データサイエンティストが生き残るために必要なのは「本質を見抜く力」|小川卓氏x尾崎隆氏対談

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ここ数年話題の職種、データサイエンティスト。
一時はバズワードとして、頻繁にその名を目にした人も多いのではないでしょうか。

今回はそんなデータサイエンティストの「今後」をテーマにアマゾンジャパン株式会社 データアナリストの小川卓氏と
株式会社リクルートコミュニケーションズ データサイエンティストの尾崎隆氏による対談をお届けします。

今後生き残るデータサイエンティスト像とは。
データサイエンティストとしてキャリアを考えている方、データサイエンティストの採用を検討している方は特に必見です。

小川卓(おがわ たく)氏
アマゾンジャパン株式会社データアナリスト 小川卓の画像

アマゾンジャパン株式会社Mass Account Manager。
デジタルハリウッド大学大学院 客員准教授。
Webサイトやサービスの分析に長年携わる。
著書に『入門 ウェブ分析論 アクセス解析を成果につなげるための新・基礎知識』『ウェブ分析レポーティング講座』など。
個人ブログ 『リアルアクセス解析』 を運営。
リアルアクセス解析:>http://d.hatena.ne.jp/ryuka01/

尾崎隆(おざき たかし)氏
株式会社リクルートコミュニケーショズ データサイエンティスト 尾崎隆の画像

株式会社リクルートコミュニケーションズ Data Scientist。
元脳科学者の経歴をもつ。アドホック分析やアルゴリズムを中心に行う他、統計を用いたコンサルティングでも活躍中。
著書に『手を動かしながら学ぶ ビジネスに活かすデータマイニング 』がある。
個人ブログ『銀座で働くData Scientistのブログ』を運営。
銀座で働くData Scientistのブログ:>http://tjo.hatenablog.com/

-本日はよろしくお願いします。

小川氏・尾崎氏:よろしくお願いします。

-まず、今データサイエンティストに求められている役割について伺いたいのですが、実際のデータサイエンティストの仕事というのはどういうものなのでしょう。

尾崎氏:定量的なモデルを作ることだと思っています。

僕のいる現場では、いわゆる発注者である「ビジネスパーソン」の要望に対して、要件をきちんと整理して伝える「プランナー」みたいな人が間にいて。そういった人とよくコミュニケーションを取っています。
で、最終的に僕が要件に沿ってモデルを作っていくと。

たとえばアドホック分析であれば、僕のところでモデルを作って「こんな感じになりました」って話をして、使用方法をまとめたレポートまで作ってお渡しします。
これがアルゴニズム実装であれば、実際にシステムを作って回しちゃうんですね。普通に現場にコミットして。この辺は多分、エンジニアと変わらないんです。
エンジニアとデータサイエンティストで違う点は「裏っ側にあるのはモデル」ということですね。

ただ「データサイエンティストだからモデルを作るのか」って言えばそういうわけでもないんです。
今のデータ分析の枠組みって小川卓さんのような「上流で要件を作って設定して、実際に意思決定する」っていう層と、僕がいる「データで支配されたモデルを完全に作り上げる」っていう層とに分けられるのかな?という風にちょっと考えています。
 

1. コミュニケーションのポイントは「本質を理解しているか」

小川氏:「意思決定する層」と「モデルを作り上げる層」の間でコミュニケーションがうまくいかないとか、いわゆる齟齬とかって起きてますか?

尾崎氏:いやー、よく起きますね。

小川氏:いつもそこって、課題にあがるなって気がしていていて…やっぱりそれって、お互いの要望を理解していないからかと。

尾崎氏:お互いが歩み寄らないといけないですよね。お互いが本質を理解しているかどうかなんですよ。

コミュニケーションの本質の理解について語る尾崎氏の画像

2. 本質を理解するには、目の前のファクトにとらわれないこと

尾崎氏:例えば、ビジネス側のディレクターさんに結構高度な統計モデルを持っていく際、本質に対する理解がちゃんとできる方が相手だとすごく話が通りやすいんですよね。

「この広告の重みを計算しているんですよ」とか、「モデルでは自然成長の分を分離し、あくまでも施策の効果だけを見ているんです」というような話をした時にちゃんと理解してくれる人っていうのはやっぱり話がしやすいと。

逆にそんな話をしても「良くわかんないよ、結局何なの?」って言われると、なかなか難しい。

小川氏:なるほど。どうしたら本質を理解できるようになるんでしょうね?

尾崎氏:そこ、難しいですよね。ただ、一番大事なのは「目先のファクトだけにとらわれない」ことかなと思っています。

一般にファクトとして得られるデータって、たくさんの「ノイズ」が乗っていることがほとんどです。なので、無理やり追従させすぎると「オーバーフィッティング」つまり、ノイズに振り回されるばかりになってしまい、モデルとしては予測性能の悪いものができてしまうんですよね。

-モデルはノイズをちゃんと除去してから作るということですか?

尾崎氏:そうです。これは統計学の非科学的信念みたいなものなんですけど「ある真の値をうまく説明するモデルが、一番いいモデル」という風に言われています。なので、相手にも「ノイズまみれのデータの中に真の値がある」というところに気付いてもらえるといいですね。

小川氏:ビジネスの成長具合や施策の効果ってすごい求められますから、データのクリーニング工程や、分析に行く前のフェーズってやっぱりすごく大事ですよね。

尾崎氏:そうなんですよ。要は「ビジネス側の人材が裏側の本質っていうものをどれくらい突きつめる気持ちや意識があるか」って話になってくると思うんですよね。そういう人であれば、データ分析も活かせるだろうと。

で、そうなった時に小川卓さんのようなアナリストに入っていただいて、さらに、僕のようなデータ分析、統計学使う人間が同時に入って改良していくと物凄く成果が上がるんじゃないかなと思っています。だけど、どれか一個でも欠けてくれると結構ガタガタしてくる印象です。

小川氏:つまり、コミュニケーション齟齬が起こりやすいと。

尾崎氏:そうですね。

小川氏:結局は「結果を求めること」と「知りたいこと」のバランスですよね。

結果を求めるだけってのは「モデルなんてどうでもいいから売上を上げてくれ」っていう話になるし、知りたいってだけになると知るだけで終わってしまって、改善にはつながらないですからね。
結果を得る、あるいは伸ばすためにはやはり理解が必要なんだろうなって気はしてますね。

例えば「今ビジネスが結局どう成長していて、何が成長の要因になっていて、何がブレーキの要因になっていているのか」。そういったノイズを除いた上で、データを見ながらベストな施策を一緒に考えていけるといい気がしますね。

尾崎氏:そうですね。データサイエンティストっていう人種も、そこまで踏み込んでできるようになるとワンランク上の仕事ができるようになる印象がありますね。
そしてそのために「データサイエンティスト」にとってどうしても避けられない仕事の一つとして、「前処理」があります。
ひどいと工数の9割が前処理だったりして(笑)。
その意味では、データサイエンティストは「データマエショリスト」です、というのが正しいかもしれませんね。

3. 今後のデータサイエンティストの役割は?

小川氏:実はですね、データサイエンティスト以外の人間から見ると、データサイエンティストの能力の有無って正直わからないんですよ(笑)

尾崎氏:ははは(笑)

小川氏:「このモデルを使う人がすごい、すごくない」っていうのをちゃんと理解していない側からすると、今おっしゃっていただいたようにビジネス面での提案だとか、本質を理解してもらえるような説明や内容とかってのが大事な気がしてます。

尾崎氏:そういう意味で言うと、やっぱりビジネスの人材と、小川卓さんのような意思決定のアナリティクスができる人とデータサイエンティスト、3者がみんな本質を理解して共有していることが僕は大事だと思います。

小川氏:そこがあれば、そんなにぶれない気がしますね。

尾崎氏:裏を返すと、どんなに正確なモデルを作れるデータサイエンティストでも、本質を見逃していると訳のわからないモデル作ってしまいかねませんからね。そんなん作ってたら、「これ使えないじゃん、お前要らないよ」って言われてしまいます。

4. データサイエンティストの需要は二極化へ

ーでは「今後求められるデータサイエンティスト像」はどうなっていくのでしょうか?

尾崎氏:まず、データサイエンティストの需要そのものについては、以前に比べて落ちてると思うんですよね。
というのは、エンジニアコミュニティとか分析者のコミュニティの中では「終わった」ってみんな思っている状態で・・・。

小川氏:もうですか?やっていること自体の活動は終わってないイメージですが。
じゃあ終わった理由は?データサイエンティストを必要とする大手企業の採用が落ち着いたのか、これ以上採る必要なくて終わったのか…

尾崎氏:両方ですね。端的に言えば「僕のところに去年来てたスカウトメールが今年は少ないな」って感じです。あと面白いのが、去年は「うちにはデータサイエンティストがまだいないんです。ぜひきませんか?」って来てたメールが、今年になって「うちにはこんなにデータサイエンティストがいるのであなたもどうですか?」みたいな感じに変わってるっていう。

小川氏:分かりやすい(笑)いわゆる「一時的な流行り」は終わったと。

尾崎氏:そうですね。データサイエンティストの椅子の7割はもう埋まったんで、残り3割は良い人を入れましょうみたいな所に来ています。そういう意味で言うと、ブームは終わったけれども、カルチャーとしての定着は昔よりもっと進んでいるっていうイメージですね。だからその分、採用する側も凄くシビアに見るようになってて。それこそ「重回帰分析だけ分かります」みたいな人はなかなか今採用されにくいかなと。
そして問題はここからの「人落ち着いたけど、結果出せるんですか」っていうフェーズです。

小川氏:そこですよね。一番大変なフェーズですよ。

尾崎氏:これで結果を出したところは、今後もどんどん力を入れていくと思います。現在このフェーズにある会社はたくさんあります。ただ、それ以上に多いのはあんまり結果の出てない会社です。

小川氏:上に行くか下に行くか。二極化していくタイミングですね。

尾崎氏:そうなんですよね。

今後求められるデータサイエンティスト像について語る小川氏と尾崎氏の画像

5. 価値あるデータサイエンティストは「ビジネスにコミットできる」人

小川氏:尾崎さんから見た時に、二極化は何で決まると思います?

尾崎氏:それはやっぱりさっきの話に絡んできますね。

小川氏:「本質を理解するかどうか」ってところね。

尾崎氏:そう。データ分析やサイエンティストとして入ってモデル作る人たちが、本質を理解しているかどうかです。本質を理解しないまま自分の研究、もしくは開発みたいなところに自己目的化して没頭しちゃうと、結局価値が出ないんですね。やっぱりビジネスなんで「価値出してナンボ」っていうのが常につきまといますから。

小川氏:解析もそうですね。

尾崎氏:僕、元々は脳の研究をしていて…実は統計学も機械学習も本筋の専門じゃないんですね。なので今でも「果てしなく勉強し続けないと全然追いつかない」そういう状況でやっているんです。
でも、無軌道に勉強しているわけじゃないんですよ。やっぱり必要があって、この手法を理解してモデルに使えれば、きっと今持っている仕事、もしくはこれから振ってきそうな仕事に役に立つと思っているから勉強しています。

-統計を極めているから結果を出せる、とは必ずしも言えないんですね。

小川氏:多分、業界の中で我々より統計に詳しい人って確実にいっぱいいるはずなんです。
もっと統計に詳しい人、もっとアクセス解析を知っている人、より色々なGoogleアナリティクスを詳細まで知っている人、そういう人は結構いるとは思っています。

ただ、そこで勝負するとなるとすごく大変になるので、どっちかというとさっきの本質の話やビジネスにつなげられるようなスキルセットを勉強したりとか、授業の中で学んでいくっていうのが今の生きる道なのかなと個人的には思っています。

アクセス解析は業務の1割程度です。残りの9割は目標設定や考えるところとか、あと、実際のコンテンツを作るようなところ。なので、研究者みたいに「ここだけを突き詰める」というようなやり方だと、さっきの「結果出してナンボや」って時にきつくなってきますよね。だからこそ、コミュニケーションを通してお互いに本質を理解するとか、本質を理解した上で形にしていくというところがすごい大事な気はしますね。

尾崎氏:今、研究経験者とか大学院卒とか、あとドクターとか、そういった人達の参入がだんだん増えてきている印象があります。
でも彼らですらかつての僕と同じように、間違いなく壁にぶつかる時が来ると思うんですよね。で、そういったときに本質をきちんと理解し、そこに向かってちゃんとコミットできるか否かで彼らのキャリアプランも決まってくるんじゃないかと考えています。そして、ひいては業界全体、データサイエンティスト業界全体の見られ方も決まってくるんじゃないかなと。

小川氏:ビジネスとかでやるとしたらそこが大事だよね。

尾崎氏:そうなんです。
「ちゃんと本質をつかまえること」。結局それに尽きるので、本質をちゃんと分かっている人は何をやってもプラスになるんですよ。

小川氏:もしこれからデータサイエンティストの採用を考えるなら、本質がちゃんと分かるかどうかってのは、面接とかで確認できるほうがいいですね。もちろん「最低限のスキルやモデリングの能力はあると」いう前提での話ですけど。会社に貢献できるかどうかを判断するために「周りとどう協力してきたか」とか、「どういう風にコミュニケーションを図ってきたか」を見抜けるといいですね。

データサイエンティストの採用について真剣に語る小川氏の画像



一時的なブームが落ち着きつつあるデータサイエンティストが次に目を向けるべきなのは「どう結果を出せるか」と語る尾崎氏。

データサイエンティストに求められることが今後どう移り変わってくのか、今後の動向に注目です!

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