昨今のITエンジニア転職事情
ITエンジニアの転職は「大変」といわれる一方で、転職市場全体を見るとエンジニアを求める企業の数は年々増加しています。とくに近年は、IT人材の慢性的な不足やデジタル化の加速により、エンジニアの需要が拡大し続けています。
ここでは、最新のデータや職種ごとの傾向をもとに、現在のITエンジニア転職市場の実情を整理します。
IT人材は不足している
近年、IT業界では人材不足の傾向が続いており、経済産業省の「IT人材育成の状況等について」によると、2030年には最大で約80万人のIT人材が不足する可能性があるとされています。背景には、若年層の人口減少やIT業界全体の高齢化があり、今後もこの傾向は続くと見られています。
こうした状況を受けて、多くの企業が中長期的な人材確保を重視しており、エンジニアの転職市場は活発な状態が続いています。スキルや経験に不安があっても、意欲やポテンシャルを重視した採用を行う企業も少なくありません。
転職に踏み出すには不安もあるかもしれませんが、市場環境としては追い風が吹いているといえるでしょう。
求人数・求人倍率ともに売り手市場を示している
レバテックが発表した「ITエンジニア・クリエイター正社員転職/フリーランス市場動向 2023年12月」では、2023年12月時点におけるITエンジニア・クリエイターの正社員転職市場の求人倍率は12.0倍と、極めて高い水準で推移しています。正社員求人数は前年同月比129%、転職希望者数は173%といずれも増加傾向にあり、とくに転職希望者数の伸びは過去最高を記録しました。
これはエンジニア人材の需要が引き続き強いことに加え、転職を検討するエンジニアが増えている実情を示すものです。全体として、IT人材市場は依然として「売り手市場」にあり、企業側の採用意欲は高い状況が続いています。
実際に転職希望者数も大幅に増えており、エンジニアとしてのキャリアを見直す動きが広がっています。企業の採用意欲も高いため、求人情報の精査やスキルの棚卸しを早めに進めることで、より良いポジションと出会える可能性が高まるタイミングだといえるでしょう。
職種別ではPMへの需要が高い
エンジニア職種の中でも、企業からのニーズが特に高いポジションがあります。
2023年12月時点のデータによれば、正社員転職市場で最も求人数が多かったのは「PM(プロジェクトマネージャー)」で、求人倍率は133.3倍と非常に高い水準です。次いで「カスタマーサポート(29.5倍)」「社内SE(18.2倍)」と続きますが、PMの需要の高さは群を抜いています。
この背景にはプロジェクト数の増加に対して、進行管理やチームをまとめられる人材が不足しているという現場の実情があります。開発体制を強化したくても、即戦力のリーダー層が採用できずにボトルネックになっている企業も多く、マネジメント経験を持つ人材へのニーズは非常に高まっています。
一方で、PM未経験であっても設計や要件定義など上流工程の経験がある人材や、マネジメント志向のある中堅層に対しては、企業が将来のリーダー候補として採用を検討するケースもあります。市場のニーズを知っておくことで、自身のキャリア戦略やスキルアップの方向性を考える材料にもなるでしょう。
エンジニアの転職が大変な4つの理由
ITエンジニアの転職は売り手市場とはいえ「簡単ではない」と感じる人が多いです。実際の転職活動は思った以上に負担が大きくなりやすいのが実情です。
ここでは、エンジニアの転職活動が大変だといわれる代表的な理由を4つに整理し、あらかじめ把握しておくべきハードルについて解説します。転職の目的を設定したい場合は「ITエンジニアの転職目的とは?転職前に検討すべき観点を紹介」を参考にしてください。
未経験だと転職活動とスキル習得が合わせて必要
未経験からITエンジニアへの転職を目指す場合、「スキルを習得すること」と「転職活動を進めること」を並行で進めなければならないという難しさがあります。業界理解や技術習得に時間がかかる一方で、履歴書や職務経歴書の作成、企業研究、面接対策など、転職活動自体にも相応の工数が必要です。
すべてを一度に進めようとすると負担が大きくなりがちなので、可能であればスキル習得をある程度終えてから転職活動に集中する方が、効率的に進めやすくなります。とくに未経験からの転職では、事前準備と計画性が、成功率を大きく左右します。
スキル・専門知識が求められる
ITエンジニアは典型的な技術職であり、一定レベルのスキルや専門知識がなければ採用対象になりにくいのが実情です。特に中途採用では、即戦力としての活躍が期待されるため、やる気や熱意だけでは選考を突破するのは難しい場面が少なくありません。
実際、技術スタックや使用経験を明確に伝えられないと、書類選考の段階で不採用となるケースも多く、企業側としても採用後の教育コストを見込んでいない場合がほとんどです。転職を目指すうえでは、自分の技術スキルを客観的に整理し、業務にどう活かせるかを示せる状態にしておくことが重要になります。
実績・ポートフォリオが欠かせない
ITエンジニアの中途採用ではスキルや知識だけでなく、実績やポートフォリオがあるかどうかが重要な判断材料になります。企業側は採用後のミスマッチを避けるためにも、実務での再現性や成果のイメージができるかどうかを重視しています。
とくに未経験者やキャリアチェンジを目指す場合は、職務経歴で示せる情報が限られるぶん「何をどこまでできるのか」を客観的に伝えるポートフォリオが必要不可欠です。客観的に示せる実績がなければ、たとえスキルがあっても説得力に欠け、選考を通過しにくくなってしまうためです。
「スキルを身につける」だけでなく「見せられる形でまとめる」作業まで求められる点が、転職活動を難しくしている一因といえるでしょう。
業務と並行して転職活動をする必要がある
現職に就きながら転職活動を進める難しさはエンジニアに限ったことではありませんが、エンジニアの場合は業務の特性上その負荷はさらに大きくなりがちです。
開発業務は突発的な対応が発生しやすく、日々の作業密度も高いため、業務後や休日に十分な時間を確保するのが難しいケースも少なくありません。加えて選考では職務経歴書や面接だけでなく、ポートフォリオの提出や技術課題への対応が求められることもあり、準備すべき内容が多岐にわたります。
さらに、求人数が多いために企業ごとの見極めも重要になり、情報収集や企業選定にも相応の時間と労力がかかります。負担を少しでも軽減するには、優先順位を決めて準備を進めることや転職エージェントを活用して情報収集の効率を高めることが有効です。
業務と並行して転職を行うタイミングは「エンジニアの最適な転職タイミングは?成功させるポイントも解説」でも解説しています。
大変なエンジニア転職に向けてできる対策
エンジニア転職が「大変」といわれる理由には、転職市場の状況や専門職であるための準備が多い点が挙げられます。ただし、あらかじめ必要なステップを整理すると、効率よく対策を進めることは可能です。
ここでは、転職を円滑に進めるために有効な3つのアプローチを紹介します。面談や企業分析などの対策は「エンジニアの転職で欠かせない自己分析のやり方とは」を参考にしてください。
希望職種に対して求められるスキルと知識を身につける
希望職種に対してスキルや知識が不足している場合は、転職活動を始める前に必要な技術を計画的に習得することが大切です。フロントエンドやインフラ、PMなど、職種によって求められるスキルは異なるため、まずは応募先で必要とされる技術を明確にしましょう。
学習方法としては、書籍や資格取得のための教材、オンラインスクールや学習サイトの活用が挙げられます。実践的なスキルを身につけたい場合は、簡単なアプリを作る、コードを公開するなど、アウトプットを意識すると効果的です。
ITエンジニアによって求められるスキル・知識は多種多様です。すべてを完璧に習得する必要はありませんが、求められる最低限のスキルを満たせていれば、選考での通過率は大きく変わります。
希望職種に合わせた実績・ポートフォリオを作る
転職活動では職種ごとに求められる実績や、ポートフォリオの内容も変わってきます。たとえばWebエンジニアであれば、開発経験や使用言語に沿ったアプリケーションの制作、インフラエンジニアであれば構築手順や設定内容のドキュメント化など、職種に合ったアピール材料を用意することが重要です。
実績を示す方法として副業や学習案件での開発経験を積むほか、自主的に制作したアプリケーションやGitHubへのコード公開も有効です。企業側は「どんなスキルがあり、どのようにアウトプットできるか」を見ているため、形式にこだわるよりも内容のわかりやすさが重視されます。
やみくもに作品数を増やすのではなく、目指す職種と使用技術に合った内容を選んで、整理された形で見せることがポイントです。
転職エージェントを活用する
大変といわれがちなエンジニア転職こそ、転職エージェントを活用すると準備や情報収集の負担を大きく減らせます。職務経歴書の添削や面接対策、年収交渉など、個人では対応が難しいポイントをサポートしてもらえるのが大きなメリットです。
また、エンジニア特化型のエージェントであれば、技術スタックやキャリアパスに応じた求人の提案や、企業とのマッチング精度の高さも期待できます。非公開求人の紹介や、自分では気づきにくい強みの発見にもつながる場合があります。
限られた時間で効率よく転職を進めたい場合は、第三者の視点とサポートをうまく取り入れることも、ひとつの有効な手段です。
エンジニアの転職で成功率を上げるポイント

エンジニアとしての転職を成功させるには、単にスキルや実績を積むだけでなく、転職活動そのものを計画的に進める姿勢も欠かせません。エンジニア転職を行う前にできる、成功のための準備を2つのポイントにまとめて解説します。
転職のスケジュールを立てる
転職活動のスケジュールを決める人は意外と少なく、「気づけば数ヶ月が経過していた」というのも転職失敗例の1つです。情報収集や選考準備は特に後回しになりがちといえます。
活動時期の目安や応募開始のタイミングを明確にしておくことで、今やるべき準備がはっきりし、迷わず行動できるようになります。たとえば「3ヶ月後に応募を始める」と決めれば、逆算してポートフォリオ作成や学習計画を組み立てることも可能です。
転職活動をプロジェクトの一つと捉え、スケジュールを設定して管理してみましょう。計画的に動くと「大変な転職活動」の中でも無駄な消耗を減らし、行動を継続できるようになります。
キャリアプランを構築する
転職活動を成功させるには、「なぜ転職するのか」「次にどこを目指すのか」を明確にしておくことが重要です。キャリアプランが曖昧なままでは、応募先の選定軸が定まらず、ミスマッチにつながるリスクもあります。
たとえば「5年後にはマネジメントに挑戦したい」「専門性を深めたい」など、ざっくりとした方向性でも構いません。中長期のイメージを持つだけでも、企業選びの優先順位は大きく変わります。
また、面接では高い確率でキャリアプランについて問われますが、完璧な答えを用意する必要はありません。今の時点でどう考えているか、自分なりの方針を言語化しておくことが大切です。転職を一つのキャリア設計の機会として捉え、将来像の整理に役立ててみてください。
ITエンジニアの転職に関してよくある質問
ITエンジニア転職の大変さについて、よくある質問をまとめました。
Q1. 未経験からITエンジニアはやめておくべきですか?
いいえ、必ずしもやめておくべきではありません。ただし、学習や準備には一定の時間と努力が必要であり、求人数が多い・売り手市場だから「すぐに稼げる」「楽に働ける」といった期待は推奨できません。適性や目的を明確にしたうえで取り組めば、未経験からでも十分に目指せます。
Q2. 未経験からITエンジニアになると後悔しますか?
一概に後悔するとは言い切れません。事前の情報収集と職種理解があれば、後悔のない転職ができます。自分に合わない職場や業務内容を選ぶとギャップに苦しむこともありますが、逆に「手に職をつけたい」「技術が好き」という明確な動機があれば、満足度の高いキャリアにもつながります。
Q3. なぜITエンジニアはつらいと言われるのですか?
ITエンジニアは専門性が求められ、変化の早い業界で常に学び続ける必要があるからです。また、勤務先によっては長時間労働や急な仕様変更に追われる環境もあり、そうした経験から「つらい」と感じる人がいるのは事実です。ただし、職場を選べば無理のない働き方も十分に可能です。
ITエンジニアに進んだ場合のキャリア転職について、以下の記事を参考にしてください。
関連記事:ITエンジニアの転職は何年目が多い?転職成功のポイントを社歴別に解説
まとめ
ITエンジニアの転職は専門知識や実績が求められるため、一般的に「大変」というイメージをされがちです。特に未経験や実務経験が浅い場合は、スキルの習得やポートフォリオの準備に加え、転職活動のスケジュール管理なども重要になります。
しかし、計画的に準備を進め、転職エージェントのサポートなども活用すれば、成功率は大きく高められます。
転職を「自分のキャリアを見直す機会」ととらえ、焦らず段階的に取り組むことが理想の職場を見つける第一歩となるでしょう。