「CTOの職務経歴書」シリーズは、レバレジーズ(現レバテック)のアナリスト兼営業マンがインタビュー取材を通して注目企業のCTOに迫る企画です。
こんにちは。レバテック営業の林です。 前回に続きお送りする、「pairs」や「Couples」で話題の株式会社エウレカ執行役員CTO 石橋準也氏へのインタビュー後半。いよいよ石橋氏がエウレカへの入社を決意した経緯をはじめ、「pairs」のリードエンジニアから現在のポジションに就くまで、さらにはCTOとしての目標や共に働きたいエンジニア像についても、お話を伺いました。
エウレカとは? 2009年設立。日本と台湾、合計で230万人に利用されているFacebookを利用した国内最大級の恋愛・婚活マッチングサービス「pairs」を初め、カップル専用アプリ「Couples」などの運営を手掛ける急成長企業。 http://eure.jp/
- 1. 優れたビジネスモデルを見つけ、成長させる力を求めて
- 2. 入社半年でpairsのリードエンジニアに。積極的な戦略立案で掴んだCTOの座
- 3. 技術が“核”になるような組織を作っていく
- 4. 一緒に働きたいのは、技術とビジネスへの関心・向上心を持っているエンジニア
1. 優れたビジネスモデルを見つけ、成長させる力を求めて
―前職ではtoBからtoCまで、幅広い業務に関わり、社員として様々な選択肢と活躍の場が用意されていたと思います。なぜ転職をして、新たなステップに進もうと思われたのでしょうか。
石橋氏:自社ウェブサービスのプロデューサーを務め、事業をつくる楽しさを知り、非常にやりがいを感じていたと申し上げました。ただし、マネタイズ(収益事業化)については、かなり苦労しました。なかなか黒字化しないビジネスモデルをマイナーチェンジしたり、ピボット(方向転換)したり。スムーズに収益が上がらないことに、歯がゆさを覚えることも何度となくありました。
最終的にはギリギリ、黒字化に持っては行けたんですが、結局、マネタイズできるかできないかということには、そもそものベースとなるビジネスモデルに関わる要素が大きいのではないか、という思いが強くなってきたんです。それで当時の職場を離れ、新しいステージを探すことにしました。
マネタイズに苦労した前職で、ビジネスモデルの重要性に気づいた
実は当時、自分のなかで起業という目標も現実化してきていました。そこで考えたんです。とりあえずどんなビジネスモデルでもいいからまずは動かしてみて、それを必死に成長させるほうがいいのか。または、最初からじっくりと緻密なビジネスモデルを考えて、成長させるべきなのか。自分がやるなら絶対に後者だ、と思いました。
しかし、肝心のビジネスモデルについて、具体的に落とし込むことができませんでした。漠然としたアイデアがあっても、どういうやり方で確度や勝率を高めて行けばいいのかが、当時の自分にはまったく分かりませんでした。
ですから、それを実践的に学べる環境を求めていました。「優れたビジネスモデルを見つけて、それを正しく成長させる力がある」企業を探していたんです。
―そのなかで、エウレカに出会われたんですね。
石橋氏:偶然というのか、必然的な流れというのか。ある土曜日の朝、たまたまネットで求人・転職情報を見ていたら、エウレカの求人広告が目に入ったんです。ピンとくるものがあって、アクセスしたところ、すぐにメールが返ってきました。「今度、遊びに来ませんか?」と。いや、これが何を隠そう、ガチ面接だったんですが……(笑)。
ただ、そこで色々と話をしてみて、先ほど申し上げた自分の問題意識に対する解がここにある、この会社だったら自分が考えていることができるのではないか、という思いが俄然強くなりました。
当時のエウレカにはさまざまな課題はありつつも、「pairs」の成功が目の前に見えてきていた状況でした。それだけ順調に新ビジネスが成長している背景には、ベースとなるマネタイズモデルが優れているに違いないと考えたんです。
―ほかの会社も見てみようとは思わなかったんでしょうか。
石橋氏:他に候補としてあったのは1社だけです。選択肢って、増えれば増えるほど、後悔するほうが多いんじゃないかというのが僕の意見です。あっちにいけば良かったとか、こっちにいけば良かったとか、自分にとっての言い訳を増やすだけのように思うんです。
これまでも、家業を継ぐのを止めて進学・上京を決意したときや、大学を中退したとき、二回の転職など、幾多の岐路に立たされてきました。でも、僕の場合はあれこれ悩むより、自然と導かれるように道を選んできた。でも迷わず選択したからには、何が何でも成功させられるように努力することだけは意識していました。それが結果的に良かったように思います。
エウレカならば、エンジニアとしての自分のバリューを発揮しつつ、自身の課題に対する考え方も吸収できると確信できたし、企業文化にも共感できました。最終的には創業者2人との相性も決定打となりました。
求人広告でたまたま見つけたエウレカに、導かれるように入社を決めた
2. 入社半年でpairsのリードエンジニアに。積極的な戦略立案で掴んだCTOの座
―入社して、最初にされた仕事は何だったんですか。
石橋氏:最初は「pairs」開発のいちエンジニアです。約半年間は、ひたすらプログラミングをしていました。
―当時から、CTOというポジションを意識したり、PM(プロジェクトマネージャー)になりたいといった思いがおありだったんでしょうか。
石橋氏:ゆくゆくの起業という目標を見据え、経営陣の一角を担いたいとは思っていましたが、異質の環境に飛び込んで、正直1か月ぐらいはキャッチアップするだけで必死でした。CTOのポジションは、まったく頭にはありませんでした。
―これまで在籍していた会社とエウレカとの違い、新たな発見とはどのようなものだったんでしょうか。
石橋氏:まずメンバーのモチベーションの高さに驚きました。そして次第に見えてきたのが、組織、社内の制度がしっかりしていること。社員一人ひとりへの面談を四半期に1回やったり、1ヵ月に1回、事業や会社の方向性を話す全社会を開いたり。メンバーのモチベーションの高さをキープするために、さまざまな施策を実践しているのは、これまでの会社ではなかったことでした。
特に面談は、僕にとっても大きな意味を持っていました。入社半年ぐらいで「pairs」のリードエンジニアとしてチームを作り、開発環境・開発プロセスの整備や、プロデューサーと共に事業の方向性を考え、積極的な意思決定を心がけるようになったのも、面談での気づきがあったからだと考えています。
入社して驚いたのは、メンバーのモチベーションの高さだと語る石橋氏。面談が果たす役割は大きいという
―その延長戦上で、CTOというお話があったんでしょうか。
石橋氏:まず、話があったのは執行役員というポジションでした。そこで考えたのが、もっと全社的な動きをしていかなければならない、ということ。
どんどん大きくなるチームのメンバー全員に効率よく働いてもらうためのベースを作ろうと、会社全体のエンジニアリング戦略を考えたり、技術広報に取り組んだりしました。そうして組織面をいろいろと整えたりしていくうちに、創業者の2人がいつの間にか、「CTOの石橋です」と紹介してくれるようになったんです(笑)。もちろん、今では名刺の肩書にも、CTOと明記されていますよ。
―今は主にどういう業務に携わっていらっしゃるんでしょうか。
石橋氏:半分は組織面での業務です。全社的な評価制度の策定や採用活動などで、特に今はエンジニアの採用、技術広報活動に力を注いでいます。もう半分は事業サイドの業務。「pairs」のプロジェクトマネジメントや、インフラ・設計周りのチェックなどを担当しています。
―今も、ご自身でコードを書かれることはあるんですか。
石橋氏:なるべくメンバーに任せるようにはしています。ただ、「pairs」は2年半ぐらい運営しているんですが、過去の経緯を知らないと、最近入社したエンジニアでは書けないコードもある。かつ技術的に複雑で高度なプログラムの場合、僕が書くこともあります。
3. 技術が“核”になるような組織を作っていく
―CTOになられてから、技術面での勉強など、自己研鑽のために心がけていらっしゃるポイントはありますか。
石橋氏:つねに、基礎が何より重要だと考えています。コンピュータサイエンスや数学、ソフトウェア開発工学などについては、分野が非常に幅広く、まだ自分がカバーできていない部分も多い。だから、継続して勉強を続けています。
ただ、時間は全然足りないですね。僕は半身浴が好きなので、湯船に浸かりながら、本を読んだりしています。あとは、日曜日は基本的にオフにして、新たな情報のインプットを心がけています。
―CTOに必要な資質について、どうお考えですか?
石橋氏:CTOという定義は、100人いたら100通りの考え方や役割があると思います。では僕自身はというと、先を見通して戦略を考え、それを確実に実行することが何より重要だと考えています。
―CTOとして今後、どんな進化を遂げていきたいと考えていますか。
石橋氏:会社のマネジメントに携わる人間としては、先にも述べたように先を見通す力をもっと研ぎ澄ましたいですね。そして最適な戦略を練って、経営全体を見て行かないといけないと考えています。
さらにCTOとしての立場に限っていうならば、今、事業が急成長しているなかで、それを技術的に完全にコントロールしきれていない状況があることが課題です。技術が事業をドライブさせるための“核”になるような組織を、今後もしっかり作っていかねばならないと感じています。
―石橋さんは、エンジニア戦略としてハイブリッド・エンジニアを積極的に募集されていますが、その背景について伺えますでしょうか?
石橋氏:弊社では、サーバーサイドを含むWeb/iOS/Androidの1機能を1人で開発する体制へと移行を進めており、こうしたエンジニアのことをハイブリッド・エンジニアと呼んでいます。
従来の分業制だと、一つの機能を作るのに、何人ものエンジニアが関わることになりますよね。これは効率的なようで、実はムダが多いのではないでしょうか。お互いの実装に暗黙的な期待をしてバグが発生したりするのも、多くの人間が関わることによるコミュニケーションロスが大きな要因であると見ています。
エウレカでは現在、「pairs」のエンジニア50人弱のうち、約3分の1はハイブリッドで担当できる体制になりました。それにより、バグやクラッシュ率も低減し、月間売上も倍増するなど、目に見える形で、いい結果が表れ始めています。
ハイブリッド・エンジニアの積極的に採用し、効率化とバグやクラッシュの低減を図っている
4. 一緒に働きたいのは、技術とビジネスへの関心・向上心を持っているエンジニア
―こういうエンジニアと働きたい、一緒に会社を大きくしていきたい、という具体的な人物像があれば教えてください。
石橋氏:一つ目は、技術だけではなく、ビジネスに強い関心を持っている人。技術以外のことをやりたくないという人は、どんなに高いスキルがあっても、エウレカの業務には向いていないと思います。
二つ目は、基礎がしっかりできているかどうか。三つ目は、向上心が強く、他責にしない人。加えて最近、重要だと思っているのは、“ワンフォアオール”の考え方ができる人です。自分の部署や役割だけに捉われず、他の業務への相乗効果も考えつつ、自らの業務も高いレベルでこなす。自分の成果や損得だけでなく、組織全体へのベネフィットを考慮できる人はすごく価値が高いと考えています。
―最後に、ベンチャー企業で働く若手エンジニアに向けて、アドバイス、メッセージがあればお願いします。
石橋氏:繰り返しにはなりますが、基礎はしっかりと固めるべきです。慢性的に人手不足のベンチャー企業では、エンジニアとしての経験が未熟なままリーダーというポジションに置かれるようなケースも多い。結果、マネジメントに時間を取られ、技術を研鑚する時間が取れないというような悩みも耳にします。
もし、自身の市場価値に疑問を感じ、漫然とキャリアに不安を感じているのであれば、まずはSWEBOK(ソフトウェアエンジニアリング基礎知識体系)のようなものを使って、網羅的かつ効率的に基礎を固めていくなどしたほうがいいのではないでしょうか。地味な話のようですが、自身の将来を左右する大事なポイントになると思います。
「ビジネスとして、いかに結果を出すかにこだわることができるエンジニアと一緒に働きたい」と語る
さまざまな岐路に立ちつつも、迷うことなく進むべき道を選び取ってきた石橋氏。
新しいエンジニアリングの概念を提唱するなど、型や常識にとらわれない働き方には、たくましいベンチャースピリットを感じられました。また、石橋氏が共に働きたいエンジニアに求める条件や、大切にする考え方からは、エウレカ社が前進を続ける理由をいくつも垣間見ることができました。
今後も、石橋氏とエウレカ社の活躍から、ますます目が離せません。
前編を読む可能性を追い求めて大学を中退し、エンジニアの道へ―。一切の迷いも不安もなかった