「CTOの職務経歴書」シリーズは、レバレジーズのアナリスト兼営業マンがインタビュー取材を通して注目企業のCTOに迫る企画です。
こんにちは。レバテック営業の町野です。
普段エンジニアの方々へインタビューしているのに、いざ社内企画で自分が取材されると決まった瞬間緊張で膝が震える今日この頃です。
さて今回は、金融・経済に特化した情報サイトZUU onlineを運営する株式会社ZUUのCTO 後藤正樹氏へのインタビューをお届けします。
株式会社ZUUとは? 2013年設立。代表取締役社長兼CEO 冨田 和成氏。 「教育x金融xIT」を軸に、金融アドバイザー、富裕層顧客の両サイドを支援する事業を展開。 2014年に4名のエンジェル投資家から1億の調達を受けるなど、数々の話題を生む注目ベンチャー。 http://zuu.co.jp/
東京大学大学院で物理を専攻、元大手予備校講師、未踏スーパークリエータ認定、そして指揮者の顔を持つなど非常にユニークな経歴を持つCTO後藤氏。
ZUU参画の経緯とは?
一緒に働きたいと思うエンジニアの共通点とは?
ぜひご覧ください。
- 1. CTOのきっかけは「未踏スーパークリエータ」
- 2. 顧問の夏野氏、代表冨田氏との出会いからZUU参画へ
- 3. CTOは2つのタイプに分かれる
- 4. 後藤流のマネジメントは「下から支える」
- 5. 「0から1」を作る人であり続けたい
1. CTOのきっかけは「未踏スーパークリエータ」
-本日はよろしくお願いします。
後藤氏:よろしくお願いします。
-早速なのですが、後藤さんがエンジニアになったきっかけ、さらにはCTOになった経緯について、お話を聞かせてください。
後藤氏:実は僕、元々大学院で物理系の勉強をしていたんです。
-情報系ではなく?
後藤氏:はい。ただ、うちの研究室の人たちには割と起業家が多くてですね。自然とベンチャーだとかプログラミングだとかITに興味を持つようになりました。
-周りのメンバーの影響だったのですね。
後藤氏:あと、うちの研究室のほぼ全員が「未踏スーパークリエータ」に認定されていまして。「僕もいずれは獲らないと恥ずかしいな」って、プログラミングに興味を持ち始めたというのもあります。
-「未踏スーパークリエータ」について、詳しく聞かせてください。
後藤氏:未踏スーパークリエータというのは、独立行政法人情報処理推進機構、IPAが実施している認定制度です。未踏スーパークリエータへの道は、IT業界で未だ誰も踏み入れていない未踏の領域について個人が企画を行い、その内容をまとめたものをIPAに提出するところから始まります。集められた企画のうち、採択されるのは年間大体10件ほどです。採択された企画については、国からお金をもらいながら1年間かけて開発が進められていきます。
そして、1年間かけて作られた成果物のうち、より特化しているものにのみ「未踏スーパークリエータ」という称号が与えられます。
-現在は後藤さんも未踏スーパークリエータの称号をお持ちですよね?
後藤氏:はい。ただ、僕が未踏スーパークリエータになったのは、大学院を卒業してからのことです。実は僕、ITの他に教育業界にもすごく興味があって。大学院時代に代ゼミの物理講師として働いていたんです。で、そのときに感じたのが「大人数を相手に行う授業だとインタラクティブがほとんどない」ということ。これをどう解決するかを考えたときに思いついたのがITの介入です。「ITを取り入れることで、もっとコミュニケーションが活性化されるのではないか?」と。
その想いを形にするため大学院卒業後、まずはグループウェアを作っているサイボウズに就職しました。なぜサイボウズを選んだかというと「グループウェアの会社で働きながら、ITとコミュニケーションについて色々と学ぼう」と考えたからです。サイボウズでプログラミングの修行をしたあと、今度は自分で教育界のベンチャーに参画。そこからは「教育×IT」みたいな事をずっとやってましたね。
-では、未踏も「教育×IT」の一貫で?
後藤氏:そうです。例えば、文科省が2020年までに小中学生全員にiPadみたいなタブレットを配って授業を行えるよう導入を進めていますよね?まさにそういったネタで未踏に応募しました。
-その企画が採用されて見事、未踏スーパークリエータに。
後藤氏:代ゼミでの講師経験が未踏のきっかけでしたね。ちなみに「CTOにどうやってなったか?」という経緯の部分ですけど、これについては最初からCTOを目指したというよりは「未踏スーパークリエータを取れたからCTOの職種になれた」という感じです。
-未踏がきっかけだったのですね。ちなみにベストティーチャーを立ち上げられたのは、そのあとですか?
ベストティーチャーはちょうど未踏が終わって、スーパークリエータを取った年に立ち上げました。ある知り合いを介して紹介された人と一緒に。
-未踏で作った学習システムに関する会社ではなかったのですね。
後藤氏:そうですね。ベストティーチャーを立ち上げたのは2010年とか2011年くらいなんですけど、まだそのときは、未踏で作った学習システムは時期的に早すぎて・・・。会社を作ってもうまくいかないだろうと思いました。そこで、その時期に合った「オンライン英会話」という新しい仕組みを、ベストティーチャーで作ることにしたんです。
-なるほど。ベストティーチャーでCTOだったときはどんな役割をされていたのですか?
後藤氏:そうですね、ベストティーチャーにはCEOの社長がいるんですけど、エンジニアでないためアイデアをどのようにITで実現するかということを考えていました。なので、プロトタイプを作っては壊し、またユーザーヒアリングを多く重ねるなど、とにかく色んなことをしていました。基本的には、自身でコードを書きながら、今まで自分がやっていた教育分野での想いを形にした感じでしたね。
2. 顧問の夏野氏、代表冨田氏との出会いからZUU参画へ
-次に、ZUUに参画した経緯についてお話をお伺いしてもよろしいですか?
後藤氏:きっかけはまず、夏野さんとの出会いでした。
-ZUUの顧問をされている夏野剛さんですね。
後藤氏:はい。夏野さんとの出会いは未踏時代に遡ります。未踏って、1人につき1人のメンターがつくのですが、僕のメンターをしてくださったのが夏野さんでした。今も「ビジネスの師匠」として定期的にお話させていただいてます。
-夏野さんから学んだり影響を受けたことって、どんなことですか?
後藤氏:「どういう風にサービス設計をすれば、ユーザが楽しんで使ってくれるようなものができるか」というところはだいぶ学びましたね。もちろん僕もそういう意識をもって作ってはいるんですが、どうしても作る立場だと色んな機能を加えてしまいがちで…。夏野さんからは第三者視点で開発することの大切さを学ばせていただきました。そして、夏野さんの発想力の凄さにはいつも驚くばかりです。
-では次に、ZUUの代表である冨田さんとの出会いについて教えてください。
後藤氏:出会いは、やはり未踏なんですよ。未踏の最終成果報告会か何かで僕が発表する席に、冨田さんも来られていて・・。そのときの僕の発表に興味をもってくれたみたいです。それからちょこちょこ交流があったんですけど、今年になって改めて「開発の人材が足りないので、来て欲しい」と声をかけられて・・・。そこから参加する形となりました。
-ZUUは金融企業をターゲットとしたビジネスを展開されていますよね?
後藤氏:そうですね。ベストティーチャーが「教育×IT」だったのに対し、ZUUは「教育×金融×IT」って感じですかね。基本的に僕のモチベーションって教育とITなんですけど、金融もやはり学ばないといけないと思うんですね。経済事情を知らないと、まじめに生きていても結局損をしてしまうことになりますから。なので、そういった教育をちゃんとできるようになりたいっていうのはありました。
-なるほど。そういった考え方を冨田さんもお持ちで、一緒にやっていこうと。
後藤氏:そうですね。元々彼も高校の教員免許か何かを持っていまして。昔、教育系の会社を興したいということで話したこともあったんですよ。今は金融企業をターゲットとしたビジネスを展開していますけど、コアにあるのは教育ですね。あと、声をかけてもらったタイミングが良かったっていうのもありますね。というのも、ちょうど僕がベストティーチャー辞めて自分で会社を興そうとしている時だったので。
-起業されようとしていたのですね。
後藤氏:実は僕、今自分で会社を作っているんです。さっきお話した未踏で作ったタブレットの会社なんですけどね。今、結構公立の小・中学校でタブレットを導入する機会が増えてきていて「ようやく時期が来た」っていうのがありまして、それで会社を作りました。
なんですが、いわゆる公立の教育ってマネタイズするのにすごく時間がかかるんですね。なので、作ったとはいえまだまだマネタイズしないので「じゃあ一緒にやりましょう」って感じで、ZUUと自分の会社と並行してやってます。
-ZUUさんの教育への想いって、どこに繋がるのでしょう。
後藤氏:そうですね。ZUUとしては「金融格差をなくしていきたい」という想いがあります。そして、そのためには、みなさんに世の中に対して興味を持っていただく必要があると考えています。例えば、ある企業の株を買ったとしましょう。すると、その企業のニュースが気になって自然とチェックするようになりますよね?で、そこから「実はこういうことが世の中の仕組みなんだ」って分かったりする。株に限らず、証券であってもFXであってもそうです。「世界を身近に感じるために金融って良い道具だよね」という風に僕は捉えています。そして、そこの部分でビジネスチャンスができたら良いなっていう風に思っています。
3. CTOは2つのタイプに分かれる
-ZUUではCTOとして、具体的にどんなことをされているんですか?
後藤氏:マネジメントがメインですね。ベストティーチャーの時はコードを書くのとマネジメントを半分ずつくらいの割合でやってたんですけど、ZUUでは自分の会社を経営していることもあり約9割がマネジメントです。
-役割の違いに戸惑われることはありませんか?
後藤氏:実は、マネジメント中心の今の方がやりやすいです。僕は「小学生からプログラム書いてました」とか「言語自体を書いてました」とか、そういったタイプのプログラマじゃないんです。どちらかというと知識を組み合わせて何か新しい物を作ることが好きなので、プログラミングそのものよりも、マネジメントや企画の方が得意だったりします。コードに初めて触れたのも大学院からと比較的遅いですし。
CTOって2つのタイプに分けられると思うんですね。
1つは、プログラムを書くこと自体に楽しみを見出しているタイプ。もう1つは、プログラムを書いたその先にある未来が楽しみなタイプ。僕は、完全に後者のタイプです。だから、技術寄りのCTOタイプではないんですよね。
-CTOというと「超」技術者というイメージがありますが、後藤さんはマネジメントや企画に強みをもつタイプのCTOなんですね。では、プログラミングはあくまで「未来をつくるための手段」としてやっているイメージでしょうか。
そうですね。僕の場合、やりたいアイデアがたくさんあるのですが、いわゆるハッカーではないのでアイデアのスピードに自分のスキルが追いつかないんです。であれば、マネジメントしてみんなで協力しながら色んなものを作っていったほうが面白いのではないかと。
-手が追いつかないくらいアイデアがどんどん出てくる。
後藤氏:例えば、車を作るとなったら、100人200人の手が必要になると思うんです。でも、ITなら2~3人のチームで大きなサービスを作り出すことができます。なので、そういったことを色んなチームでやっていきたいと思っています。
4. 後藤流のマネジメントは「下から支える」
-今までいろんな方とお仕事されてきたかと思うんですけど「この人と一緒に仕事したいな」と思う人の共通点って何かありますか?
後藤氏:遠慮しない人ですかね。ZUUの場合、役員の方たちと夜中の23時からスカイプミーティングをやるんですよ。日中は皆さん忙しいので…。で、例えばこの間はクリスマスでしたが、クリスマスの夜って普通だったらみなさん遠慮するじゃないですか?「今日ミーティング入れるのは、さすがにやめておこう」と。でも、そんな遠慮はなくガンガンくるんです。「あ~すごいな、僕だったらできないな」って思いますね。
-確かに、ちょっと気が引けますよね。
でも、そういう遠慮のないところがZUUでは大事なんですよね。遠慮せず言うべきことを言う、やるべきことをやるっていうのはすごいなと思います。
-今一緒に働かれているエンジニアの方たちも、やはり遠慮せずガンガン来る方が多いですか?
後藤:そうですね。メンバーの中にはインドから来た人とか沖縄からリモートでやってる人もいてそれぞれの文化もあると思うんですが、東京のエンジニアより自己主張はあるかなと。「嫌なものは嫌」とちゃんとみんな言いますしね。
-自己主張のできる方が良いと?
後藤:そうですね。やっぱり、自分のやりたいことを持っている方でないとベンチャーって難しいと思うんですよね。あと、僕のマネジメントのやり方って、いつも僕が立場的にだいたい下になるんですよ。「やれ」っていうより「やってください」みたいな。
-引っ張るというより「支えるCTO」というイメージですね。
なので、ガンガン来てくれたほうがありがたいし、なんなら自分を困らせるくらいの方がいいなと思いますね。
-ちなみにZUUで働くエンジニアは、みなさん金融に詳しいのでしょうか?
いえ、はじめから金融知識をもっているプログラマは少ないんですよ。身の回りのお金回りに興味があっても「国の経済・金融状況を毎日チェックしている」みたいな大きな規模での金融に興味がある人ってやはり少なくて。なので、金融の部分についてはZUUにきてから勉強してもらっています。本を読んでもらったりだとか、レクチャーをしながら。
5. 「0から1」を作る人であり続けたい
-後藤さんはご自身の今後をどう考えていますか。
後藤氏:教育とITに興味があることは前にお話したとおりですが、もう一つ、音楽にもすごく興味があって…。実は僕、指揮者としての活動も行っているんです。3ヶ月に1回ほど沖縄のプロオーケストラの指揮をしたりだとか、また、土日には東京のアマチュアオーケストラの指揮をしたりとか。
-指揮者ですか!
後藤:なので、教育とIT、そして音楽の3つが僕の中での柱なんです。で、今までは教育なら代ゼミで講師やって、ITはプログラミングをやって、音楽は指揮をやってって感じで、それぞれ別でやってたんですけど、今後はこの3つをつなぐようなことをやりたいなと思っています。
あと、なんでしょう。無から有を作り出すことが好きなので、今後もそういったことをやっていきたいなと考えています。「0から1を作る」とでも言いましょうか。
音楽もそうなんですけど、0から1の部分って論理だけではない、アート的な要素が強いと思うんですね。1から10とか、10から1000を作るってなると、それは運用的なことになってくると思うので。で、自分の場合、0から1のアート的な部分に一番興味があって、そこを今後もやっていきたいなと考えています。ここが一番自信もありますしね。
-後藤さん、本日はどうもありがとうございました!
ZUU、自身の会社、指揮者と精力的に活動をこなす後藤氏。 技術を通してアイデアを実現させていく姿はまさに「アーティスト」の姿でした!
今後のZUU、後藤氏の活躍に目が離せません!