「CTOの職務経歴書」シリーズは、レバレジーズのアナリスト兼営業マンがインタビュー取材を通して注目企業のCTOに迫る企画です。
こんにちは。レバテック営業の高橋です!
今回の「CTOの職務経歴書」はファッション通販サイト「ZOZOTOWN」でおなじみ、株式会社スタートトゥデイのCTOで取締役の大蔵峰樹氏にお話を伺いました。
株式会社スタートトゥデイとは? 1998年設立。代表取締役 前澤友作氏。 企業理念に「世界中をカッコよく、世界中に笑顔を。」を掲げ、次々と新しいサービスに挑戦している。 http://www.starttoday.jp/
開発・制作を行なう創造開発本部と物流を担うフルフィルメント本部を束ねる大蔵氏。大規模ECサイトを支えるCTOの経歴、理想のエンジニア像を語っていただきました。
1. 学生時代、Webエンジニアになる気は微塵もなかった
-本日はよろしくお願いします!では早速なのですが、大蔵さんがプログラミングに初めて触られたのはいつごろなのでしょうか?
大蔵氏:高校1年くらいですね。親が建築設計をやっていて、中学校の頃に親がパソコンを買ってCADを始めたので、それでパソコンに興味を持ちました。
ロボットを作りたくて工業高等専門学校を受験したのですが、いわゆるロボットのハードウェア系を作る機械系学科に行くか、制御ソフトウエアを作るための情報系学科にするか迷ったんです。高専は5年間在籍するのですが、ちょうどその頃はコンピューター関係が伸びるだろうなと思ってソフトウェアを選びました。それが1994年です。いわゆる家庭用パソコンが購入できる価格帯になった頃ですね。NECのPC9801とか。
-当時は制御系に進まれていた大蔵さんですが、Webエンジニアは選択肢にはなかったのですか?
大蔵氏:微塵もなかったですね。正確に言うとその頃はまだWebはありませんでした。一般的にインターネットが無い時代でパソコン通信ってわかりますか?モデムでピーヒャラヒャラーって。ホストコンピューターがあってそこに電話回線が10回線とか20回線繋がっていて、モデム経由でアクセスすると掲示板のようなものが使える程度で、メールという概念も無かったと思います。
僕が高専に入ったぐらいから、ようやく大学はほぼインターネットに繋がるようになったんです。まだISDNを使ったモデムのようなものが出た頃で、大学と一部の会社ぐらいが常時接続していたと思います。いわゆるプロバイダーというのが出だした頃で個人がインターネットを使うのはまだまだでした。ブラウザも、今のFirefoxの前身であるNetscape1.0あたりから使っていましたね。
-確かに、そのような環境だとWebエンジニアになろうとは考えにくいですよね。
大蔵氏:そうですね。そもそもカラーモニターも高価で白黒が多かったぐらいです。でもそこから日進月歩の勢いで進んでいって、97年くらいにいわゆるインターネットカフェが出始めたんですよ。今のような漫画喫茶やインターネットカフェとは違って、ただ机にパソコンがバーンって置いてある程度でした。
-30分で何円みたいな。
大蔵氏:そうです。家でインターネットに繋いでWebをゆっくり見るというのは、凄く高いイメージでした。みんなそこに行ってWebを見たりメールしたりしていましたね。
2. 代表の前澤氏は「最初のお客様」だった
-ではそのような背景の中、どのようにWebサービスの方に移っていかれたのですか?
大蔵氏:大学院生のときに、ホームページ制作会社とかソフトウェア開発会社のアルバイトをしていたんですね。で、その頃友達2人から会社をやろうと誘われました。当時すでに東京ではITバブルが終わっていましたが、地方はまだ少しポコポコっと最後の残りがあった頃でした。ただ会社を作るには、当時最低でも300万円は必要だったんですね。そこでバイトをしていた会社の社長さんから資金調達して始めたというのが経緯です。docomoがiモードのサービスを開始した翌年に会社を作りました。
-その会社がシャフトさんですね。当時はどのようなプロダクトを作られてたんですか?
大蔵氏:その時は携帯サイトを作るためのツールです。J-スカイとかわかりますかね?
-ジェースカイ・・・?
大蔵氏:ジェネレーションギャップですね(笑)J-PHONEは分かりますか?
-J-PHONE!分かります!
大蔵氏:その当時、携帯電話のサイトを作るのはものすごく面倒でした。すでに出ているツールは高価格なものしかなかったところ、かなり低価格で販売しました。実は元々売るつもりはなく、自分達が携帯サイトの開発を受託するための道具だったんですよ。で、どうせだからと言って売り始めました。そのツールを買ってくれた第一号のお客様がうちの社長でした。スタートトゥデイは最初、海外のレコードを輸入して販売する事業をしていたのですが、その携帯サイトを社長が自分で作ったんです。
-代表の前澤友作さんですね。
大蔵氏:そのあたりから知り合いになってオフィスにお邪魔するようになりました。その後にアパレル事業をやり始めて、EPROZEっていうオリジナルのセレクトショップのサイトが一番最初にできたんですが、その携帯サイトを開発するところから実際の取引が始まったって感じですね。それが2000年くらいの話です。
2003年にZOZOTOWNをやりたいという相談をもらって。それまでは複数のアパレルショップを別のURLで運営していたのですが、ショップが増えてきたのでまとめてモールにしたいと。
-それが今のZOZOTOWNですね。
大蔵氏:はい。大失敗しつつ2004年の12月にZOZOTOWNが正式にオープンして、僕がスタートトゥデイに入ったのが2005年の4月です。
-当時シャフトの代表も務めていた中で前澤さんに誘われて、迷いはありませんでしたか?
大蔵氏:すごく悩んだってことはなかったですね。これも経緯があるんですが、僕はZOZOTOWNがまだドタバタしていたのでスタートトゥデイに常駐していて、実質シャフトの社長の役割はやっていませんでした。ZOZOTOWNを安定させるのにまだまだ時間もかかりそうだったので、「社長を交代してもいいかな」と思って辞めました。で、前澤に「社長辞めたんならうちに来れば」と誘われて入社したという流れです。すでに常駐していたので、あんまり会社を移るっていう感覚はなかったですね。席を右から左に「よいしょ」って移動したみたいな。
-仕事内容はあまり変わらず。
大蔵さん:全く一緒(笑)
-タイミングも重なって、スムーズに移られたんですね。
大蔵氏:そうですね。それで4月に入社したんですけど、当時はうちの会社でパソコンやITが分かる人が1人もいなかったんですね、社長以外。だから、ZOZOTOWNを作ったものの運用できる人がいなかった。そこに入っていった感じです。今もそうですが、うちの会社はIT会社に見えますけど全然IT会社じゃないので。どちらかといえばうちはアパレル会社ですね。
3. 教科書に載っているような大失敗から、サービスを成長させた4要素とは
-そういえば、先ほどZOZOTOWNリリースの際に大失敗をしたとおっしゃってましたが・・・どのような失敗だったのでしょうか。
大蔵氏:ある程度の大きな開発になると、開発者と進行管理をする人って分けないと大概失敗します。ZOZOTOWNの開発は当初僕を含めて2人で開発していたので、前澤からの要望も聞きつつ、全体の進行管理もしつつ、自分でも開発しつつという風に全部やっていました。そんな感じになると、残された期間で開発ができるのかを客観的に判断できなくなっちゃうんです。で、オープン当日に蓋を開けてみたら全然ダメだったっていう話です。もうこれ、ソフトウェア開発の教科書に失敗例の項目があれば絶対書いてあるぐらいです。それで前の会社のスタッフや知り合いに助けてもらって、なんとか3、4ヶ月でリカバリーしてやっとオープンまで漕ぎ着けました。
-そこからすごい勢いで軌道に乗られて。
大蔵氏:色んな要素がタイミングよく、しかもバランスよく回っていったのだと思います。前澤がよく言うのですがECには4つの要素があって、まず売る商品、次に商品を売るためのサイト、お客様に届けるための物流、そして最後にマーケティング。集客ですね。商品、サイト、物流、集客の4つがうまく回ったってことです。
ダメなパターンだと、サイトを作りました、何が売れるかな?って適当に仕入れても商品力の無いものは売れません。売れないので集客をしましょうとなりますが、商品に魅力がないのでお客様がつかない。最後の手段で安売りをやってドンッと注文が入ったら今度は物流がダメ的な。
-この4要素に気づいたきっかけって何かあったのですか?
大蔵氏:気付くとか気付かないじゃなくて、感覚的に全部やってきたんだと思います。もちろん全部僕がやっていたわけじゃないですが。ちょうど当時、裏原宿とか、そういうトレンドが凄く伸びて成熟しきっていたところで、かつインターネットが凄い勢いで浸透しつつありネットでそういったトレンド商品を買えるっていうのが認知されはじめていたタイミングでした。この頃、楽天やAmazonが伸び始めていますよね。
実は当時はかっこいいECサイトというものは無くて、ストリートブランドの人たちは「ネットで売るなんてダサい」、と思っている時代だったんです。
-そうなんですか!今では考えられないですね。
大蔵氏:ネットで洋服を買うとか意味が分からないっていう時代でした。当時のネット通販のイメージだと店舗で売れない洋服やノーブランドの洋服をインターネットで安売りする、みたいな感じだったと思います。
そんな中うちには商品力があった。そしてサイトは失敗しながらも作った。集客はファッション系雑誌への広告以外は基本的なことしかしてなくて、ある程度利益が出てきたタイミングでテレビCMを2年程やったんです。それでかなり認知度が上がったのとクチコミの効果もあって、相乗効果で一気に知名度が広がり集客につながりました。最後は物流の所だったんですけど、それも自分達でなんとかかんとか間に合わせてようやく困らない程度にはなったっていう感じですかね。
1つの分野に捉われることなく活躍する大蔵氏
4. 開発も設計も経理もこなすジェネラリスト
-エンジニアの方でここまで全部把握されてる方ってなかなかいらっしゃらないと思います。そういう考え方って、いつごろから身についた実感がありますか?
大蔵氏:うーん・・・中学生くらいの頃からかな。中学生の時、僕陸上部だったんですけど、三種競技っていうのをやってたんですよ。で、別に短距離で足がめちゃめちゃ速いわけでもないし、マラソンも速いわけでもないし。かといって走り幅跳びとか高飛びが凄くできるわけでもなくまあまあ無難にこなしていたんですよ。人生無難にこなすって・・・なんかあれですけど(笑)「コレだけ凄い!」っていうのはなくて、器用貧乏だったんですね。
エンジニアとしてもそうで、エンジニアっていってもいわゆる開発の人もいればネットワークの人もいれば、設計の人もいれば、SEの人もいる。そういうのを僕は全部やってたんですね。前の会社が小さかったので、最初はみんなの給料支払い計算とか経理もやってたし。なので、特定分野がスペシャリストで絶対誰にも負けないっていう物が無いんですが、気がついたら何でもできるようになっていたというような感じですかね。
-現在は物流関連の事業部も管理されていますよね!まさにジェネラリストですね。
でも、意外とそういう人いないんだなって気付いたのはここ最近です。実は、それまではコンプレックスに感じていました。何かを極めなきゃってずっと焦ってたんですけど。
5. ジェネラリストタイプはトラブル発生時に嗅覚が爆発する
-どういうときに、何でもできるタイプでよかったなと感じますか?
大蔵氏:こういうのが一番発揮されるのはトラブルが起こったときです。何かトラブルが起こると、だいたい「いや自分のところじゃない」「こっちは悪くない」「あっちが悪い」・・・と、たらいまわしでぐるぐるするんですけど、全体的に把握していると感覚的にもうあそこだなってわかる。なんとなくニオイがするんで。普通だったら1日や2日かかるところを、まあ1、2時間で見つけます。「ここだ!」って。
例えばある時、分類的に言うとハードウェアのトラブルだったんですが、解決するのがソフトウェアの解決手法しかないということがありました。それに気付くというのは、特定分野のエンジニアだとなかなか難しいかもしれませんね。
要素分解する「切り分け」っていうのをやるんですが、システムが10個の要素からできあがっていると、一個一個チェックをしていって「ここ関係ない、ここ関係ない」ってどんどん切り分けていくんですよ。で、最後2、3個が残ってくるんですが、この中が怪しいと。あとは現象を見ながら、もうクンクンクンクンってやってく感じですね。
-経験に裏付けられた嗅覚ですね。
6. 「気遣いできる人」が理想のエンジニア像
-ちょっと話は変わりますが、大蔵さんはどんな人がエンジニアに向いていると思いますか?
大蔵氏:えーっと、ちょっとした謎掛けになっちゃうかもわかんないんですけど、気遣いができる人が一番のエンジニアだと思いますね。
-とおっしゃるのは・・・
大蔵氏:アーティストと違って、ある意味でエンジニアって誰でもなれるんですよ。3年やればちゃんとそれなりに会社に寄与できるというか、力になれる。でも、それってオペレーターに近いエンジニアなんですね。
本当の作れるエンジニアっていうのは・・・天性のセンスも必要だし、あと、興味。やりたいっていう興味ももちろん必要。そして、気遣い。できる人ってだいたいすごく器用なんですよ。なんか役割を与えられる前に、今の問題とこれからやるべきことをある程度把握して、かつ自分がこういうことやればいいんだっていうことに気付いていますね。
-スペシャリストとジェネラリストでも、気付けるかっていうところが大事だということですね。
大蔵氏:もうちょっと噛み砕いて言えば、把握能力とか洞察力になるんですかね。そういう人は自分で勉強できるんですよ。先生がいなくても勉強の仕方を知っているので。普通は1から10まで綺麗に教えなきゃいけないところを、把握能力や気付く能力が高い人は、全く未知のことに対しても10のことを6ぐらい説明したらだいたい残り4は自分で今までの経験に基づく推察でやってくれます。それが、できるエンジニアだと思います。ただ、キレイに作れるかどうかっていうのはセンスによるんですけどね。
把握能力は、普通に勉強するだけでは絶対身に付かない。ほぼ持って生まれたものと言ってもいいかもしれないですね。訓練で磨くことはできると思いますけど。僕自身、気遣いとか全然できない方でした。
7. 衝撃的な失敗が、気付く力を磨くきっかけになった
・・・何か結構衝撃的なことがないと、それに気付けないと思うんですよね。
-衝撃的な何か。
大蔵氏:そう。自分にそれが足りないって認識しないと、磨こうと思わない。大きな失敗とか。うーん、気付けなかったことによって人生の何かを失ったとか。
-大蔵さんは、どのような経験があったのでしょうか。
大蔵氏:僕はどっちかっていうと古い体質で。大工の棟梁みたいな。なにも勉強せずに「これ教えて下さい」ってこられたら「自分で勉強してから来い」ってそういう感じだったんです。最初スタートトゥデイに入った頃のことです。
すると若いスタッフはまあ誰もついて来ないわけですよ。で、一度チームをまとめるのに失敗して大分悩んだことがありました。そこからは優しく教える路線に変えましたが、優しくするだけじゃダメなんで、じゃどうするかってなって。色んなことを考えるわけですよ。その中で、気付けるようになったって感じですかね。
-失敗が、気付くきっかけになったのですね。
大蔵氏:一番大きいのはやはり前澤の存在ですね。本当にすごいんですよ。気付きが。細かいことにすぐ気付くんで。今でも「あっ」って思うことがあります。「ああ、なんでそこ気付かなかったんだろう」って。
8. 育てて「気付く力」をつけるのが次の課題
-次に今後の展開についてお話を聞きたいのですが、大蔵さんはスタートトゥデイを支える開発体制をどういう風に展開したいと考えていますか?
大蔵氏:これは目下悩み中ですね。
簡単に言えば、教育をどうするかが課題です。まあもともと「勝手に勉強しろ」ってタイプなのですが、「どうやってシステムに興味を持ってもらうか」というところに悩んでますね。興味があれば勝手に勉強するんで。例えば、スキーでもスノーボードでもサーフィンでもいいんですが、興味があったら自分から練習行きますよね。楽しくなったら土日使って練習に行くとか、朝早く起きて行きますよね。それと一緒で、システムに興味を持てば、まあ会社の仕事もするけど家に帰ってからもやりたくなってくるんですよ。ほんとに面白ければ。
でも、家に帰ったらやっぱり友達と遊んだりとか、他のことがしたくなるわけですよね。こう、起きてる時間それをやりたいって思うぐらいの興味をどうやって持たせるかっていうのがまあ・・・悩み中ですけど、なかなか難しいです。
-採用の時点ではあまりその部分を重視せず、チームに入ってきてから教育するイメージでしょうか。
大蔵氏:そうですね、採用ではあんまり見てないですね(笑)。それで落とす落とさないを決めちゃうと、全員落とすことになっちゃうので。あと「ああこの人凄い興味あるなー、でもちょっと人間的にやばそうだな」ってくらいのめり込んでる人もいるので、そのバランスですね。コミュニケーションはちゃんととれつつ、かつシステムにも興味があって凄い勉強してますっていう人が理想です。でも、なかなかいないので、なんとか育てて気付かせるようにしています。
-実際に今、気付かせるための試みは始まっているのですか?
大蔵氏:ちょこちょこやってはいます。ほんと超基礎的なところですが、なんでパソコンが計算できるかとか。スイッチだけで簡単な計算機を作ったり、小学校の理科の実験みたいなことをやっています。課外授業じゃないけど、業務時間外に参加したいっていう人達だけを集めてやってます。
9. スタートトゥデイ 大蔵氏の今後の展望は?
-では最後に、大蔵さん自身の今後のキャリアについてお聞かせください。CTOとしてどういう風になっていきたいと考えていますか?
大蔵氏:あんまりCTOという認識はないんですが・・・、さっき言った教育の仕組み作りですね。良くも悪くもあるんですけれど、強力な仕組みを作ってその枠組みで動いていれば、他に出して恥ずかしくないエンジニアが育つというような。本来のCTO的な取り組みというよりは、優秀なエンジニアをいかに育てる仕組みを作るかを考えています。もちろん、必要な技術開発は進めていますし、もっとディープな技術開発などもやっていきたいところですが、まずは事業会社の開発部門としての組織作りですね。
-エンジニアとしては、いかがでしょうか。
エンジニアとしては、やっぱりなんか極めたいっていうのはあります。初心に戻るってわけじゃないんですけど、実は家に帰ってからは本来やりたかった制御系の電子回路などを個人的にやっています。
-大蔵さん、本日はありがとうございました!
インタビュー後にデスクを見せていただきました。モノトーンで統一されていてカッコいい!
最後に恒例のツーショットをいただきました!ちょっと緊張しました!
ひとつの分野にとらわれず、オールマイティな視点でスタートトゥデイのサービスを支える大蔵氏。
成長を続ける開発チームとサービスに、今後も注目ですね。