る川村氏
4. CTOに必要なのは、会社の成長に必要なものを考える判断力と行動力
─川村さんはどんなエンジニアと働いていきたいですか?
川村氏:自分が担当するサービスやアプリに、当事者意識を持って臨める人ですね。任された仕事に対してどこか他人事になってしまったり、人のせいにしたりしないで、真摯に向き合う人と働いていきたいです。グリフォンには、そういうエンジニアしかいないです。
─組織づくり・人材育成で心がけていることを伺えますか?新卒の方からは、「育成の神」と言われているようですが…(笑)。
川村氏:育成の神ですか…(笑)。チーム編成や任せる仕事を検討する際に、その人が120%頑張らないとやりきれないサイズの仕事を渡すように心がけています。ちょっと背伸びをしないといけないような業務ですね。
─120%の見極めは、簡単ではないですよね。どうされていますか?
川村氏:例えば、できるだけコミュニケーションを取ることも手段の1つです。月一で面談を行ったり、各プロジェクトのリーダー陣からメンバーの状態を報告してもらったり。新卒エンジニアについては毎朝、日替わりで1人ずつ始業前に30分間、話すようにしています。そうした会話を通じて、エンジニア1人ひとりの状態を把握するようにしています。よく周りから、とにかくコミュニケーションの量が多いと言われます。
─変化の速いゲーム業界で今後、御社に求められることは何だと思われますか?
川村氏:クライアントサイドでは表現がリッチ化していますし、スマホアプリでもコンシューマーゲームに近いスキルセットが求められるようになってきていると感じています。そこで十分に戦っていけるよう、準備を進めていかなくてはならないと考えています。
また、市場はすでにレッドオーシャン化していますので、技術レベルで引けをとらないようにしていくのはもちろん、グリフォンらしさを持って勝負していきたいですね。そして、ネイティブアプリの領域でも躍進を狙っていきたいです。
川村氏は、サイバーエージェント副社長日高氏の言葉を借りて「らしく勝つ」ことも大切だと話す
─今後、御社のエンジニアは、より尖ったほうに行くのか、それともフルスタックになっていくのか、どちらでしょうか?
川村氏:やっぱり両方ですね。クライアントとサーバサイド、それぞれを深堀していくエンジニアが必要ですし、2つを繋ぐ役割も求められています。また、クライアントとデザイナーとの橋渡しができる人材も重要です。実際、グリフォンにはエンジニアとデザイナー両方のスキルを持ち、設計に落とし込むことができるポジションも重要になってきています。
─CTOに最も必要な要素とは、何だと思われますか?
川村氏:経営者には、会社が成長するために何が必要かを自分で考えて、アクションを起こす判断力と行動力が求められると思います。CTOの役割は、そこにエンジニアの視点を加えることだと考えています。私もエンジニアをまとめる1人の役員として、自由なスタンスでいろんな挑戦をしていきたいと考えています。
─今後のビジョンをお聞かせください。
川村氏:今、グリフォンはネイティブアプリという、自分達にとっては新たな分野に挑戦しています。まずはしっかりリリースして、ユーザー様に喜んでもらえるサービスを作り上げたいですね。そして、エンジニアで競争力を持てるように人材育成や技術力向上の仕組みづくりを進め、会社の成長をけん引していきたいと考えています。
前編を読む:インディーズミュージシャンからベンチャー企業のCTOへ
レバテック営業担当「大林春菜」から一言!
さまざまなキャリアの変遷と、ユニークなご経歴、 それに裏付けられた温かいお人柄が印象的でした!
20代半ばまでミュージシャン志望だった川村さん。その後、フリーエンジニアを経て、30代半ばでグリフォン社CTOになられたキャリアチェンジに、目を見張ります。また、社員経験がないなか正社員になり、起業に携われたのは、サイバーエージェントグループだからこそ描けたキャリアパスでしょう。川村さんが若手から『育成の神』と言われる背景には、技術力はもちろん、ユニークな経歴とそれに裏付けられた温かいお人柄があるのだと思います。これからも素敵なエンジニアを育てていただきたいですね。