「CTOの職務経歴書」シリーズは、レバレジーズ(現レバテック)のアナリスト兼営業マンがインタビュー取材を通して注目企業のCTOに迫る企画です。
こんにちは。レバテック営業の林です!
前回に引き続き、株式会社アカツキCTOの田中勇輔氏のインタビューをお届けします。最初の就職先からアカツキへと移り、現在は同社CTOとして活躍する田中さんの仕事に対する考え方、これからCTOとしてどのような進化を遂げていきたいのかなどについてお話を伺いました。
アカツキとは? 「ゲームの力で世界に幸せを」をミッションとしてスマートフォンサービスの企画開発、ソーシャルアプリの企画開発を中心としたサービスを提供。代表作に『サウザンドメモリーズ』など。2014年・15年の2年連続で、世界的調査機関GPTWの「働きがいのある会社」ベストカンパニーに選出。
http://aktsk.jp/
- 1. 塩田CEOの「愛のあるチーム」という言葉が入社の決め手
- 2. コードを読むことが自分自身の成長にもつながる
- 3. 同じ思いの仲間に囲まれていることを実感できた
- 4. 最高の開発をするために何ができるのかを考え続けたい
1. 塩田CEOの「愛のあるチーム」という言葉が入社の決め手
―2012年にユーザー系のSIerからアカツキへと移られたわけですが、アカツキへの入社を決断された決め手はどのようなものだったのでしょうか。
田中氏:なんといっても、弊社CEOの塩田との出会いが大きかったですね。面接で対面したときに塩田が語った「愛のあるチーム」という言葉には、強いパッションを感じました。また、チームで協力して良いものを作っていきたいという、私の考えにも近いと感じました。
当時のアカツキは、エンジニアもまだ4~5人しかいないような小さな会社でしたが、ここならやりがいを持って働けると思いました。会社が大きくなった現在でも、基本的なスタンスが変わっていないというのは素直にすごいと感じています。
CEO塩田元規氏の「愛のあるチーム」という言葉に共感して入社したと語る田中氏
―実際に入社して感じたアカツキの印象はどのようなものでしたか。
田中氏:入社してすぐに、『鬼神BLADE』というRPGゲームの開発チームに入ったのですが、他の人が書くコードを見たときには、その質にも量にも圧倒された記憶がありますね(笑)。最初に勤めた会社では味わえなかった感覚だったので、とても新鮮でした。
もうひとつは、自由と規律のバランスがとれている会社だと思いました。よく「自由なき組織は硬直し、規律なき組織は崩壊する」といいますよね。働く上で自由は必要だと思いますが、それはルーズになるとか甘えてもいいということではないと私は思います。
アカツキには、「自由であるためには規律が必要なのは当たり前だよね」という空気があって、たとえば前日の帰りが遅くなった人も、翌朝9時から始まる朝会にちゃんと来ているんですよね。
ゲーム会社というのはどうしても時間が不規則になりがちなのです。さらに、アカツキの場合、裁量労働制をとっているので、事前連絡さえあれば、朝9時に来なくてもとくに罰則は無いのですが、社員個々がそうした意識を持っているのは、素晴らしいことだと思います。
2. コードを読むことが自分自身の成長にもつながる
―現在の仕事について教えてください。普段はどのようなことをされていますか。
田中氏:ゲーム開発ではつねに複数のプロジェクトが動いていますので、チームマネジメントは重要な仕事のひとつです。CTOは技術責任者ですから、チーム内にプログラミングなどの技術的な問題があれば、それを解決するためにアドバイスすることもあります。また、作業が大変なチームがあれば、そのサポートに入ることもあります。
CTOになったことで、会議が増えたり、メディアの取材に対応したりと、現場にコミットする時間はどうしても減ってしまっています。ただ、そういうなかでも現場とのコミュニケーションはとっていきたいですね。
―CTOになられた現在でもコードを書くことはあるのでしょうか。
田中氏:書くことよりも読むことの方が多いですね。社内で開発しているものについては、すべてのコードに目を通していますよ。
―すべてですか。それはすごい量ですね。
田中氏:ええ。私は、コードを読むというのはとても大事だと思っていて、少なくとも週に1日はそのための時間を作っています。
たとえば、改善できそうなコードがあったとしても、まずは「こういう書き方をしたのはなぜだろう」と考えるんですね。それで分からなければ、直接本人にぶつけてみる。すると、その人の能力やコードについての考え方が分かりますし、ときにはそうしたやり取りからより良いアイデアが生まれることもあるんです。
さらに、人が書いたコードを読むことで、結果に向けたいろんなアプローチの仕方を知ることができるので、自分自身の成長にもなると思っています。私自身、バリバリ開発をやりたくてアカツキに入りました。ですから、CTOという立場ではありますが、技術的に成長できるチャンスは大切にしていきたいと考えているんです。
自社開発のゲームはすべてのコードに目を通しているという
3. 同じ思いの仲間に囲まれていることを実感できた
―成長といえば、社内勉強会が活発だとお聞きしました。どのようなことをされているのでしょうか。
田中氏:私が主催しているのはRSpecを活用したテストコードの勉強会です。これ以外には、トム・スチュアートの『Understanding Computation』という本の輪読会や、Unityを使って何か面白いものを作ってみようというUnity会も開催されています。
Unity会では、エンジニアだけでなく、ディレクターやデザイナーがC#を勉強してゲームを作り、遊んでいます。これはなかなかすごいことです(笑)。
私もそうですが、プログラミングが好きな人は、潜在的にはつねに勉強したいと思っているんです。それをうまく引き出すのもCTOの仕事だと思っていますし、実際、一押ししただけでこうして実現してしまうんですね。もちろんこれは、アカツキの社風があってこそだと言えます。
―社風といえば、アカツキには「アカツキ流開発」というものがあるそうですね。
田中氏:はい。そのなかに「ワクワクして働く!」というものがあります。製品やサービスを世に送り出す際にいちばん重要なのは、まず自分たちが楽しむことだという考えですね。私がアジャイル的な手法や勉強会、情報共有といったことを重視しているのも、それがあるからなんです。
私は、「自己組織的チーム」から良いものが生まれると考えています。それは、一人の人間がその裁量の中でアイデアを考えるということではなく、異質な者同士が、問題意識や目的を共有し、それぞれが影響し合って知恵を出し合い、ひとつの組織として意思決定や行動ができるようなチームのことです。
自己組織的チームであり続けることで一人ひとりがモチベーション高く働けると思いますし、モチベーションの高い人たちでないと、この様なチームを作り出すことは出来ないと思います。 そんな考え方を一言でいうと、「ワクワクして働く」という表現になるかなと思っています。
―「アカツキ流開発」について、もう少し詳しく教えてください。これは何か、バックグラウンドのようなものがあるのでしょうか。
田中氏:「アカツキ流開発」は社内のエンジニアが持つ開発理念の共通項をまとめたものですが、その根底にはハッカー的文化があると思います。
ハッカー用語集をまとめた『ジャーゴンファイル』というWebコンテンツの編集者、エリック・レイモンドが、「ハッカーになろう」というテキストをネット上にアップしています。このなかに「ハッカー的心構え」というものがあります(以下に引用)。
1.この世界は解決を待っている魅力的な問題でいっぱいだ
2.同じ問題を二度解くような無駄はいやだ
3.退屈と単純作業は悪
4.自由は善
5.心構えは技能の代用にはならない
社内のエンジニアに開発理念について意見を求めると、自然とこれに近いものが集まってきたんですね。
私にとって「アカツキ流開発」は、同じ方向を向いた仲間たちに囲まれているということを、つねに実感させてくれる大切な存在です。
「アカツキ流開発」は、「ハッカー的心構え」をベースに仲間たちの思いが結集して生まれた
4. 最高の開発をするために何ができるのかを考え続けたい
―採用に際しては、「愛を語れるエンジニア」を探されているというお話をお聞きしましたが、それと関連しそうな話ですね。
田中氏:「愛」などというと少し怪しい印象があるかもしれませんが(笑)、私は愛というのはポジティブな情熱のことだと思っています。情熱の対象は、プロダクトでも、コードでも、人でも、会社でも、何でもいいんです。ただ、情熱の総量が多い人の方が成長できるのは間違いないと思います。
―ちなみに、田中さんの情熱は今、何に向いているのでしょう。
田中氏:CTOという役割をいただいてからは、チームとしてどうすれば最高の開発ができるかという点を考え続けています。
これを実現するにはメンバー全員の自己組織化が重要ですが、個人でもチームでも、自己変革は簡単なことではありません。私自身、これからも考え続けますが、会社全体でも考え続ける必要があると思っています。
―最後に、田中さんは今後、どんなCTOになっていきたいと考えていらっしゃいますか。
田中氏:実は、肩書きにはあまりこだわりはありません。しかし、CTOになったことで、決裁権を持つことができたり、エンジニアの考えを把握できるようになったり、立場上、自分の考えを体系立てて伝える習慣がついたりと、いいこともたくさんあります。
自分が自由にやりたいことをやるためには自分の力をつけないといけないし、何かを達成するためには人を動かすことも必要です。最近はようやくそうした考え方ができるようになってきました。これからは経営にも積極的にコミットしていきたいですね。
肩書きにはこだわりがないと言いつつ、今後は経営にもコミットしていきたいと話す田中氏