SIerの下請け構造とは
SIerの下請け構造は、建設業界のゼネコンに似た階層型の仕組みです。システム開発において、仕事が元請け(一次請け)から二次請け、三次請けと順々に流れていく構造のことを示します。
SIerの下請け構造では、商流の深さによって担当する企業や業務の分担が異なることが一般的です。元請けは、顧客から直接契約を受ける大手SIerが担当します。プロジェクト全体の管理や要件定義、基本設計などの上流工程を担当し、実際の開発作業の多くは下請け企業に委託します。
二次請けは、元請けから業務を請け負う中堅SIerが中心です。詳細設計や開発の一部を担当することが多く、さらに下流工程の作業を三次請け以下に発注することがあります。
三次請け以降は、二次請けからさらに業務を依頼される中小SIerや個人事業主などが該当する場合が多いです。主にコーディングやテストなどの下流工程を担当し、SES(システムエンジニアリングサービス)として技術者が派遣されることも少なくありません。
このように、元請け企業と下請け企業のあいだで業務が分担されることが、SIerの下請け構造の特徴です。
IT業界の多重下請け構造の問題点
下請け構造の中でも、下請けの層が何層にもわたって仕事が分散される構造を「多重下請け構造」と呼びます。IT業界の多重下請け構造の問題点は、以下のとおりです。
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・中間搾取によりエンジニアの報酬が上がりにくい
・責任の所在が分かりにくい
・エンジニア個人の技術力が評価されにくい
・労働環境が悪い場合がある
これらの問題は、エンジニアのモチベーション低下や業界全体の人材育成の停滞につながっています。たとえば、中間搾取による報酬の低下は、エンジニアの生活の質に直接影響を与えるだけでなく、自己投資や技術研鑽の機会を減少させる原因となります。
また、責任の所在が不明確な環境では、トラブルへの対応が後手に回りやすいです。その結果、プロジェクト全体の遅延や品質低下を引き起こす可能性があります。さらに、技術力が適切に評価されないことで、キャリアアップの機会が限られ、優秀な人材の流出にもつながりかねません。
このように、IT業界の多重下請け構造には、エンジニアの待遇悪化や責任の不明確さ、技術的な成長機会の不足などの問題があります。
多重下請け構造が起きてしまう理由
IT業界における多重下請け構造の原因は、主に発注元の事情とIT業界特有の技術的な背景が影響しています。
多重下請け構造が発生する主な理由は以下のとおりです。
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・正社員を抱えるよりも外注のほうが人件費を抑えられるから
・一社ではすべての技術分野をカバーすることが困難だから
・大規模プロジェクトでは多くの人員が必要だから
このように、発注元のコスト削減や、技術者・人員の確保の難しさなどが原因となり、IT業界の多重下請け構造が引き起こされています。
SIerからのキャリアアップにおすすめの職種
SIerでの経験を活かしてキャリアアップを目指す際のおすすめの職種を紹介します。それぞれの職種と理由は、以下の表のとおりです。
おすすめの 職種 |
業務内容 | 理由 |
---|---|---|
ITコンサルタント | IT面からの顧客の 経営課題の解決提案 |
上流工程のスキルを活かせる。 独立コンサルタントや経営層を目指せる。 |
PM、PMO | プロジェクト全体の マネジメントや支援 |
PLの延長線上にある職種で、 プロジェクト管理力を活かせる。 |
ソフトウェア エンジニア |
ソフトウェアの開発 | プログラミング経験を活かせる。 アジャイル開発やモダンな技術を 身につけられる。 |
インフラ エンジニア |
インフラの設計・ 構築・運用 |
特に、クラウド技術の需要が 高まっているため市場価値が高い。 |
社内SE | 社内のIT環境の整備・運用 | IT全般の知識を活かせる。 自社内の業務が中心なので、 労働環境が安定している。 |
これらの職種は、SIerでの経験を活かしつつ、より市場価値の高いスキルを身につけられます。選択する際は、自身の興味や適性、将来のキャリアプランを考慮することが重要です。また、転職前に必要なスキルや資格を計画的に習得することで、スムーズなキャリアチェンジが可能になります。
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SIerからの転職を成功させるためのステップ
SIerからの転職を成功させるためには、計画的な準備と行動が重要です。以下の5つのステップに沿って進めることで、効率的に転職活動を進められます。
それぞれ詳しく解説するので参考にしてください。
ステップ1. キャリアの方向性を決める
転職の第一歩は、自身の目指すキャリアの方向性を明確にすることです。方向性が定まっていないと、企業選びの軸がぶれてしまい、ミスマッチを引き起こす可能性が高まるからです。また、方向性が明確であれば、応募書類や面接で一貫性のあるアピールができます。
方向性を決める際のポイントは以下のとおりです。
-
・自身の適性や興味の分析
・市場動向や職種ごとの将来性の調査
・年収や働き方など、希望条件の整理
このようなポイントを意識して、自分のキャリアの方向性をしっかりと決めることが重要です。
ステップ2. スキルの棚卸しをする
次は、現在持っているスキルを客観的に評価し、整理していくことをおすすめします。スキルの棚卸しをすると、自身の強みやアピールポイントを的確に把握でき、自己PRや職務経歴書のスムーズな作成が可能です。また、不足しているスキルも明確になるので、今後の学習計画やキャリア戦略の参考にもなります。
スキルの棚卸しをする際には、以下の観点に沿って進めると良いです。
意識 する 観点 |
説明 |
---|---|
経験 | 経験したプロジェクトや自分の担当、 規模感、使用技術などをまとめる。 |
技術 | スキルレベルと使用経験、 保有資格などをまとめる。 |
成果 | 業務の成果や技術的な貢献、チームへの貢献 などをまとめる。定量的に示せる成果 があると説得力が増す。 |
このように、「経験」「技術」「成果」を意識してスキルを棚卸しすると、自分の強みが明確になります。その結果、転職活動を有利に進められる可能性が高まります。
ステップ3. 不足しているスキルを補強する
目指す職種に必要なスキルと現在のスキルのギャップを埋めることも、転職を成功させるための重要なポイントです。目指すキャリアに必要なスキルと、現在の自分のスキルとの差を埋めることで、選考通過率や転職後の活躍の可能性が高まります。
たとえば、SIerでは運用・保守業務が中心で開発経験が少ない場合は、個人開発やOSS活動を通じて実際の開発経験を積むと良いです。また、Web系の開発経験が浅い場合は、UI/UX設計やデータ分析の知識を身につけると役立つ場合があります。
目標とするキャリアに必要なスキルを意識し、積極的に学習・実践することで、よりスムーズな転職が可能になります。
ステップ4. ポートフォリオを作成する
転職活動で自身のスキルやプロジェクト経験を効果的にアピールするためには、ポートフォリオの作成も重要です。
特に、SIerの業務ではクライアントワークが中心で開発物を外部に公開できないことが多く、実績を示しにくいです。しかし、ポートフォリオを作成することで、自分のスキルを具体的に可視化でき、設計スキルや実装力を採用担当者にアピールしやすくなります。
ポートフォリオには、以下の要素を含めると良いです。
-
・自己紹介
・実際に開発した成果物が分かるサイトへのリンク
・使用した技術スタック
・開発プロセスや工夫した点の説明
・ソースコードを記載したGitHubなどへのリンク
SIerからの転職では実績を示しにくい場合があるため、ポートフォリオの作成が重要です。これらの要素を盛り込んだポートフォリオを作成して、転職活動を有利に進めましょう。
また、ポートフォリオの作成方法については、「システムエンジニアの転職で効果的なポートフォリオとは?」や「ITエンジニアのポートフォリオとは?作り方や参考例を紹介」を参考にしてください。
ステップ5. 転職活動を開始する
次は転職活動を開始しましょう。転職活動の手段は複数あり、自分の使いやすい方法を選択、あるいは組み合わせて進めることをおすすめします。
代表的な転職活動の方法は、以下のとおりです。
-
・転職サイトへの利用
・転職エージェントの活用
・企業の公式サイト内の採用ページの確認
・知人からの紹介
・SNSでの情報収集
上記の中でも、効率良く転職活動を進めるなら転職エージェントの活用がおすすめです。IT特化型の転職エージェントであるレバテックキャリアでは、専門のキャリアアドバイザーが、希望条件やスキルをヒアリングし、ぴったりの求人を紹介します。また、面接対策や応募書類の添削など、転職活動をスムーズに進めるためのサポートも充実しています。転職に関する小さな相談だけでも構いませんので、お気軽にご登録ください。
まとめ
この記事では、IT業界の多重下請け構造の実態と問題点、SIerからのキャリアアップ方法について解説しました。
SIerの下請け構造とは、建設業界のゼネコンに似た階層型の仕組みのことです。そして、下請けの層が何層にもわたって仕事が分散される構造を「多重下請け構造」と呼びます。この多重下請け構造は、中間搾取による報酬の低下や責任の所在の不明確さなどの課題を抱えています。
SIerからキャリアアップを目指す場合、ITコンサルタントやPM、ソフトウェアエンジニア、インフラエンジニア、社内SEなどの職種への転職がおすすめです。これらの職種は、SIerで培った経験やスキルを活かしながら、より市場価値の高いポジションへとステップアップできる可能性があります。
転職を成功させるためには、キャリアの方向性を定め、スキルの棚卸しと補強を行い、ポートフォリオを作成することがおすすめです。現在のIT業界は、新しい技術や働き方が次々と生まれており、キャリアアップのチャンスが豊富にあります。自身の強みを活かし、目指すキャリアに向けて一歩を踏み出しましょう。
※本記事は2025年3月時点の情報を基に執筆しております