MATLABは数値計算処理やディープラーニングの分野で活用されている開発環境およびプログラミング言語です。先端IT人材の不足が危惧されている中で、データ解析やディープラーニング関連のスキルが注目されています。MATLABの知識とスキルを習得することで、ITエンジニアとしての価値を高められるかもしれません。
この記事では「MATLABとは?」「どんな言語か知りたい」という方に向けて、MATLABができることや類似の技術(Pythonなど)との違いについて解説します。
MATLABの学習方法や詳細な始め方もまとめているので、ぜひ参考にしてください。
- MATLAB(マトラボ)とは?
- MATLABで何ができる?
- MATLABの価格体系
- MATLABとPythonとの比較(難易度・価格面)
- MATLABとSimulinkとの関係性
- MATLABの学習方法
- MATLABの始め方
- MATLABに関するFAQ
- まとめ
MATLAB(マトラボ)とは?
MATLABは、一言で述べるならば「数値計算に最適化された統合開発環境」です。ただし、MATLAB内で使用される言語の名称でもあるため、プログラミング言語とも言えます。ここでは、統合開発環境とプログラミング言語という2つの側面からMATLABを解説していきます。
MATLABの概要
MATLABは、MathWorks社が開発した統合開発環境です。「matrix laboratory」の略称で、データ解析・アルゴリズム開発・モデリング・ディープラーニング関連開発などを行うための機能が集約されています。一般的には、「プログラミング環境+数値計算プラットフォーム」としての使われ方が多いようです。MATLABは、計算と可視化に強みを持ち、多言語との連携も可能という特徴を備えています。
統合開発環境としてのMATLABは、複数のツールを内包していることが特徴です。以下に、総合開発環境としてのMATLABに含まれる機能をそれぞれご紹介します。
データ解析
テキストやスプレッドシートなど外部のデータを取り込み、分析を行う機能です。データクリーニングや平滑化、グループ化に加え、記述統計なども可能です。
グラフィックス
2次元および3次元プロットの作成が可能です。グラフィックスを最適化するためのコード最適化機能も含まれます。
アプリケーションのアルゴリズム開発
スクリプティング用ファイルや関数が含まれます。また、クラス作成や各種ファイル操作も可能です。
ネイティブアプリおよびWebアプリ作成
MATLAB内に用意された関数を用いたプログラミングによるアプリ作成に加え、ビジュアルプログラミングツール「App Designer」を活用した開発も可能です。
多言語連携
MATLABはPython、Java、C言語、C++、.NETなどの言語と相互に連携することが可能です。こうした言語のライブラリを呼び出したり、相手方の言語からMATLABの機能を利用したりといった使い方ができます。
ハードウェア接続
研究機関の機器や、データ取得用機器、オーディオやカメラとの接続が可能です。
並列計算
マルチコアCPUやGPU,計算クラスターと接続して並列計算を行うことができます。後述するシミュレーションツール「Simulink」との連携で可能になる機能もあります。
アプリケーション配布
MATLABで開発したアプリケーションは、同じMATLABユーザーと共有することができます。また、パッケージとして配布することも可能です。
クラウドコンピューティング
MATLABでは、Webブラウザ上からMATLABを利用する「MATLAB online」という機能があります。また、ファイルストレージ機能やパブリッククラウド上での実行機能など、クラウドコンピューティングに対応した機能なども備わっています。
Toolboxへの機能追加
MATLABには追加機能をダウンロード・インストールするToolboxという機能もあります。必要に応じて追加機能をインストールし、いつでも使うことができます。
プログラミング言語としてのMATLAB
プログラミング言語としてのMATLABは、行列や配列処理を得意とする点が特徴です。一度にひとつの数値処理ではなく行列と配列全体を処理できるため、数値計算の分野では使いやすい言語といえるでしょう。また、コマンド入力によるソースコードの作成と実行、行列や配列の処理、データ型変換、演算子による演算、条件分岐など一般的なプログラミング言語が持つ機能も備えています。
MATLABで何ができる?
次に、MATLABができることを紹介します。MATLABはできることが非常に多いツールですが、その中でも特に注目に値する部分を抜粋して解説します。
ディープラーニングのアルゴリズム開発
MATLABでは、ディープラーニングを活用したアルゴリズム開発と、その後の処理プロセスを実装することができます。これを利用し、「歩きながらスマホを操作している人物を検知し、警告を出す」という機能も開発されています。具体的には、「ディープラーニングによる人物の検知」「歩きスマホか否かの判断(分類)」「警告表示」などのアルゴリズムが開発されています。
ディープラーニングとは
ディープラーニング(深層学習)とは、従来のAIよりも踏み込んだ知能を備えた機械学習のひとつです。具体的にはデータの背景にあるルール・パターンを自分で学習し多層的(ディープ)構造で考える方法が採用されています。
これにより、従来人間がAIに学習させるべきルール・パターンの指示を省略できます。人間の脳神経細胞であるニューロンを模したシステム「ニューラルネットワーク」がベースにあり、高性能であるためさまざまな分野で活用されています。
さまざまな数値計算処理
Toolboxに機能を追加することで、「統計解析、モデリングおよびアルゴリズム開発」「回帰、内挿、平滑化を用いたデータ曲線」などを行うことができます。MATLABは数値計算言語とも呼称するだけあって、数値計算処理に関する追加機能が豊富です。
レポーティングとテスト(Simulinkを活用した場合)
MATLABと同じくMathWorks社の製品である「Simulink」との連携により、レポーティングやテスト機能を利用できるようになります。Simulinkはシステム設計・シミュレーション・テストのためのグラフィカル環境で、MATLABとの連携でより使い勝手の良いシステム開発・シミュレーション・テスト環境が構築できます。
CおよびC++コードの生成
MATLABにはC言語とC++のコードを生成する機能があります。これは、「MATLAB Coder」と呼ばれるコーディングツールを用いることで実現できます。一般的なデスクトップアプリケーションから組込み用に最適化されたコードまで、幅広い用途に対応できるコードの生成が可能です。
MATLABの価格体系
MATLABは利用者がどのような組織で活用するかによって価格が異なります。以下の4つのプランについて価格体系を解説します。
-
・企業や官公庁・教育機関
・学生
・個人
また、Simulinkにやや機能が制限された「製品評価版」もあるため、一緒にご紹介します。
価格は2022年12月現在のものです。最新価格はMathWorks公式サイトを参考にしてください。
Standard
Standardは企業や官公庁、その他団体が利用する場合のライセンスです。
永久ライセンス (2年目以降保守サービスを利用するためには年会費が必要) |
300,000円 |
年間ライセンス | 120,000円 |
Educaion
Educationは大学など教育機関の研究者向けライセンスです。
永久ライセンス (2年目以降保守サービスを利用するためには年会費が必要) |
72,500円 |
年間ライセンス | 36,250円 |
Home
Homeは個人が非営利目的で利用する場合に選択できるライセンスです。政府・学術機関や商用利用はできません。
通常版 | 15,500円 |
Student
Studentは学生向けライセンスです。プロフェッショナル版(Standard、Education)と同じ機能を持ちますが、インターフェイスに若干の違いがあります。
通常版 | 4,990円 |
パッケージ版 | 9,990円 |
製品評価版
製品評価版とは、いわゆる「お試し期間」です。価格は無料で30日間評価版を利用できます。プロフェッショナル版では製品版・評価版に機能の差はありませんが、Homeと学生版ではSimulinkに以下の機能制限があります。
-
・モデル数が1000の非バーチャルブロックに制限される・アクセラレータ・ラピッドアクセラレータシミュレーションモードは非対応
・モデルブロックのシミュレーションがノーマルモードのみ対応される
MATLABとPythonとの比較(難易度・価格面)
MATLABとPythonができることは、大きな枠組みでとらえれば大差ありません。しかし両者には難易度と価格で差があります。
有償・無償 | 難易度 | |
---|---|---|
MATLAB | 有償 | 比較的高め |
Python | 無償 | 比較的低め |
まず、無償か有償化という点です。Pythonはオープンソースであるゆえに、原則として無償利用が可能です。これに対してMATLABは、原則として有料となっています。ただし、機能が制限された無料版(試用版)も存在するため、事前に使い勝手を確認することは可能です。
言語で難易度を比較すると、Pythonは習得しやすい分野といえるでしょう。さまざまなプログラミングタスクに使用でき、プログラミングを習得したい方が最初に触れる言語としても有名です。対してMATLABは工学的・科学的な問題解決への応用がしやすく、エンジニアが習得する言語としての認知が広まっています。
関連記事:
Pythonエンジニアの将来性は?JavaやRubyとも比較
Pythonエンジニアが担当する仕事内容やその開発分野とは
また、インストールのしやすさはPython側に軍配があがるでしょう。後述しますがMATLAB側の準備作業も特に複雑ではありません。しかし、Pythonは「ダウンロード・インストール・実行許可権限の付与」という3ステップですぐに使い始められるため、使用開始までのハードルが低い言語です。
ちなみに得意分野だと、MATLABは「線形代数の処理に強い」「行列やベクトルが扱いやすい」という強みが挙げられます。一方Pythonは、ディープラーニング関連の開発で事実上のスタンダードとなっている言語です。
関連記事:Pythonとは?できること・市場価値について詳しく解説!
MATLABとSimulinkとの関係性
MATLABとSimulinkは、どちらもMathWorks社の製品です。ただし、以下のような違いがあります。
-
・Simulinkはシステム設計、シミュレーション、テスト環境構築向け・MATLABは数値計算、アルゴリズム開発、データ解析向け
MATLABとSimulinkの連携によって統合開発環境としてのMATLABがさらに便利になるため、補完関係にある製品と考えて良いでしょう。
MATLABの学習方法
MATLABを動かし学びたい方向けに、学習方法を以下にまとめました。学習に役立つサイトや書籍をチェックしていきましょう。
MATLABの日本語サイトで学ぶ
MathWorksでは、MATLABの無料チュートリアルを公開しています。テキストは英語が基本ですが、MATLAB入門は日本語対応しているためチェックしてみるとよいでしょう。コースではビデオ解説とテスト・フィードバックが含まれており、自分のタイミングで学習可能です。この他にもディープラーニングやMATLAB基礎、複雑なデータの読み込みや可視化のコースも用意されています。
関連コースを受講する場合はMathWorksアカウントの取得が必須です。
MATLABの初心者向け書籍で学ぶ
MATLABの概念や基本的なことをまず知りたい場合は、書籍での学習がおすすめです。
-
・はじめてのMATLAB/著:北村達也・MATLABクイックスタート: 数式処理から機械学習まで/著:藤原 毅夫
・最新MATLABハンドブック 第七版 機械学習・ディープラーニング対応/著:小林一行
これらの書籍はある程度のプログラミング知識を持つ方なら、MATLABの理解を深めるために役立つでしょう。ただし、書名にもあるように何年に発行された情報かを確認するのがポイントです。古いノウハウやまとまっていない情報を載せる書籍ではなく、自分の知りたい学習レベルに合わせた本を選ぶようにしましょう。
MATLABの始め方
MATLABを始めるための最も初期的な動作であるインストールの方法や環境設定を解説します。
MATLABのインストール
インストールするにはMathWorksアカウントを作成する・サインインする必要があります。すでにアカウントを所持している方はメールアドレスを入力し、持っていない方は作成しましょう。
個人で使用する以外の企業や教育機関など団体利用の場合、代表の管理者のメールアドレスでサインインする必要があります。複数人で使う場合は、インストール方法を分かりやすく記載したガイドを作成するとスムーズです。
次に、インストーラーをダウンロードします。インストールにはネット接続が必要です。リリースバージョン、ダウンロードの種類、OSを選択するとダウンロードが開始され、インストーラーからMATLABをインストールしましょう。
MATLABのデスクトップ環境を日本語に変更
MATLABデスクトップは基本的に英語です。日本語、韓国語、中国語の翻訳対応がされているため、言語を日本語に変更し使ってみましょう。
デスクトップ言語を変更するには、
ホーム>環境>基本設定>MATLAB、一般>デスクトップの言語を選択
以上の手順を取ります。
MATLABのほとんどのデスクトップ要素・アプリではこの「デスクトップの言語」で指定したものが使われます。ただし一部の機能ではオペレーティングシステムの表示言語となるため、正しく意味が読み取れているか確認することをおすすめします。
また、デスクトップの言語変更はバージョンによって設定方法が異なります。MATLAB Answersではサポートスタッフが使用方法のFAQを公開しているため、参考にするとよいでしょう。
MATLABに関するFAQ
MATLABに関するFAQをまとめました。一つずつチェックしていきましょう。
Q1.MATLABで何ができますか?
MATLABができることはさまざまあります。中でも、ディープラーニングのアルゴリズム開発や数値計算処理、データ解析、Simulinkを活用したレポーティングとテストなどはは専門家からも評価される部分であり、MATLABを自由に使いこなすことができればエンジニアの強い味方になってくれるでしょう。
Q2.MATLABとPythonならどちらを先に学習すべきでしょうか?
MATLABとPythonはどちらもプログラミング言語で似ている部分も多く、どちらかを先に始めるかは一概に判断できません。
ただし似ている点が多いといってもPythonは無償でありMATLABは有償、難易度はMATLABの方が高めと考えるとPythonは比較的取り組みやすいといえます。実際にPythonから学習するエンジニアも多いため、総合的に考えて身につけやすい方から着手するのもおすすめです。
将来的にどちらも習得しておくと強みになります。
Q3.MATLABの語源はなんですか?
MATrix LABoratory(行列実験室)の略称です。名前の通り行列操作が得意であり、さまざまな理工学分野に利用されるだけでなく、産業分野にも幅広く利用されています。
Q4.MATLABの強みは何でしょうか?
汎用性が高く理系大学などで多く採用されているため大きなコミュニティがあり使いやすい、学習しやすさも強みですが「数値計算処理が早い」「グラフ・図の作成が簡単に行える」のは大きな強みです。
まとめ
MATLABとは、数値計算処理やディープラーニングの分野で活用されている開発環境およびプログラミング言語の名称です。先端IT人材の不足が危惧されている今、Pythonなどとあわせて習得しておくことで、ITエンジニアとしての市場価値を高めることにもつながります。
技術のキャッチアップはさまざまなシーンで役立ちます。この記事を参考に、MATLABの取得を始めてみてはいかがでしょうか。
ITエンジニアの転職ならレバテックキャリア
レバテックキャリアはIT・Web業界のエンジニア職を専門とする転職エージェントです。最新の技術情報や業界動向に精通したキャリアアドバイザーが、年収・技術志向・今後のキャリアパス・ワークライフバランスなど、一人ひとりの希望に寄り添いながら転職活動をサポートします。一般公開されていない大手企業や優良企業の非公開求人も多数保有していますので、まずは一度カウンセリングでお話してみませんか?(オンラインでも可能です)
転職支援サービスに申し込む
また、「初めての転職で、何から始めていいかわからない」「まだ転職するかどうか迷っている」など、転職活動に何らかの不安を抱えている方には、無料の個別相談会も実施しています。キャリアアドバイザーが一対一で、これからのあなたのキャリアを一緒に考えます。お気軽にご相談ください。
「個別相談会」に申し込む
レバテックキャリアのサービスについて