アジャイル開発とは
アジャイル開発とは、従来の「設計→開発→テスト→リリース」という開発工程を短いサイクルで繰り返し、スピーディーに開発を行う手法です。アジャイル(agile)とは、「機敏・迅速」を意味します。
アジャイル開発では、開発する全タスクに優先順位をつけることで、MVP製品(Minimum Viable Product:実用最小限の機能を備えた製品)として必須な機能を優先して開発します。また、プロジェクトに修正はつきものであるという前提で進めるため、仕様変更に対応できる柔軟なプロジェクト進行をしながら、顧客要望を満たすことに重点を置いた開発手法です。
さらに、アジャイル開発は、早期段階で顧客と確認しながら開発を進めるため、大きな手戻りをするリスクが低いです。これにより、サービス提供開始までの期間を短縮でき、スピーディーな開発が期待できます。
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アジャイル開発の種類
アジャイル開発には、さまざまな開発の種類が存在します。代表的なアジャイル開発の種類には、スクラム、エクストリームプログラミング(XP)、リーンソフトウェア開発(LSD)、カンバン、適応的ソフトウェア(ASD)が挙げられます。
これらのアジャイル開発の手法は、それぞれ異なる特徴を持っており、プロジェクトの性質に合わせて適切な手法を選択することが重要です。以下では、これらのアジャイル開発の種類について解説します。
スクラム
スクラムとは、1〜4週間のスプリントと呼ばれる開発工程を複数回繰り返す手法です。一般的には少人数でチームを組み、開発を進めていきます。
アジャイル開発ではイテレーションと呼ぶ開発工程を、スクラム開発ではスプリントと呼ぶなど、両者は使われる言葉が異なり、スクラム特有のルールもあります。
スクラム開発のメリットは、より現場に即したルールがあるため、初めてのチームでもセオリーに従って進めることで導入しやすい点です。また、スクラム開発に関する実践的な書籍も多くあるため参考にしやすいでしょう。
エクストリームプログラミング(XP)
エクストリームプログラミングの特徴は「5つの価値基準」と「19のプラクティス」に重きを置く点です。基本的に、素早いリリースが必要とされる小規模な開発に適用されます。多くても10人程度の少人数チームを組む場合の手法です。
「5つの価値基準」とは、プロジェクトやチームのマインドとして大事にする基準のことで、「確約」「勇気」「尊敬」「公開」「集中」が定義されています。
「19のプラクティス」では、プロジェクトを成功させるための具体的な手法が掲げられています。たとえば、19のプラクティスの1つに、プログラマーが2名で一緒に実装を進める「ペアプログラミング」があります。ペアプログラミングは、1人がコードを書き、もう1人がすぐにレビューを行って異なる視点でコーディングを実施することです。問題やバグを検出し、コード品質を上げることを目的としています。
リーンソフトウェア開発(LSD)
リーンソフトウェア開発は、トヨタ自動車が採用・実施しているトヨタ生産方式をIT分野に応用した開発手法です。JIT(ジャスト・イン・タイム)を重視しており、クリティカルパスを把握して適切なタイミングで適切なものを提供することを目指しています。
厳密に定義された進め方はありませんが、下記7つの原則を念頭にソフトウェアを開発する手法です。
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1.無駄をなくす
2.不具合を未然に防ぎ、品質を高める
3.フィードバックから得た知識を蓄積・活用する
4.重要な意思決定を急がない
5.ソフトウェアリリースを迅速に行う
6.メンバーを尊重する
7.開発プロセス全体を最適化する
リーンソフトウェア開発の全体としての方向性は、無駄をなくすことです。不具合を未然に防ぐことも、意思決定を急がないことも、結果的には無駄の抑制につながります。
カンバン
カンバンとは、開発プロジェクトの進捗状況を視覚的に管理する開発手法です。「カンバンボード」と呼ばれるボードを用いて、作業の流れを可視化します。
このボードは、「To Do」「進行中」「完了」の3つのエリアで構成され、各作業の状況に応じて配置されます。タスクが完了したら、「完了」エリアに移動させることで、プロジェクトの進捗状況を一目で把握できるのがカンバンの大きなメリットです。
カンバンの特徴は、リアルタイムな状況把握が求められるアジャイル開発との親和性の高さにあります。プロジェクトの透明性を高め、効率的な管理を実現するために、カンバンは有効な手法だといえるでしょう。
適応的ソフトウェア(ASD)
適応的ソフトウェア(ASD開発)は、反復型アプローチと漸進型アプローチを組み合わせたアジャイル開発手法です。反復型アプローチでは、各工程を繰り返し改善していきます。
一方、漸進型アプローチでは、機能や部品ごとに開発工程を分類し、段階的に作成します。適応的ソフトウェアは、この2つのアプローチを融合することで、適応性の高いソフトウェア開発を行います。
この開発手法の特徴は、「リリース計画」「設計」「実装」「テスト」のサイクルを短期集中で繰り返しながら開発を進めることです。各段階に時間をかけすぎると開発が遅れてしまうため、短期間で集中的に作業を行い、良質な反復を重ねることで成果物の品質を高めていきます。
そのため、詳細が確定していない開発プロジェクトでも、柔軟に対応しながら開発を進められるのがメリットといえるでしょう。
アジャイル開発プロセス
アジャイル開発のプロセスとしては、まずプロジェクトの見積もりを行い、実施するタスクの計画を立てます。計画に沿って設計や実装、テストを行い、成果物を作成し、イテレーション終了です。
イテレーションが終了したらできあがった成果物のリリース、レビューを行います。チームメンバーでふりかえりを行い、次のイテレーションに向けて改善点などを話し合います。これら一連のプロセスを繰り返すことが、基本的なアジャイル開発の流れです。
以下では、アジャイル開発のプロセスの工程について詳しく説明していきます。ただし、アジャイル開発は種類によって多少プロセスが異なるため注意が必要です。あくまでも一例として参考にしてみてください。
見積
アジャイル開発の見積は、工数では行わない点が特徴です。ストーリーポイントと呼ばれる相対見積(フィボナッチ数)によって、各タスクの開発サイズをチームメンバーで見積ります。
ストーリーポイントは、タスクの相対的な大きさを把握しやすくし、プロジェクトの全体像を捉えやすくするため、アジャイル開発の見積に有効な手法だといえるでしょう。
計画
見積が完了したら、次のステップとしてタスクの詳細を明確にしていきます。各タスクの優先度や関連性を考慮しながら、どのイテレーションでどのタスクを実行するかを計画します。
この段階では、プロジェクトの全体像を把握し、効率的なタスク管理を行うことが重要です。タスクの優先順位付けや関連性の整理を適切に行うことで、スムーズなプロジェクト進行を行えるでしょう。
設計/実装/テスト
アジャイル開発では、設計、実装、テストを機能ごとに進めるのが大きな特徴です。開発者は、設計、実装、テストなどの各工程に専任で割り当てられるのではなく、必要に応じてそれぞれの役割を担います。
つまり、開発者は特定の工程に縛られずに、柔軟に役割を切り替えながら開発を進めていきます。この方式により、開発者間のコミュニケーションが円滑になり、機能の実装や問題解決がスムーズに行えるようになる点がメリットです。
リリース/レビュー
設計、実装、テストのプロセスが完了したら、次はリリースとレビューの段階に移ります。イテレーションが終わると、開発された成果物を関係者が確認できる環境にリリースし、レビューを実施します。
リリースとレビューは、アジャイル開発において重要な節目であり、次のイテレーションに向けた改善点の発見にもつながります。
ふりかえり
イテレーションの終了後、チームメンバーが集まってふりかえりを行います。ここでは、イテレーション中の成功事例や問題・課題などを共有します。ふりかえりの目的は、次のイテレーションで改善すべき点を明確にすることです。この継続的な改善プロセスを通じて、チームはプロジェクトの進行とともに成長することを目指します。
アジャイル開発とウォーターフォール開発の違い
ウォーターフォール開発は、要件定義から設計、開発、実装、テスト、運用までの各工程を順に完了させていく開発手法です。
要件定義や全体の詳細な機能や設計を固めてから開発に着手するため、開発を開始するまでに時間を要します。一方で、初期段階で全体が決まっていることから、プロジェクトスケジュールを確定しやすい点がメリットとしてあります。リソース配分などの体制や費用の確定など、事前に全体を設計しやすくなります。
アジャイル開発との相違点は、開発途中での仕様変更や追加対応がしにくいことです。ウォーターフォール開発では、開発の最終段階になってから、仕様に関して顧客との認識のズレが明らかになることがあります。いくつも前の工程に遡って開発を見直す必要があるケースも多く、追加費用が発生したり、開発の遅延につながったりするおそれがあります。
アジャイル開発では機能ごとの開発を小規模で繰り返すため、修正や設計の変更がしやすい点が特徴です。
アジャイル開発のメリット・デメリット
どの開発手法にもメリットとデメリットはあり、アジャイル開発にもメリットとデメリットがあります。導入を検討している場合はこれらをよく理解し、特にデメリットについては対策を行った上で導入を進める必要があるでしょう。ここでは、アジャイル開発のメリット・デメリットについて、それぞれ詳しく解説していきます。
アジャイル開発のメリット
アジャイル開発のメリットは、柔軟性のある開発と開発スピードのほかに、チームのスキルやモチベーションの向上が期待できるという点も挙げられます。
アジャイル開発では、アジャイルソフトウェア開発宣言を大前提に開発を行い、これを実現するためにさまざまなプラクティスが存在します。
たとえば、朝会やふりかえりもその1つです。これらにより密なコミュニケーションが行われるほか、ふりかえりでは自ら課題を発見し、チームで解決する行為を繰り返すことにより、チーム力の強化と自立した人材の育成が期待できます。
アジャイル開発のデメリット
アジャイル開発では、ストーリーポイントでの相対見積でイテレーション計画を立て、チームがイテレーション内で実施できるタスクの消化具合を見ながら毎回計画します。そのため、見積や計画に慣れが必要であることや、管理のハードルが高いことがデメリットといえるでしょう。
また、プロダクトオーナー(プロダクト開発の責任者)の要求がはっきりしなかったり、方向性に一貫性がなかったりする場合、開発の方向性がぶれて失敗しやすくなります。
デメリットをカバーするためには、アジャイル開発の経験者を中心に体制を組むことが効果的です。アジャイル開発の経験者がいない場合は、研修期間を設ける、プロジェクト全体の期間を多く取るなどの対策が必要となるでしょう。
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アジャイル開発に向いているプロジェクト
アジャイル開発に向いているプロジェクトは、要件の変更が多く発生するプロジェクトや短期間でのリリースを目指すプロジェクトなどが挙げられます。
また、顧客との密接なコミュニケーションが可能なプロジェクトは、アジャイル開発の良さが発揮されやすいでしょう。クライアントとのやりとりがスムーズであれば、それだけスピーディーに開発を進めることができます。
さらに、最初からやり方が決まっているプロジェクトよりも未知の領域に挑戦するプロジェクトほど、アジャイル開発に向いています。イテレーションごとにふりかえりをし、改善することでより良い成果物を作成できるでしょう。
アジャイル開発が注目される理由
アジャイル開発が注目されている主な背景には、ユーザニーズ・社会環境・テクノロジーなどの変化に素早く対応するために、ビジネスのスピードが上がっていることが挙げられます。また、最近では、アジャイルへの注目は開発手法にとどまりません。
近年のVUCA(ブーカ)といわれる、変動しやすく(Volatile)、不確実で(Uncertain)、複雑(Complex)な状況に対応するには、アジャイル的な思考が必要とされており、同様の手法がさまざまな考え方・進め方に使われることもあります。
アジャイル開発の代表例
アジャイル開発は、さまざまな業界や企業で採用され、成果を上げています。ここでは、アジャイル開発を導入した代表的な事例として、デンソー、鹿児島銀行、東京証券取引所の3社を取り上げて紹介します。
各社がアジャイル開発を採用した背景や得られた効果を知ることで、アジャイル開発のメリットをより具体的に理解することができるでしょう。
デンソー
デンソーでは、2017年からMaaS開発部デジタルイノベーション室を設置し、アジャイル開発の取り組みをスタートしました。センサーなどのIoT情報を活用したプロダクト・サービスをアジャイルで開発しています。
部門名であるMaaSとは、Mobility As A Serviceの略称で、モビリティ(交通)のサービスという意味です。アジャイルによるMaaS開発の背景には、カメラやセンサーなどからの情報をソフトウェアで処理して制御する、自動車のソフトウェア化の潮流があります。
従来、自動車は機械部品のかたまりとして見られてきました。しかし、近年では自動運転や運転サポートなどソフトウェアの比重が大きくなりつつあります。自動車へのソフトウェアの適用は日進月歩で進んでいるため、アジャイルによる開発が適しているといえます。
鹿児島銀行(Payどん)
鹿児島銀行のPayどんは、鹿児島銀行に口座を保有する顧客が利用できるキャッシュレス決済サービスです。完全キャッシュレス商業施設「よかど鹿児島」の新装オープンに合わせることが必須条件であったため、完成の遅延が許されない状況下でPayどんの開発プロジェクトが進められました。
厳しいスケジュールにも関わらず、アジャイル開発の採用によりオープンと同時にサービスの提供が実現しています。
東京証券取引所
東京証券取引所では、機関投資家の取引を電子化するためのプラットフォームを構築することになりました。しかし、東京証券取引所にとっては新しいビジネスであり、要件定義を確定できませんでした。
加えて、海外の競合サービスに対抗できるようスピーディーな立ち上げが求められたため、アジャイル開発が採用され、手法としてはリーン開発が採用されています。
アジャイル開発経験者の需要
IPA(独立行政法人情報処理推進機構)によると、近年では、業種を問わずDX化が進んでいますが、DXを進めるプロジェクトマネージャーの数は大幅に不足しているのが現状です。DXとアジャイル開発の進め方には高い親和性があるため、アジャイル開発経験者は多くの企業で重宝されるでしょう。
また、IT業界でのアジャイル開発プロジェクトの浸透も進んでいることから、アジャイル開発経験のあるプロジェクトマネージャー、エンジニアともに高い需要が続くと考えられます。
アジャイル開発に関するよくある質問
ここでは、アジャイル開発に関するよくある質問とそれに対する回答を紹介します。アジャイル開発に関するよくある質問には、アジャイル開発の意味やメリットなどが挙げられます。
また、「アジャイル開発とウォーターフォール開発はどちらが優れているか」といった質問も多いです。これらのアジャイル開発に関するよくある質問を理解することで、アジャイル開発についての理解がさらに深まるでしょう。
Q1. アジャイルな開発とは何ですか?
アジャイル開発は、システムやソフトウェアの開発プロジェクトで用いられる開発手法の一つです。小さな単位で実装とテストを繰り返しながら開発を進めていくのが特徴です。アジャイル開発を用いることで、従来の開発手法と比べて開発期間を短縮できます。
Q2. アジャイル開発のメリットは何ですか?
アジャイル開発のメリットは、開発途中で不具合が見つかった場合でも、スピーディーに対応できる点にあります。この手法では、小さな機能単位で設計からテストまでのプロセスを繰り返し実施します。
そのため、テスト中に問題が発覚しても、関連するイテレーションの工程を少し戻すだけで対処可能です。
Q3. アジャイル開発とウォーターフォール開発はどちらが良いですか?
プロジェクト開始後に変更が少ない予定で、計画通りの進行を重視する場合、ウォーターフォール開発がおすすめです。一方で、開発途中での仕様変更が予想される場合や、ユーザーのフィードバックを取り入れながら進めたい場合は、アジャイル開発が良いでしょう。
まとめ
本記事では、アジャイル開発の意味や開発プロセス、ウォーターフォール開発の違い、メリット・デメリットなどについて解説してきました。アジャイル開発とは、短いサイクルで設計からテストまでを繰り返し、柔軟かつスピーディーに開発を進める開発手法です。
アジャイル開発には、スクラムやエクストリームプログラミング、リーンソフトウェア開発、カンバン、適応的ソフトウェアなど、さまざまな種類が存在します。アジャイル開発のメリットは、変化に対応しやすく、開発スピードが速いことです。一方、見積や計画の難しさなどがデメリットです。
アジャイル開発に興味がある方、導入を検討している方は、ぜひ本記事を参考にしてみてください。
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