前回に引き続き、「CTOの職務経歴書」には三和システム株式会社のCTO・阿部順一氏が登場。現在の三和システムに転職し、CTOとして手掛けたこと、自身が考えるCTO・エンジニアのあり方について話を聞いた。
1. 全社員と一対一の面談をし、社内の意識を統一
――三和システムに入社されて、まずはどのようなお仕事を手掛けたのでしょうか?
阿部氏:当時の三和システムは業界における経験値と成長力は高いものの、技術部門についてはベースがまだ弱く、そのためにCTOを探しているという状況でした。
そこで、私に白羽の矢が立ったというわけですが、最初に行ったのは全社員と1対1で面談をすることでした。開発だけでなく導入や保守サポートまで含めると、エンジニアは全社員の9割にものぼるので、まずはコミュニケーションを取ることが一番有効だと思ったんです。
面談を通してメンバーの仕事への意識や取り組み方を把握した上で、人事評価や教育制度の基盤を作り、プロジェクトの管理も徹底していきました。
こうした人事制度の整備については、前の会社で培った経験が役立ちましたね。
また、茨城にベースがあるゴルフ事業をより安定的な経営資産に育てるべく、茨城のオフィスにも毎月足を運び、意識の統一をはかっていきました。
仕組みを整備し、社員と直接会ってコミュニケーションをとることは、社内の士気を上げることにも繋がったように思います。
会社の成長のベースとなるのは、人材。その考えから、エンジニアの採用、評価、教育という人事制度の整備に力を入れたという。
――現在はどのような業務を行っていらっしゃいますか?
阿部氏:日々の業務としては、プロジェクトの監視、管理、事業や施策のリスク管理、収支の数字管理、会計、契約や規約まわりなど、いろんな視点で経営に携わっています。重要プロジェクトに関しては、私が入りこむこともあります。もちろんCTOなので、開発サイドの意思決定や、新しい取り組みなども行っています。
また、今も茨城のオフィスには月2回、必ず出向くようにしています。Slackなどのチャットも活用していますが、直接会って話すことでしか伝わらないものがあると思っています。IT企業にいるからこそ、ダイレクトなコミュニケーションも重視していますね。
――CTOという新たな役職に身を投じ、意識されたことはありますか?
「CTOとして」というより、経営陣の一人という意識のほうが強いですね。技術的な分野での意思決定はCTOとしてのミッションですが、大事なのはいかに会社を成長させるかです。そのために何をやるべきかという視点で、役職にとらわれず仕事に向き合うことを心掛けています。
そして、経営陣として社員とその家族を守らなければなりません。
“攻める”だけでなく、こうした“守り”の姿勢の大切さは、三和システムに来てから強く意識するようになりました。
――では、阿部さんが思うCTOのあり方について教えていただけますか。
阿部氏:CTO像には決まった形はないと思っています。CTOのあり方は会社の数、つまりCTOの数だけ存在するというのが私の考えです。
ただ、経営における開発分野、技術部門の意思決定をする立場として、会社の技術やサービスが将来の利益、お客様の満足度、市場の成長につながっていくかどうか、という視点を持つことが大事かなと思っています。
2. エンジニアに必要なのは成長意欲と顧客志向
――理想とするエンジニア像はありますか?
阿部氏:成長意欲と顧客志向の両方を持ち併せているかどうか、これにつきますね。
とかくエンジニアは「新しい技術を入れれば、満足度が上がるはず」、「面白いものを作れば売れるはず」といった考え方をしがちなところがあります。
けれど、いくら面白いものでも、売れなければ意味がないんです。顧客の視点に立ち、彼らの潜在的欲求に応えるモノでなければ価値はありません。
あくまでも技術は武器に過ぎないんです。大切なのはそれを有効に使って戦い、勝負に勝つこと。単なる“技術オタク”から一歩踏み出し、視野を広く持って自身の可能性を広げられると強いですね。
――その観点から、御社のエンジニア育成のために取り組まれていることはありますか?
阿部氏:たとえば、弊社ではゴルフ事業に携わっているエンジニアには、必ずゴルフをやってもらいます。そうすると「ゴルフなんか興味がない」と言っていたメンバーも、いつの間にかゴルフ大好き人間に変わるんです。自分自身がユーザーになれば顧客の視点を持つことにつながり、システムを作る際の向き合い方も変わってきます。
また、新しい技術に興味を持つためのきっかけとして「テックブログ」を開設し、エンジニアに技術関連のブログを書いてもらっています。ブログを始めてからは、紹介した新しい技術を自社のサービスにどう活かすか、ということをこれまで以上に考えるようになりましたね。そうしないとブログが書けなくて、私に怒られることになりますので(笑)。
人は場所やきっかけを与えられれば変われるし、面白いように成長してくんです。エンジニアに変化や成長の芽が見えるとうれしくなります。CTOをやっていてよかったと思う瞬間です。
――エンジニアチームで合宿にも行かれると伺いました。
阿部氏:毎年、夏に海へ行っています。朝と夜はコードを書きますが、日中は海を存分に堪能するのが恒例です。その際のルールが「携帯を宿に置いていって、完全にオフラインになること」。
このルールを徹底すると、太陽の下にいるのも大嫌いなんて言っていたメンバーが、浜辺に寝転んでいるうちに「海っていいね」「日焼けが気持ちいい」とか言い出すんです(笑)。恐らく、海や自然に心も体も集中できるからでしょう。
「そんなことやって、何の意味があるの」と言う人もいるでしょうが、そこに意味があるかどうかって、やってみないと分からないし、意味を見いだせるかどうかは取り組み方次第。まずはやってみる、という姿勢が大事なんです。
週末も社員とゴルフやフットサルで汗を流し、アクティブに活動している。「IT企業ですが、かなりの“体育会系”ですよ」と笑う。
ちなみに弊社では3ヶ月に1回、東京、茨城のメンバーを集めてゴルフのコンペを実施していますし、フットサルチームもあって週末は私も汗を流しています。
社員同士だけでなく家族ぐるみの行事も盛んで、忘年会では社員の子供が会場を走り回っているのが普通(笑)。この間は茨城の海で地引網体験もしました。みんなでスポーツやイベントに参加するのは、“社員=一緒に生きていく仲間”と考えているからなんです。
仕事上でしかコミュニケーションをとっていないと、相手を理解しようという思いがなかなか生まれません。業務外の交流を重ねていくことで、結束力もより高まってきたと感じています。
3. 日本経済の発展をも見据え、イノベーティブな技術集団を目指す
――最後に、CTOとしてどう成長していきたいか教えてください。
阿部氏:CTOとしての自己成長は、“目的”ではなく“手段”でしかないと思っています。
あくまでも真の目的は自分やメンバーの成長によって、会社や市場を成長させること。ひいては日本経済を成長させることだと考えています。
たとえばゴルフ業界を見ても、高齢化とともに競技人口は年々減少しています。私やメンバーがゴルフをやるのも、市場を盛り上げていく地道な活動のひとつです。
そして、実際の経験を踏まえ、より多くの人たちに「ゴルフを始めよう」と思ってもらえる仕掛けを工夫していく。これが、私たちのミッションだと考えています。
「MRSO」などの医療事業も同じです。予防医療の必要性がようやく認知される時代になって、多くの人に「人間ドックを受けよう」と行動してもらうには、より便利なシステムやサービスの提供が必須です。
予防医療への関心が高まれば健康寿命も伸長し、日本経済の発展にもつながっていきます。
長期的な視点を持って、よりよいサービスを提供できるイノベーティブなエンジニア集団を作ること、これが目下の目標です。
そのためには、やはり「できない」は禁句。どんなハードルも「どうやったらできるのか」をメンバーと共に考え抜き、会社の成長に結びつけていきたいと考えています。
レバテック営業担当「加藤大貴」から一言!
明確な目標を掲げて社員を導く、リーダーシップ力に感銘を受けました!
“CTO=技術部門のトップ”という概念にとらわれず、会社の成長、さらには日本経済全体の発展をも見据え、幅広い業務に取り組まれている阿部氏。社員とのコミュニケーションを重視する考え方も印象的で、社内の士気を高めつつ、“家族”のようにメンバーを大事にしていることが伝わってきました。