宮川佳祐(みやがわ・けいすけ)
大学3年生のとき、PCの知識を身に付けるためにプログラミングのコミュニティに参加。卒業後は面白法人カヤックに就職し、受託案件チームのサーバーサイドエンジニアとして勤務する。2014年6月に会社の元同僚であった中畑虎也氏、塚田拓実氏とともに育成ゲーム「生きろ!マンボウ!~3億匹の仲間はみな死んだ」をリリース。24歳で株式会社SELECT BUTTONを設立し、CTOに就任した。
育成ゲームなのに登場するキャラクターがすぐに死んでしまう…。そんな一風変わった設定が話題となり、600万ダウンロードを超えるヒットとなった「生きろ!マンボウ」。
同ゲームでエンジニアを務めたのが宮川佳祐氏だ。宮川氏は、同ゲームの共同開発者である中畑虎也氏(現CEO)、塚田拓実氏(現CCO)とともに株式会社SELECT BUTTONを起業。現在はCTOを務める。
本インタビューでは、若くして起業を決断した理由や開発に対する思い、そして自身がこれからどのような成長を遂げていきたいかなど、詳しく話を聞いた。
- 1. 「生きろ!マンボウ」はコワーキングスペースで生まれた
- 2. メンバーひとりひとりが、プロフェッショナルの意識を持って担当業務に取り組む
- 3. “自分たちが納得いくゲームを作る”というスタンスは今後も変わらない
- 4. 次の世代を育てることが、自分がしてもらったことへの恩返しになる
1. 「生きろ!マンボウ」はコワーキングスペースで生まれた
―もともとプログラミングを始めたのはいつ頃で、どういったきっかけがあったのでしょう。
宮川氏:プログラミングの勉強を始めたのは2011年1月、大学3年生の頃です。僕は大学では物理工学を専攻していたのですが、就職のことを考えたとき、今の時代はどこで働くにしてもある程度はコンピュータの知識が必要だろうと思って。それで、PCについて学ぶならプログラミングをやってみたいと思ったのがきっかけです。
ちょうどその時期に、地元の京都で「CAMPHOR-」というプログラミングのコミュニティが立ち上がり、僕も参加させてもらうことになりました。独学ではわからなくなったらそれまでですが、コミュニティに所属していれば何でも相談できます。プログラミングそのものを教えてもらうだけでなく、エンジニアとしてのステップアップの仕方についてもアドバイスをもらえたのが大きかったですね。
―就職活動はいかがでしたか。
宮川氏:実はインターン先に就職したので、就職活動はしていないんです。
インターン先を決めるのにも紆余曲折がありました。まず、語学力をつけたかったので大学4年で1年間休学して、海外でのインターンを計画していたんです。ところが、ちょうどその年に東日本大震災が起きて、交換留学するはずだったドイツの学生が日本に来られなくなったんです。それで、ドイツでのインターンを断念せざるを得なくなってしまいました。
代わりに東欧のマケドニア共和国でインターンをしたのですが、期間が1ヶ月半と短く、せっかく1年休学したのに、体が空いてしまったんですね。それで、どうしようと思っていたときに出会ったのが、面白法人カヤックです。
カヤックは鎌倉が本社ですが、たまたま僕が休学した頃に京都支社を立ち上げていました。Twitterで「CAMPHOR-」のことを知って興味を持ってくれたようで、事情を話したら、マケドニアから帰国したあとでインターンをさせていただけることになったんです。一時的なインターンのつもりでしたが、結局、そのまま内定をもらって就職することになりました。
パソコンの知識を身に付けたくて参加したコミュニティがプログラミングの原点だった
―カヤックではどのような仕事をされていましたか。
宮川氏:受託案件チームに配属されて、主にサーバーサイドエンジニアとして働いていました。カヤックにはサーバーサイドやインフラの凄腕の人たちがいて、みっちり鍛えていただけたのは僕にとって大きな財産ですね。今、社内ツールや管理画面などを自作できているのは、この頃の蓄積があるからです。
―SELECT BUTTONを起業するメンバー(中畑虎也氏、塚田拓実氏)と出会ったのもカヤックだったそうですね。
はい。僕は一度転職したのですが2人とは連絡を取り合っていて、土日や仕事終わりの平日の夜に、コワーキングスペースに集まってゲームを作っていました。「生きろ!マンボウ」の着想が生まれたのもそのときです。
2. メンバーひとりひとりが、プロフェッショナルの意識を持って担当業務に取り組む
―「生きろ!マンボウ」はどのような点がヒットしたのだと思いますか。
宮川氏:やはり「人に言いたくなる」ところではないでしょうか。このゲームは育成ゲームであるにもかかわらず、マンボウがすぐに死んでしまうんです。水温が低くて死ぬとか、海面でジャンプしたらその衝撃で死ぬとか、かなりしょうもない理由であっさり死にます(笑)。
実は、リリース当初はダウンロード数の伸びがいまひとつだったのですが、Twitterで地道にプロモーションをしているうちに、口コミで徐々に広がってダウンロード数も増えていきました。これは、マンボウというキャラクターやゆるい設定が口コミでの拡散に向いていたからだと思います。
「生きろ!マンボウ」の魅力は、つい人に話したくなるところ。それが口コミ人気につながった
―「生きろ!マンボウ」の使用言語は何でしょう。コードはすべて宮川さんが書かれているのですか。
宮川氏: iOS版はObjective-Cで、Android版がC++とJavaですね。今はC++ですべてできる環境にしています。
コードはすべて僕が書いています。3人の役割分担はかなりはっきりと分かれていて、ディレクターの中畑がアイデアやコピー、ゲームバランスなど、塚田がデザインやグラフィック、僕がコードを担当しています。もちろん、内容については全員で意見を出し合っていますが、各自の担当作業については、それぞれがプロフェッショナルとして責任を持ってやっています。
―これまでのリリース展開はどのようになっていますか。
宮川氏:2014年の8月にAndroid版、その後、英語版、韓国語版、台湾語版をリリースしています。海外版を出したことで「生きろ!マンボウ」のアップデートはいったん区切りをつけて、新作に取り組んでいます。この11月には最新ゲーム「ハントクック-うさぎにカラス!?ジビエ料理のレストラン-」をリリースしました。
3. “自分たちが納得いくゲームを作る”というスタンスは今後も変わらない
―起業して、現在はCTOという立場になられていますが、会社員時代と比べて、仕事をするうえで変化はありましたか。
宮川氏:「面白いゲームを世に送り出したい」という基本的な考え方は変わっていませんが、働き方や考え方は大きく変わりました。会社員時代は、ゲームは土日などの休日に趣味で作るものでしたが、今は仕事として作っているので、当然ながら意識も変わってきますよね。
今、一番強く意識しているのは、自分たちがプレイして面白いもの、納得できるものを作る努力を怠らないということですね。実は、「生きろ!マンボウ」も完成間近になって大幅に作り直しています。
当初から、マンボウのいろんな死因を集めるゲーム、という点は同じだったのですが、死んだときのメリットが少なかったんですね。一度死んでしまうと、もうやる気がなくなっちゃうんです。そこで、死んでも生き返って強くなるという設定に作り替えました。これなら死んでも悲しくない。むしろ、嬉しくなる(笑)。
3人ともゲームが好きなので、自分たちが納得できるゲームを出していくというスタンスはこれからも変わらないと思います。
―時間の管理についてはいかがでしょう。会社員時代よりも自由になる反面、自己管理が重要になると思いますが。
宮川氏:プログラミングというのは時間をかければいいというものではないので、自分がいかにいい状態でいられるかは考えるようになりましたね。基本的に土日はしっかり休みますし、仕事中でも眠くなったら軽く仮眠をとります。自分が最大のパフォーマンスを出すために、オンオフの切り替えを大切にしています。
―新しい技術のインプットや情報収集はどのようにしていらっしゃいますか。
宮川氏:気になるものがあれば、土日に本を読むなどの時間は作るようにしています。ただ、自分自身がまだ経験不足の面もあるので、無理して新しいことに手を出すよりは、C++をもっと極めたいという気持ちが今は強いですね。
僕は典型的な独学タイプなので、何かわからないことがあればネットを使ってひたすら調べます。Webサイトだと、スタック・オーバーフローに載っている質問や回答を参考にすることが多いですね。
それから、ゲーム業界の動向や最新情報は海外の方が圧倒的に情報量が多いので、なるべく英語の記事を読むようにしています。これは、カヤックでインターンをしている頃からずっと続けていることです。旬の情報に素早くアクセスできることも多いので、英語検索を意識してみるのはおすすめです。
4. 次の世代を育てることが、自分がしてもらったことへの恩返しになる
―SELECT BUTTONの課題はどんな点でしょうか。
宮川氏:3人で立ち上げた会社なので、いくつものタスクを同時進行するだけの体力がないことです。「生きろ!マンボウ」のアップデートをしていたときは、どうしてもそれにかかりきりになってしまいます。一方、新作ゲームにとりかかったら、「生きろ!マンボウ」はいったん区切りをつけざるを得ない。
ただ、だからといって勢いだけで人を増やそうという考えはないんです。人を増やすにしても、次のゲームが当たってしっかり地盤を整えてからになると思います。会社の規模を大きくするには、先を見極めたうえで冷静に判断する必要がありますし、結果的にはその方が安定的な成長を見込めると考えています。
「人を増やすにしてもしっかりと基盤が整ってから」と語る宮川氏。冷静な判断を下す姿が印象的だった
―宮川さん個人としては、これからどのように成長していきたいですか。
宮川氏:これからの自分について考えたとき、大きく分けて2つの軸があります。1つは、自分がやりたいと思うことを実現するための知識をつけていくという軸。そしてもう1つが、僕の次の世代に自分の知識やノウハウを伝えていくという軸です。
前者については、自分が何かやりたいと思ったときに、知識がなくて実現できないというのがもったいないと思うんです。最近は、モノのインターネットと呼ばれるIoTが注目されていますよね。ネットやIT単体ではなく、何かと組み合わせることで新しい可能性が生まれるのはとてもスリリングで面白いと思います。
僕自身は大学で物理工学を学んだので、それがいつか生きるかもしれません。ゲームだけに限定せず、いろんな可能性があるんだという意識は持っていたいですね。
後者については、僕が大学時代にプログラミングの手ほどきを受けた経験があり、そういう場があったからこそ今があると思っているんです。だから、当時の自分のような若者がいたら、同じように助けてあげたい。そうやって次の世代のエンジニアを育てることができれば、先ほどの話に出た会社としての成長にもつながってくるのだと思います。
―それでは最後に、宮川さんの後に続く若手エンジニアにメッセージをお願いします。
宮川氏:起業というのは、勢いでうまくいくこともありますが、成功の可能性を高めるために、冷静に先を読む視点は持っていた方がいいと思います。
とはいえ、起業に限らず新しいことに挑戦するときは、大胆な決断も必要ですよね。僕は、自分にライバルがいると仮定して、そのライバルに先を越されたら悔しいかどうかを考えます。もし悔しいと思ったら、それは本当に自分がやりたいことなのだと判断し、思い切って行動するようにしています。
そうやって自分の正直な気持ちと向き合いながら日々の仕事に取り組んでいけば、自分の目指すべき道からそれることは少ないのではないかと思っています。冷静さと大胆さを忘れずにがんばってください。
レバテック営業担当「御所名麻希子」から一言!
日々積み重ねた努力の先に、大きな成功がある!
「普段は慎重に行動しつつも、いざというときは大胆に動く」という宮川さん。大きな決断を成功に導くため、日々の努力の積み重ねを大切にしている姿が印象的でした。
SELECT BUTTON社からリリースされた新作ゲーム「ハントクック-うさぎにカラス!?ジビエ料理のレストラン-」は早速社内でも面白いと話題になっています。みなさんもぜひダウンロードして遊んでみてください!