- 病院システムエンジニア(院内SE)とは
- 病院システムエンジニア(院内SE)の業務内容
- 【具体例】病院システムエンジニア(院内SE)のスケジュール
- 【求人例あり】病院システムエンジニア(院内SE)の年収相場
- 病院システムエンジニア(院内SE)きつい・つらいと感じること
- 病院システムエンジニア(院内SE)の将来性
- 病院システムエンジニア(院内SE)に必要な資格
- まとめ
病院システムエンジニア(院内SE)とは
病院システムエンジニア(病院SE)とは、医療機関に常駐し、院内のあらゆる情報システムの安定稼働を支える専門職です。その業務はシステムの企画・導入から、日々の運用・保守、職員からの問い合わせ対応まで多岐にわたるため、「院内のIT何でも屋」とも言える存在です。
医療系SEには、病院内で働く「院内SE」と、メーカーや開発会社で働く「医療システム開発SE」の2種類が存在します。この2つの職種の違いは以下の表のとおりです。
| 職種 | 勤務場所 | 業務内容 |
|---|---|---|
| 病院システムエンジニア (院内SE) |
医療機関 | 医療機関のシステムや ハードウェア、ネット ワークなどの導入、運用、 保守、管理 |
| 医療システム開発システムエンジニア (医療システム開発SE) |
システム開発会社 | 医療機関向けの システム開発 |
ただし、医療システムの導入はベンダー側が実施する場合も多く、病院システムエンジニア(院内SE)は導入後の運用や保守を主に担当することが一般的です。病院によってはベンダーと協力しながら導入作業を行う場合もあります。
このように、病院システムエンジニア(院内SE)は医療現場の情報システムを支える重要な役割を担う専門職です。
病院システムエンジニア(院内SE)の業務内容

病院システムエンジニア(院内SE)の仕事は「院内のIT何でも屋」と称されるほど多岐にわたりますが、大きく分けると以下の4つの柱で成り立っています。
ここでは、病院システムエンジニア(院内SE)の主な業務内容を紹介します。
それぞれ詳しく解説するので、参考にしてください。
1. システムの企画・導入・ベンダーコントロール
院内SEの専門性が発揮される、中核となる業務です。自ら開発するのではなく、システム開発会社(ベンダー)と現場スタッフの橋渡し役を担います。
具体例として下記のような業務を行います。
-
企画/要件定義
医師や看護師、各部門のスタッフから「こんな機能が欲しい」という要望をヒアリングし、システムで実現すべき要件として整理する。
ベンダーコントロール・システム改修の見積もりをベンダーに依頼し、内容と金額を評価・交渉
・導入プロジェクトのスケジュールを管理し、ベンダーと院内の調整を行う
・ベンダーが納品したシステムが、要件通りに動くかテスト・検証する
マスタ更新2年に一度の診療報酬改定など、制度変更に伴う大規模なシステム設定(マスタ)の更新プロジェクトを主導する。
2. ITインフラの運用・保守
日々、院内で使用するハードウェアやネットワークの運用・管理をするのも病院システムエンジニア(院内SE)の重要な業務です。電子カルテや検査システムはネットワーク経由で利用され、障害が発生すると医療現場全体に影響を与えてしまうため、24時間365日、安定して稼働し続けるための基盤を支えなくてはなりません。
具体的には、次のような業務を行います。
-
サーバー/ネットワーク管理
電子カルテや各部門システムのサーバーを監視し、定期的なバックアップやメンテナンスを実施する。ネットワークに障害が発生した際の一次切り分けと復旧対応も行う。
ハードウェア管理院内にある数百台のPCやプリンタの管理、新規導入時の設定(キッティング)、故障時の修理手配を行う。
医療機器との連携CTやMRIといった検査機器や、患者の生体情報を監視するモニターなど、医療機器と院内ネットワークの接続を維持・管理する。
3. ヘルプデスク/ユーザーサポート
医療現場の最前線で、職員をITの側面から直接サポートする業務です。診療や業務の遅延を防ぐため、現場のトラブルや要望を迅速に解決する必要があります。
具体例として、以下のような業務を行います。
-
問い合わせ対応
「ログインできない」「コピー機の調子が悪い」「操作方法がわからない」といった、職員からのあらゆるIT関連の問い合わせ対応する。診察中の医師から内線で緊急の問い合わせが来ることも日常的にある。
トラブルシューティングPCのフリーズやシステムの軽微な不具合に対し、原因を特定して解決に導く。
IT関連の教育/研修新規システムの導入時や職員の入職時に、操作説明会を実施したり、マニュアルを作成したりする。
医師や看護師はITのプロではないため、IT機器やシステムに関する基本的な内容の問い合わせも少なくありません。しかし、医療現場では軽微なトラブルであっても患者のケアに影響を及ぼす可能性があるため、迅速で正確な対応が不可欠です。
4. セキュリティ管理と情報資産の保護
病院が扱う電子カルテの情報は、氏名や病歴など、個人情報の中でも特に厳重な保護が求められる「要配慮個人情報」の集合体です。
近年、医療機関を標的としたランサムウェア攻撃などのサイバー攻撃は深刻化しており、ひとたび情報漏洩やシステム停止が起これば、患者の安全を脅かし、病院経営に壊滅的な打撃を与えかねません。
このような重大なリスクから情報資産を守り抜き、患者と病院の信頼を維持することは、院内SEに課せられた極めて重要なミッションです。具体的な業務内容は以下の通りです。
-
セキュリティ対策
ウイルス対策ソフトの管理、不審なメールへの注意喚起、外部からの不正アクセス監視などを行う。
資産管理・アクセス権限職員のアカウントを発行・管理し、役職や部署に応じてシステムへのアクセス権限を適切に設定する。
インシデント対応万が一、情報漏洩やウイルス感染などのセキュリティインシデントが発生した際に、被害を最小限に食い止めるための対応を行う。
【具体例】病院システムエンジニア(院内SE)のスケジュール

病院システムエンジニア(院内SE)の仕事のスケジュールを、実例をもとに紹介します。
それぞれ詳しく解説するので、参考にしてください。
日勤のスケジュール例
病院システムエンジニア(院内SE)の日勤の場合のスケジュール例を紹介します。
| 8:00 | 出勤 朝会の実施 残作業や問い合わせ内容の確認 その日の問い合わせ当番の確認 (当番の人は問い合わせ受け用のPHSを所持) |
| 通常業務 | |
| 12:00 | 休憩 職員食堂やカフェなどで休憩 |
| 通常業務 | |
| 15:00 | 課会 その日の業務内容や今後の予定、 申し送り事項などを課員と共有 |
| 通常業務 | |
| 17:00 | 退勤 |
参考:院内SEの業務日誌『院内SEの一日』
日々の業務は比較的ルーチンワークが多いものの、突発的なシステムトラブル発生時には、計画していた作業を中断し、緊急対応を余儀なくされることも少なくありません。
夜勤を含む当番業務のスケジュール例
病院システムエンジニア(院内SE)の当番業務の場合のスケジュール例を紹介します。
| 13:00 | 出勤 前日の当番の人からPHSを受け取り、 その日の問い合わせを受けるメイン担当となる |
| 問い合わせ対応 | |
| 15:00 | 課会 その日の業務内容や今後の予定、 申し送り事項などを課員と共有 |
| 17:30 | 休憩 |
| 問い合わせ対応 | |
| 22:00 | 退勤 |
| 自宅にて問い合わせ待機 (呼び出しがあれば対応が必要) |
|
| 7:00 | 出勤 当番2日目は出勤も早く、ほかの課員より早く来て 対応する必要があるトラブル内容によってはその日の 診療が始められない場合もあるので、緊急性が高い |
参考:院内SEの業務日誌『院内SEの一日』
当番業務も病院システムエンジニア(院内SE)の業務の1つです。医療機関の中には、休診日や夜間などの診療時間外でも、急患への対応を行っているところもあります。こうした医療機関に勤務する場合、システムトラブルや問い合わせに即座に対応できるよう、病院システムエンジニア(院内SE)も交代で待機や出勤する体制を整えています。
このような当番業務は体力的にも精神的にもハードですが、医療現場のシステムを24時間支える重要な役割です。一般的には、当番制によってローテーションが組まれ、スタッフ間で負担を分散させています。
【求人例あり】病院システムエンジニア(院内SE)の年収相場
レバテックキャリアに掲載されている求人では、病院システムエンジニア(院内SE)の平均年収は約400万円です。これはITエンジニア全体の平均年収504万円と比べると、やや低い水準です。
以下に、実際の求人例を紹介します。
【業務内容】
院内のSE/医療系のシステム担当をご担当いただきます。
具体的には、
・社内の基幹システムの保守、メンテナンス
・導入システムの問い合わせ対応
・各現場のシステムのトラブル対応
・キッティング作業
・セキュリティ周り
・社内システムを導入する際のベンダーとの窓口
【経験/知識】
<いずれか必須>
・SEとしての業務経験(年数不問)
・カスタマーエンジニアの実務経験
・導入エンジニアの実務経験
・社内ヘルプデスク業務経験
【資格】
基本情報技術者
【想定年収】
360~420万円 (給与形態:月給)
賞与:年2回(7月・12月)
昇給:年1回(4月)
【勤務時間】
08:30~17:00
・月平均残業時間:10~30時間
・所定労働時間:7時間30分
年収は360~420万円と決して高くはありませんが、所定労働時間が7時間30分とやや短いことから、効率的に安定した収入を得られる求人といえるでしょう。
このように、病院システムエンジニア(院内SE)の平均年収は約400万円と一般的なIT業界の水準を下回ります。ただし、実際の年収は病院の診療時間や夜勤の有無、勤務形態などの就業条件により異なります。
病院システムエンジニア(院内SE)きつい・つらいと感じること
病院システムエンジニア(院内SE)がきつい・つらいと感じることを3つ紹介します。
それぞれ詳しく解説するので、参考にしてください。
技術知識のない人への説明が大変
病院システムエンジニア(院内SE)の業務において、技術知識のない医療スタッフへのシステム関連の説明が負担となる場合があります。医師や看護師はITの専門知識がない場合が多く、専門用語を避けてかみ砕いた表現で伝えなければ、誤解や運用ミスにつながるおそれがあるためです。
たとえば、システムの更新が必要な理由や、トラブル発生時の対処法などを説明する際、技術的な背景を理解してもらいながら、実際の操作方法を簡潔に伝える必要があります。医療スタッフは多忙な業務を抱えており、また、ITリテラシーにも個人差があるため、限られた時間内で適切な情報を共有することは容易ではありません。
これらの理由から、病院システムエンジニア(院内SE)は、ITの専門知識がない医師や看護師へのシステム関連の説明が「きつい」と感じる場合があるのです。
トラブル対応によって夜間帯まで作業することがある
病院システムエンジニア(院内SE)が「きつい」と感じる業務として、トラブル対応による深夜作業が挙げられます。
夜間に緊急度の高いシステムトラブルが発生すると、夜間当番の病院システムエンジニア(院内SE)は自宅待機中であっても出勤して対応する必要があります。医療現場ではシステム停止が患者の安全に直結するため、即時対応が求められるからです。
たとえば、電子カルテシステムがダウンした場合、患者情報の確認ができなくなり、適切な治療が行えなくなるおそれがあります。また、検査システムの障害は検査結果の確認を遅らせ、診断の遅れにつながる可能性もあります。
このようなトラブルは、どんな時間帯に発生しても迅速に対応しなければならないため、身体的負担を感じる場合があるのです。
医療現場特有の人間関係の難しさがある
病院システムエンジニア(院内SE)は医療スタッフとの人間関係に悩まされる場合があります。医師や看護師は責任感が強い人が比較的多く、システムの不具合やトラブルが発生した際に、強く叱責されたり、厳しい指摘を受けたりすることがあるからです。医療現場では患者の生命に関わる業務が行われているため緊張感が高く、小さなトラブルでも重大な問題として扱われやすい傾向があります。
このように、病院システムエンジニア(院内SE)は医療スタッフとの人間関係に悩まされ、「つらい」と感じることがあるのです。
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病院システムエンジニア(院内SE)の将来性
病院システムエンジニア(院内SE)の将来性は高いと考えられます。医療のデジタル化が進む現代において、その専門性はますます重要になっているからです。
2022年には、医療分野でのDXの効率化や質の向上などを目的に、内閣に「医療DX推進本部」が設置され、厚生労働省による「医療DX令和ビジョン 2030」推進チームが発足されました。これは国レベルで医療のデジタル化を推進する動きの表れといえます。
電子カルテの標準化や、電子カルテ/電子処方箋の普及が進んでいるため、今後は各病院でシステムの導入や保守が不可欠です。また、AIやビッグデータを活用した医療の高度化も進んでおり、これらの技術を医療現場に実装するためには、医療とITの両方に精通した人材が必要です。
このように、医療業界でのIT人材の需要は今後さらに高まっていくと予想されます。特に、医療現場の業務フローやニーズを理解した上でシステム運用ができる人材は貴重です。そのため、病院システムエンジニア(院内SE)としてのキャリアは長期的に安定していく可能性が高いといえるでしょう。
病院システムエンジニア(院内SE)に必要な資格
病院システムエンジニア(院内SE)に必須の資格はありません。しかし、業務を円滑に進めるためには、以下のような資格が役立つといわれています。
| 資格名 | 説明 |
|---|---|
| 医療情報技師 | 病院でのシステム管理上、 必要かつ広範な知識が身につく |
| 診療情報管理士 | 業務上知りえる患者の個人情報の適切な 取り扱い方や診療情報を分析・活用する ための知識が身につく |
医療情報技師は、医療情報システムの企画・開発・運用・保守に関する知識と技術を有する人材を認定する資格です。医学・医療の基礎知識からITシステムの専門知識まで幅広く問われるため、病院システムエンジニア(院内SE)として活動する上で有用な資格といえるでしょう。
診療情報管理士は、診療記録の管理や分析に関する専門的な知識を持つ人材を認定する資格です。患者情報の取り扱いや個人情報保護の観点から、病院システムエンジニア(院内SE)にとっても役立つ知識を得られます。
そのほか、IT資格で役に立つ資格が知りたい方は「ITエンジニアにおすすめの資格・検定一覧!初心者向けに難易度などを解説」をご覧ください。
まとめ
この記事では、病院システムエンジニア(院内SE)の仕事内容やスケジュール例、年収相場、やりがいや大変さ、将来性などについて詳しく解説しました。
病院システムエンジニア(院内SE)は医療現場のIT化を支える重要な職種であり、電子カルテシステムやネットワークの管理、医療スタッフへのサポートなど、多岐にわたる業務を担当します。医療とITの両方に関わる専門性の高い職種であるため、やりがいも大きいです。
一方で、24時間体制の当番業務や医療現場特有の人間関係など、大変な面もあります。しかし、医療DXの推進により将来性は高く、社会的にも重要な役割を担う職種といえるでしょう。
病院システムエンジニア(院内SE)に興味がある方は、この記事の内容を参考に、自分のキャリアプランや適性を考慮して検討してみてください。
※本記事は2025年10月時点の情報を基に執筆しております