- 1. マジョリティはWebの最先端に乗り遅れがちという課題
- 2. 机1個のオフィスから売上数億円まで、想定以上のスピードで駆け抜ける
- 3. 「失うものしかない」メンバーでのスタートアップ
- 4. KAIZEN エンジニアチームのどこが凄い?
- 5. 世界を見据えた今後のKAIZEN platform Inc.
「CTOの職務経歴書」は、レバレジーズ(現レバテック)のアナリスト兼営業が、インタビュー取材を通して注目企業CTOの視野に迫る連続企画です。
こんにちは、レバテック営業の山田です。前回に引き続き、KAIZEN platform Inc.のCo-Founder & CTOである石橋利真氏のインタビューをお届けします。
CEO須藤氏からの電話ではじまったKAIZEN platform Inc.起業の道のり。「地に足をつけたビジョン」を実現する軌跡、その価値観を伺いました。
1. マジョリティはWebの最先端に乗り遅れがちという課題
山田:石橋さんが共感したKAIZENの事業ビジョンって具体的に何だったんでしょうか。
石橋:「グロースをみんなに提供したい」っていうものでして。
山田:ビジョン、詳しく伺いたいです。
石橋:Webの新しいテクノロジーって、ものすごく先進的で素晴らしいけど、それをガンガン駆使できるのは一部の人々や企業ですよね。他のマジョリティのみんなは、どうしてもそのスピードに乗り遅れてしまいがちなんですよ。A/Bテストもそう。
山田:確かに・・・日常的にA/Bテストを運用している企業となると、意外に少ないと思います。
石橋:明らかにA/Bテストした方が良いページはいっぱいある。でも、やり方がわからない、できる人が居ない、手間がかかる・・・結局誰も手つけてない状態。そこを自動化して手伝ってあげたい。
「やりたいのに、しんどくてやれない」っていう状態を解決して、みんなを幸せにする。これも僕の解釈上でのKAIZENのビジョンなんです。そういうところで須藤とニーズが一致したんですよ。「こりゃ、やるしかないね」って。
山田:確かに、これまでお伺いした石橋さんのモチベーションと一致していますね。
石橋:そうですね。ビジョンと須藤という人間の両方が良かった。もちろん、実際に決めるまでは、いっぱい話しましたけど。これは今も変わらないけど、僕、人柄をすごく見ます。チームもそうなんですけど。「一緒に仕事をしたい人かどうか」これが大切ですね。
KAIZEN platform Inc.のサイトには「我々はウェブサービスに成長を提供する」というビジョンが掲げられている。
2. 机1個のオフィスから売上数億円まで、想定以上のスピードで駆け抜ける
山田:初期の開発現場はどんな様子だったんでしょうか?
石橋:しばらくは2人とも仕事を続けながら、夜や休日の時間を使って、プロダクトのプロトタイプ開発を進めていました。週何回か集まって、ビジネスロジックを詰めたり UX について議論したり。このタイミングから既にグローバルを意識して 100% 英語のサービスを作っていました(笑)
ほぼ出来上がっていたプロダクトを前に「これじゃ無い、やっぱり一段上の価値を提供できるものにしたい」との須藤の強い想いから、数ヶ月かけて作ったものを全部を捨てて、スクラッチから作り直した事もあります。
新たなプロダクト (現 planBCD) のコアとなる機能の技術的な実現性が最初のカベだったのですが、良いもの作ってやるぜ世界を変えてやるぜ・・・ってな情熱から、数日で課題突破、プロトタイプを作り上げるなんて事もありました。毎晩デニーズで一人開発していたので見た目地味でしたが、この時期はかなり盛り上がってましたね。
山田:最初からグローバルってすごいですね。
石橋:世界を相手に勝負できる最短パスだ、という事でシリコンバレーでもトップレベルのシードアクセラレーターである Y Combinator に応募しました。まずは3分間の自己紹介ビデオを送れ、という事で2人で脚本考えて、つたない英語で「俺たちスゲーぜ、まじ投資するしかないっしょ!」とアピールしたのですが、スカッと落選しまして。「アイツら判って無いなー、仕方無い、じゃ次は国内営業やろうかー」なんて強気の姿勢と勢いでコトを進めていました。
山田:そして、2013年7月から本格稼働されたんですね。
石橋:はい。2人とも前職を退職して、KAIZEN 社が本格稼働し始めたのが2013年の7月。大人6人ギリギリ入る程度の会議室サイズのオフィスを新橋で借りてスタートしました。
ここから2か月間で仲間が5人増え、パートナー開発会社の HeartRails さんの手も借りて、エンジニアは5?6名体制で進めていました。といっても、この頃は新規開発案件、クライアントサポートの量ともに多くて、営業・運用・開発メンバー全員が各々の個人力と密なコミュニケーションでなんとか切り盛りする多忙な日々でしたね。
この仕事の回し方に限界を感じ、ストレスが溜まって辛くなってきたタイミングで、今度はチームマネジメントに秀でた頼れる仲間が join してきてくれました。彼らはすぐに、ハンパ無いスピードでチームの布陣を整理して、個々の個人力では無く組織編成(仕組み)とワークフロー(ルール)で仕事を担保するやり方に舵取りしていきました。
この変化も、わずか1ヶ月ほどの短い期間で行われまして、伴って諸処メンバー間での歪みや心的ストレスもありましたが、それもなんとか乗り越えてより効率良くプロダクト開発を進める布陣に移行したのが、2013年12月末辺りです。この頃でメンバーは15名だったと思います。
3. 「失うものしかない」メンバーでのスタートアップ
山田:起業に至る前に、ご結婚されてたと思うんですけれども、ご家族の反応はどうでしたか。
石橋:「やりたいことをやったらいいじゃん」って言ってくれまして。今も応援してくれてますね。でも僕だけじゃなくて、KAIZENは家族持ちが結構多いです。メンバーの平均年齢も34~35歳くらいで、スタートアップから最初の10人くらいまではほぼ全員既婚、子持ちで。
山田:ご家族の応援があって、がんばれるというか。
石橋:ええ。みんな家族のサポートを受けて、ここまで来てるっていう感じですね。よく「失うものがないと強い」とか言うじゃないですか、僕らはむしろ「失うものしかない!」っていう状態です(笑)
プレスリリース (http://jp.techcrunch.com/2014/02/03/kaizen-news/) にもあるとおり、KAIZEN メンバーには素晴らしい才能とキャリアを持ったメンバーが続々集まってきています。彼らとは旧知の仲だった訳では無く、会って話をする中で、KAIZEN のビジョンに強く共感してそれぞれ joinを決めています。またこういった優秀なメンバーが、自分と共に最高の仕事をしたい!と強く思う別のメンバーを全力で誘う事で、続々個性が集まってきている感が強いです。
山田:現在のエンジニアチームの人数って何人ぐらいですか?
石橋:(2014年3月末の)現時点で全社のメンバー数は40名を越え、エンジニアチームは15?16名。プロダクトの開発は数名のディレクターと共に何本ものプロジェクトチームに分かれて、それらを並行して進めるプロジェクト制の布陣を敷いています。
クライアントの需要が高く、また事業の成長スピードもとても速いので、やれる事・やるべき事は常に山のようにある日々が続いています。課題を明確にして、常に優先度を意識してプロダクトを改善・進化させる。ひいては自分達のチーム開発プロセスそのものも速いスピードで改善・進化させ続けています。
山田:そういえば、元はてなの伊藤さん(※1)が技術顧問として参加されていますよね?
石橋:実は伊藤は大学時代の後輩でして。僕の家が大学から遠かったので、学生時代に彼の下宿先に転がり込んで暮らしてた時期があります(笑)社会人になってからは、たまにPerlのカンファレンスで「よう」って挨拶するくらいだったのですが・・
山田:へぇ~!もともとお知り合いだったんですね。
石橋:スタートアップで事業を進めるにつれ「この先のビッグウェーブに立ち向かうには、このままじゃまずい!」ってなった時に「あ、そういえば伊藤『はてな』やってなかったっけ?」って。「これは全力で助けてもらうしかない!」ってお願いしまくりました(笑)
※1.元はてな・GREEの伊藤直也氏
4. KAIZEN エンジニアチームのどこが凄い?
山田:伊藤さんもそうですが、KAIZENのエンジニアチームというと、前職がCTOであった方などスタープレイヤーが多いというイメージがありますが、どうなんでしょうか?
石橋:エンジニアメンバーは個々のキャリア・バックグラウンドから、それぞれ得意分野を持っています。ありがたい事に、それぞれが素晴らしい能力をもった頼れる存在です。僕はこの異なる能力を持つメンツが一丸となって、クライアントに価値を返す事に全力コミットしている状態、そしてチームとしての自分達のパフォーマンスや課題解決能力を日々改善しようと前のめりにアツくなっている状態が大きな魅力だと思っています。
データモデリングが得意なヤツ、コード品質や再利用性へのコミットが高いヤツ、チーム全体のマネジメント能力が高い頭領肌・・・ 全員が創意工夫を持ってチーム開発の最適化に取り組み続けている結果、とんでもないスピードで開発プロセスの改善とプロダクト開発が行われています。
山田:個性が強そうなチームですね…その中でチームマネジメントの観点からこだわっている点などはあるでしょうか?
石橋:社内の情報透明度やコミュニケーションの質にも高い意識を向けていて、いわゆる「社内の暗黙知」が作られないよう努力を続けています。こういった情報量の格差を最低限に抑える事で、エンジニアしかりメンバー個々が「事業の成長に直接貢献している事」を確かに感じられる。そんなチームや組織であろうと日々改善を続けている事が KAIZEN 社の大きな魅力だと自分では思っています。「自分達が心地良く思い、働きたいと思える会社にする」プロセスに前向きに取り組む事に、やりがいを感じますね。
5. 世界を見据えた今後のKAIZEN platform Inc.
山田:本社がサンフランシスコだということなのですが、海外での展望はどのようにお考えですか?
石橋:今年の前半から本格的に海外に展開する予定(※2)なんですけど、開発拠点をいきなり移すっていうのは考えてなくて、まずは日本での採用ですね。やっぱりコミュニケーションを密にできたほうがいいので。
山田:とはいえ、海外とやりとりするとなると、コミュニケーションの壁は出てきそうです。
石橋:実は、現時点でも英語しかしゃべれないメンバーが社内に何人かいます。ボリビア出身、元Yahoo! US のシニアデザイナーさんとか。
チームワークが肝になるので、火曜金曜の全社朝会を英語でやってまして。ただ、まだ全然たどたどしくて、しかも大切な議論になった瞬間に、ついつい急に早口な日本語に変わっちゃうから、日本語が分からないスタッフがちょっと困った顔になるという。そんな時は心の中で「ごめん、あとでちゃんと話すね!」って(笑)
東京オフィスは、既にインターナショナルな環境
山田:未来を見据えていろんな取り組みをされているんですね。では最後に、KAIZENさんの今後の展望を伺いたいと思います。
石橋:僕たちはBtoBのビジネスをやってる会社なので、スタートアップっていってもクオリティと納期は尋常じゃなく高いレベルで追い求めないといけない。技術的な部分でも、クロスブラウザの問題とか、バージョンが古いIEでも動かないといけないとか、相当難しいところにチャレンジしてます。そんな中でうちの開発チームも、僕個人もどう乗り越えていくかって勝負の時期なんだと思っています。
山田:なるほど。
石橋:世界で戦うには、いつまでもスモールでいるわけにはいかないし、期待して頂いている投資家の期待にも応えなきゃいけない。で、規模を大きくするために人を採用するんですけど、やっぱりそこで心がつながってる状態というか・・・採用した人達が、僕たちの仲間としてちゃんとワークし続けるっていう組織であることを重視したい。
まだ僕にはそのための「これだ!」っていう正解が見えて無くて、みんなに頼み続けるんですけども。でも、目標に全力でぶつかってやろうって気持ちでいます。なんか、あんまりビシッと格好良い話じゃないかもしれませんが・・・・
山田:いえ、お人柄というか、石橋さんらしさなんだなと。
石橋:そうですか?(笑)「KAIZENのCTOってイケイケなんだろうな」って思われると、確かにギャップがあるかもしれませんね。社長が夢について語るタイプなら、僕は地に足をつけて物を言うタイプですから。
山田:すごくバランスが良いタッグだと感じました。
石橋:でこぼこ感が凄いありますね。僕はどっちかというと現実的なビジョンを見ています。「数千人規模の組織にしたい」とかではなく、一緒に会社を育てて、「すごく大変だったけど乗り越えられた」っていう経験も、僕の目指すものなんです。
山田:立ち上げから一緒に育てているわけですものね。
石橋:一方で、会社自体は「世界で攻める」っていう路線なのも間違いなくて。世界のみんなの負担を減らしたいって事は変わらない。どちらも「俺ビジョン」として追い求めていきます。
山田:「世界のみんなの負担を減らす」っていう言葉、いいですね。
石橋:無駄な時間を減らして、世界中がクリエイティブなことに頭を使ったらどうなるんだろ?って。今はまだ、自分が貢献できているのかは分からないけど、そこに凄い興味があります。
山田:本日はお時間ありがとうございました。
※2.インタビュー後の2014年3月31日に総額500万ドルの資金調達を発表。本格的な米国展開をスタートした。スタートアップ直後から、急速に成長してきたKAIZEN platform Inc.?須藤氏と石橋氏の絶妙なバランスと、メンバーみんなで会社を育てる文化が相まった組織づくりが印象的でした。さっそく資金調達を終えて本格的に北米展開を開始する同社から、目が離せません。
余談:記念撮影にも快く応じて下さいました。